「コード付きのすべての掃除機の開発をやめる」──。2018年3月20日、英ダイソンのコードレス掃除機の新製品「ダイソン サイクロン V10 コードレスクリーナー」(以下、サイクロン V10)の発表会で、驚きの発言があった。それは、創業者でチーフエンジニアのジェームズ・ダイソン氏が発した一言だった。

「ダイソン サイクロン V10 コードレスクリーナー」の発表会に登壇した、創業者でチーフエンジニアのジェームズ・ダイソン氏
「ダイソン サイクロン V10 コードレスクリーナー」の発表会に登壇した、創業者でチーフエンジニアのジェームズ・ダイソン氏

 ダイソンが日本市場向けに開発した掃除機「DC12」(コード有り)を発売したのが2004年。14年を経た今、サイクロン V10の登場で同社の主力商品の掃除機はコードレスになったのだ。背景には、コードレスながら高い吸引力を実現した自社開発のデジタルモーターなど、さまざまな技術革新の歴史がある。

パワフルで小型軽量な新モーター

 サイクロン V10は、5年をかけて開発した「ダイソン デジタルモーター V10」を搭載している。従来の「ダイソン デジタルモーター V8」が毎分最大11万回転だったのに対し、V10は毎分最大12万5000回転。それでもV10のサイズはV8より小さく、重量は約半分の125gに抑えた。ダイソン氏は、「これまで、モーター研究に5100億円を投資した」と発表会で語った。

 プロダクトデザインの変更点は、コードレスの従来モデルがゴミをためるクリアビンなどが本体に対して垂直に付いていたのに対し、サイクロン V10 は水平に付いている点だ。これにより、ゴミを吸い取るクリーナーヘッドからクリアビン、サイクロン、モーターまでの空気が一直線的に流れ、さらなる性能向上に貢献。機能と見た目が1つになったプロダクトデザインは、ダイソンが得意とするところ。この新設計は、吸引力の高さを強調しているようにも見える。

 サイクロン V10のバッテリーは自社開発の「7セルのニッケル・コバルト・アルミニウム組成バッテリー」。コードレスの従来モデルに搭載したものよりもセルを1つ増やしながら、それぞれのセルを小型化することでバッテリーの総重量は変わらないという。技術革新の要となったモーターやバッテリーを中心に多くの部品を刷新し、高い性能と最長60分の連続運転を両立させた最新モデル。ダイソン氏は「これがすべての掃除機に取って代わる」と自信を示した。

ゴミを吸い込むクリーナーヘッドから、クリアビン、サイクロン、モーターを一直線に配置し、空気の通り道を直線にした新設計。見た目からも性能の高さが伝わってくる「ダイソン サイクロン V10 コードレスクリーナー」。幅250×高さ245×全長1232mm。2.58kg。7万5384円〜(消費税込み、ダイソン公式オンラインストアの価格、2018年4月13日時点)(写真提供:ダイソン)
ゴミを吸い込むクリーナーヘッドから、クリアビン、サイクロン、モーターを一直線に配置し、空気の通り道を直線にした新設計。見た目からも性能の高さが伝わってくる「ダイソン サイクロン V10 コードレスクリーナー」。幅250×高さ245×全長1232mm。2.58kg。7万5384円〜(消費税込み、ダイソン公式オンラインストアの価格、2018年4月13日時点)(写真提供:ダイソン)
発表会では他社製品との吸引力の持続性を比較するデモンストレーションを実施(写真提供:ダイソン)
発表会では他社製品との吸引力の持続性を比較するデモンストレーションを実施(写真提供:ダイソン)
発表会会場に展示した試作品。5年間の開発期間で作った試作品の数は2630台
発表会会場に展示した試作品。5年間の開発期間で作った試作品の数は2630台
interview エンジニアに聞いたダイソンの考え方

日経デザイン(以下ND) 新モデルで担当した部分は?

サム・ツイスト氏(以下ツイスト) 私が担当したのは「V8」で開発し、サイクロン V10にも搭載されている「ソフトローラークリーナーヘッド」です。掃除中、硬い樹脂素材のクリーナーヘッドが壁や床に当たることを日本のユーザーは嫌がっていました。かつ、大きなゴミも小さなゴミも取れなければなりません。しかし、大きなゴミを取るにはその分のスペースが必要で、小さなゴミを取るには大きな気流が必要です。この対立する2つをいかに成立させるかが課題でした。ソフトローラークリーナーヘッドにはモーターやギアボックスが入っており、高速回転しながら常に床に接地していることで、小さなゴミも大きなゴミも取ることができます。クリーナーヘッドと床との摩擦による静電気を発生させないように、ローラーの黒い部分にカーボンファイバーを使っています。これにより静電気を抑えて、小さなゴミも吸い取ることができます。

ND 商品開発においては、どの国の市場を重要視していますか?

ツイスト 特定の市場だけを重要視することはありません。部屋を掃除するのは、どこの国でも一緒だからです。しかし、日本市場に目を向けることが多いのは、日本のユーザーが高い品質やサービスを求めているため。畳でも床でも使えるソフトローラークリーナーヘッドは、もともとは日本の家庭環境向けに開発したものです。それが世界の標準仕様となり、海外でも気に入られています。英ダイソンのマルムズベリーにある開発拠点では、本物の畳の上で実験しています。

 ほかにも、日本のユーザーが実際に家庭でV8を使用している様子を観察し、クリアビンを見直しました。「こうしてもらいたい」という要望があったわけではありませんが、使用シーンを観察したところ、クリアビンにゴミ袋を付けてゴミを捨てるのが難しそうに見えたからです。従来の機構よりも、サイクロン V10ではクリアビンにたまったゴミを衛生的に捨てられる構造に改良しました。

ND エンジニアにとってダイソンとは?

ツイスト ダイソンでの仕事は楽しく、環境が素晴らしいですね。3Dプリンターなど最高の設備があって、好きなように試作品を作ることができます。3Dプリンターを使えば、金属やゴムといった素材で、機能を備えた試作品を作ることができ、それらを使ってさまざまなテストができます。テストは、硬い素材や表面が滑らかであるなど、完成品に近いものを使う必要があります。平面より3Dのほうが、学べることは多いです。

サム・ツイスト氏
サム・ツイスト氏
ダイソン カテゴリー インテリジェンス エンジニア

NIKKEI STYLE

この記事をいいね!する