※日経トレンディ2018年7月号の記事を再構成

2017年4月の発売から1年で1500万ケースを突破。安価なコンビニコーヒーに押されるなかで、大成功を収めたのが、サントリー食品インターナショナルのペットボトル入りコーヒー「クラフトボス」だ。従来の缶コーヒーでは捉えきれなかった若者や女性層をがっちりつかんだ秘策とは?

大塚 匠氏
ブランド開発
第二事業部 課長

2004年、現サントリースピリッツに入社し、「ジョッキ生」や「金麦」などを担当。10年から、現サントリー食品インターナショナルで新規ビジネスを担当。14年から、BOSSグループリーダー

 「クラフトボス」の着眼点の新しさは、“缶コーヒーNOサンキュー世代”である若者の働き方の変化を捉えたことにある。従来の缶コーヒーのボスは、現場で働く人が短い休憩時間に“覚醒”するための相棒として長年愛飲されてきた。しかし、今の若者にとって缶コーヒーはもはや古臭いイメージ。IT系などデスクワークが中心の働き方が増えるなかで、24時間常に働いている気分になりがちでもある。「そんな人に寄り添い、ゆっくりと時間をかけて飲める“新しい相棒”があってもいいと考えた」(サントリー食品インターナショナルの大塚匠氏)のが企画の発端だった。

 そのため、中身はコーヒーの苦さを我慢せずにすっきり飲める味に設計。容器は、コンビニコーヒーのようなフレッシュさを伝え、デスクに置いたときに心地よさや気楽さを感じられるよう、レトロなガラス瓶をモチーフにした透明ペットボトルを採用した。いずれも従来の缶コーヒーとは真逆のアプローチで、“別人格”を作り込んだ。

 その結果、新たに若者や女性が振り向いた。ボトル缶(ブラック)の30代以下の購入率は30%だが、クラフトボスはブラックで36.5%、ラテでは46.2%に上る。また、インスタグラムでクラフトボスの写真が多数アップされるなど、「ある意味、自分の柔軟性やファッション性を表現するためのツールとして広がっている」(大塚氏)という。

 今春、日本コカ・コーラをはじめ、競合各社がペットボトル入りコーヒーで追随するなか、クラフトボスの次の一手は「ブラウン」の追加だ。缶コーヒーの微糖タイプより甘さや苦みを抑えた設計で、あえて液色を商品名にした。「味の新しさを打ち出すとともに、ブラックでもラテでもないブラウンは、仕事における調和や落着きを想起できる。『働き方にはいろんなカラーがある』というストーリーで、仕事の多様性を肯定しながらシリーズを訴求していく」(大塚氏)。従来のセオリーに捉われず、時代や消費者の気分に近づく手法は、実に鮮やかだ。

若者や女性に支持されるヒットの法則

商品企画
【法則1】透明ペットボトルと重くない味で“缶コーヒーNG世代”に訴求
「缶コーヒーじゃないBOSS」として透明ペットボトルを採用し、苦みを抑えたライトな味わいに。若者や女性が手に取った
「缶コーヒーじゃないBOSS」として透明ペットボトルを採用し、苦みを抑えたライトな味わいに。若者や女性が手に取った
缶コーヒーのBOSSは、発売から25年以上。新規ユーザーの獲得が課題だった
缶コーヒーのBOSSは、発売から25年以上。新規ユーザーの獲得が課題だった
コミュニケーション
【法則2】新時代を迎えた職場を描き働く若者の共感を呼んだ
 テレビCMなどでは、“新しい風”をメッセージに、憧れも含めて現代の多様な働き方を描いた。これに若い世代が共感
次の展開
ブラックでもラテでもない! 「ちょうどいい」を新提案
 6月19日、シリーズに「ブラウン」を追加。ブラックにガムシロップとミルクポーションを1つずつ加えたイメージで、甘過ぎず飲みやすい。
審査員のコメント
鹿毛康司氏
缶コーヒーが現場のイメージをなかなか抜け出せないなかで、新たに「ITワーカー」というセグメントに着目した点が見事。オフィスで「ちょっと頼れる存在」としての寄り添い方もいい
入山章栄氏
ともすれば、「おじさん臭い」と感じてしまう缶コーヒーの文脈から一気に若返った

NIKKEI STYLE

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