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複雑で難しい印象のある漢方薬を、親しみやすく接客する(東京・江戸川)

複雑で難しい印象のある漢方薬を、親しみやすく接客する(東京・江戸川)

「膝に水がたまったとき、抜くとクセになるってよく言うでしょう?でもあれは炎症からくる熱を抑えるための体の自然な働き。そもそもの炎症を抑えれば、自動的に水は抜けていくというのが漢方の考え方で……」

自称「漢方オタク」の真崎真紀さん(57)は話し出したらとにかく止まらない。イオンリテールに入社して7年。担当するイオン葛西店(東京・江戸川)の漢方売上高は12カ月連続で全国で1位を保つ。

体格や体質、健康状態などによって、漢方薬の効き目は大きく異なる。真崎さんも「効くかどうかは究極的には飲んでみるしかない」と話す。しかし、それだけを伝えれば、客は購入に二の足を踏む。真崎さんが実践するのは「自分でいろいろ飲んでみて、効き目を確かめる」ことだ。

糖尿病の夫にも、冷え性の同僚にも協力してもらい、効果を聞き取る。「この間ちょっと風邪っぽいときにこれを飲んだんです。ものすごい発汗と下痢を一度して、それで治りました。悪いものを体からうまく出せたのね」。接客ではそうした体験談を盛り込む。

相談に訪れた客に記入してもらう「カルテ」。身長や体重、自覚症状といった基本情報に加え、「体格は筋肉質か、脂肪太りか、水太りか」「食べ物や味の好みは」「寝汗は多いか」「首や肩にこりはあるか」など、一般の健康診断より記入欄の項目は細かい。ひとつひとつ勘案しながら、適切な漢方薬を提案する。

百発百中とはいかないからこそ、再来店してもらったときは効き目がどうだったかの確認を欠かさない。購入にはつながらなくても売り場に足を運んでもらうため、無料の「足湯コーナー」なども設けている。

難しい印象のある漢方薬は飲める薬に制限のある妊婦には敬遠されることもある。一方、「妊婦だって風邪は引くし、冷え性や肩こりに悩む」。安心して漢方薬を使ってもらいたいという配慮からつくったのが妊娠・子育て中の女性向けコーナーだった。

もともと漢方に関する知識があったわけではなかった。勉強を始めたのは葛西店でたまたま、売り場の改装を機に漢方薬を大々的に取り入れることになったからだ。当時の真崎さんにとって、漢方薬は「普通の薬より高くて、長く使わないと効果が出ないイメージしかなかった」。

当初はマニュアルのような専門書を引いたり、メーカーの漢方担当者に電話をしたりしながらの接客。次第にその奥深い世界に引き込まれていった。自ら専門書を買い、社内のセミナーだけでは飽きたらず社外の研修にも通うようになった。

少しでも漢方薬を知ってもらおうと市販の風邪薬を手に取る客にも声をかける。「のどの痛みだけなら、熱やせきにも効く成分が入っている総合薬より、漢方という選択肢もありますよ」

接客が評判を呼び、新規の客が真崎さん指名で来店することもしばしばだ。「期待が高いと緊張する」とはいえ、「その人に合う薬を一緒に探すことに変わりはない」。万人に共通する正解がない漢方薬。誰もが迷うからこそ、一緒に探してくれる人の存在は代え難い価値になる。

(中川雅之)

[日経MJ2017年8月28日付]

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