座るときに姿勢をサポートしてくれる「腰当てクッション」(1999円、税込、以下同)
座るときに姿勢をサポートしてくれる「腰当てクッション」(1999円、税込、以下同)

 世界的な家具販売チェーン、イケアの日本法人、イケア・ジャパンが新商品シリーズ「OMTÄNKSAM/オムテンクサム」(以下、オムテンクサム)の販売を本格化する。このシリーズは、世界的に進む高齢化社会を背景に、人間工学に基づいて開発したもの。

 オムテンクサム開発プロジェクトの発端は、高齢化社会が急速に進む中、家庭での暮らしが高齢者に必ずしも親切なものではないこと、ケア用品が高額で、デザイン性に優れた商品が少ないことだったという。目指したのは、美しいデザインでありながら機能性に優れ、人間工学に基づいたデザインで自立した暮らしをサポートする商品。開発に当たっては、実際に介護者や、認知症患者などの声を参考にし、ケアをする側とされる側の双方の視点を重視したという。総開発期間は3年間で、そのうち初めの2年間はリサーチと構想に費やした。

 スウェーデン語で「思いやりがある」という意味のオムテンクサムは、滑り止め付きのランチョンマットや快適なサポートを提供してくれるクッション、瓶の蓋を簡単に開けられるキャップオープナーなど、日々の暮らしをより快適にする工夫を施している。他のイケアの商品と同様、このシリーズも、優れたデザインと機能を持つ商品を低価格でより多くの人々に提供するため、デモクラティックデザイン(イケア製品となるための5つの要素である、形、機能、品質、サステナビリティ、低価格)に基づいている。

 4月24日に発表した商品群に続き、今後数年間、オムテンクサムの商品展開を継続的に拡大していく。ただし、すべての商品を日本市場に投入するわけではなく、日本の消費者に合ったものを選別するという。

ソファに腰掛けたり立ち上がったりするときにサポートしてくれる「アームレストクッション」(2999円)
ソファに腰掛けたり立ち上がったりするときにサポートしてくれる「アームレストクッション」(2999円)
瓶の蓋を開けやすくしてくれるラバー製の「キャップオープナー」(149円)
瓶の蓋を開けやすくしてくれるラバー製の「キャップオープナー」(149円)
(左)「深皿滑り止め付き」(399円)。食器類は強化ガラス製で落としても割れにくい。底面にシリコーン製のリングが付き、テーブルに置いたときに滑らず安定する (右)「チェアクッション」(1999円)の裏側にも滑り止めが付いていて、椅子の上でずれない
(左)「深皿滑り止め付き」(399円)。食器類は強化ガラス製で落としても割れにくい。底面にシリコーン製のリングが付き、テーブルに置いたときに滑らず安定する (右)「チェアクッション」(1999円)の裏側にも滑り止めが付いていて、椅子の上でずれない
interview 開発に3年、リサーチと試作、テストを徹底

日経デザイン(以下ND) 新シリーズで担当した部分は?

ブリット・モンティ氏(以下、モンティ) 私はクリエイティブリーダーとして商品のコンセプトを決めたり、このシリーズを担当するデザイナーたちのディレクターを務めました。

ND 商品開発において心掛けたことは何ですか?

モンティ まず、機能性と安全性、デザイン性が高く、同時にロープライスを実現することです。機能性が良くてもデザイン性が悪くオールドファッションなものは作りたくありませんでした。機能性だけが良いものなら簡単にできますが、新しい試みとしてデザイン性も兼ね備えたものにチャレンジしたかったのです。

ND 機能性とデザイン性を両立させようと考えたのはなぜですか?

モンティ 私は基本的に、ホームファニッシングにおけるイケア独自の知識に基づいた商品作りにフォーカスしています。お客様の日々の暮らしにおける真のニーズを突き止め、そのニーズに対応する商品を開発担当者がデザインできるようサポートすることが、私の重要な役目の一つです。ただ単に物を作るだけではありません。私たちの目的は、「より快適な毎日を、より多くの方々に」というイケアのビジョンに基づき、他社とは明らかに異なるイケアらしい商品を提供することです。ですから、イケアらしいデザイン性も保持したかったのです。

 また、オムテンクサムのコンセプトの一つとして、「認知症の人と健康な人の夫婦にも使っていただきたい」というものがあります。健康な方でも違和感なく快適に使っていただけるよう、イケアらしいデザイン性も重要なのです。

ND どんな努力をされたのですか?

モンティ 高齢者に関する知識がなかったので、まず人間工学の専門家、介護の専門家、障害を持っている方々に徹底的にヒアリングしました。開発には3年かけましたが、初めの2年間はリサーチに時間を費やしました。商品開発において、50%は安全性や人間工学的に高品質なものにするために尽力しましたが、残りの50%は低価格やデザイン性を重視しました。そして、商品化するための試作品をたくさん作り、実際にテストしてもらい、そのフィードバックをまた試作品に反映するといった作業を何回も繰り返しました。私たちは「小さく作って大きく育てる」という方針の下、まずは少ないアイテム数から始め、徐々に商品数を増やそうと考えています。

ND 商品展開としては、どの国の市場を考えていますか?

モンティ 日本以外にスペイン、スイス、スウェーデン、オランダ、台湾、シンガポール、オーストラリアの8カ国・地域の限定した店舗のみでの展開となります。

ND 売り上げの点ではどの程度のボリュームを予想していますか?

モンティ 長期的な売り上げに貢献できると思います。アイテム数を増やしていくことで徐々に浸透していくといいと考えています。


ブリット・モンティ氏
ブリット・モンティ氏
イケア・オブ・スウェーデン
Range and Design部門クリエイティブリーダー

NIKKEI STYLE

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