地方に残る濃密な「おもてなし」
梶原「東京時代、渡辺さんが電話やLINEで『今、新宿なんだけど、時間ある?軽く一杯どう?』なんて飲み回っていたのより、よっぽど健全じゃないですか」
渡辺「そうかもしれません。そんな私をかわいそうだと思ってか、移住直後は、仕事終わりに『一杯どう?』って誘ってくれる人が結構いました」
梶原「なんだ、いいじゃないですか!」
渡辺「しつこいようですが、車社会ですから、『ちょっと一杯』のスケールが違います。仕事を終えたら、私も、うかがう先の人もそれぞれ自分の車を運転しお宅に向かいます。ご家族の皆さんと食卓を囲んで、誘い主である旦那さんと晩酌をご一緒して、その夜はお風呂をお借りし、用意してくれた寝間着に着替え、広い客間に延べていただいた布団に入って就寝。翌朝、お世話になった奥様、お子様、おじいちゃん、おばあちゃん、飲みに加わってくださったご近所の方々に見送られ、その家からそれぞれ自分の車を運転して会社へ向かう――みたいな感じです」
梶原「す、すごいおもてなしですねえ」
渡辺「最初は、ろくな手土産も持たずに出掛けた無礼をつくづく恥じました」
都会のドライな人間関係に慣れきった渡辺さんには、濃密なひとときをどう過ごしていいものか、戸惑いがあったことだろう。
移住先に進んでなじむ意識が重要
渡辺「こういう人間関係を面倒くさいと思う人は、移住に向かないと思いますね。私の場合は、営業マンとはまったく別の『農業』という世界で『思わぬ楽しみ』を見つけられたのだから、都会暮らしでは絶対に味わえない、豊かな対人関係を楽しんじゃおうと心に決めました。おかげで、充実した『移住5年目』を迎えることができたんだと思います」
「○○県に暮らしてよかった」「豊かな自然・乱舞するほたるの里△△」「手を伸ばせば届く海と山の恵み□□村」
移住案内にあるキャッチコピーや素敵な映像に最も反応を示すのは「氷河期世代の都会のサラリーマン」との声もあるらしい。
「転職としての移住」を志すなら、渡辺さんの教えてくれた「移住先での『軽く一杯』」は意外と軽くない」という教訓を胸にとどめておいたほうがよさそうだ。
※「梶原しげるの「しゃべりテク」」は毎月第2、4木曜更新です。次回は2018年6月14日の予定です。
