こんなにある 働き方改革が1ミリも進まぬ意外な原因
第19回 変革を前に進める「フォースフィールド分析」
働き方改革が一向に進まない……
そう嘆く方に私から一つ質問があります。働き方改革という難題に取り組むくらいですから、過去からさまざまな改革を進めてきたことと思います。その中で、期待通りの成果を上げてきたものがどれくらいあるでしょうか。
こう言うと、ハッキリとした答えが返ってこず、口ごもってしまう人だらけになります。そうです、どんな改革だろうが、それをやり遂げるスキルやノウハウを持ち合わせていないのです。
働き方改革といっても、別に目新しいことをやろうというのではありません。長時間労働、生産性向上、人材活用、いずれをとってみても、ここ数十年言われ続けてきた話です。過去から取り組んできた人にとっては当たり前の話であり、「何を今さら」です。
ところが、人は同じことを続けていると飽きてしまいます。新鮮さがうせると身が入らなくなってしまいます。そこで、「TQM(総合的品質管理)」「経営品質」「ワークライフバランス」「働き方改革」「人材革命」といった新しい装いを施すのが大切になります。フレッシュな気持ちで取り組むために。
大切なのは、どんな冠をつけようが、改革活動を成果が出るまで粘り強くやり通す力です。それがなければ、どんなカッコよい旗を掲げても、途中でうやむやになってしまいます。その力とは、一体何なのでしょうか。
トップの本気度が問われている
すぐに思いつくのが経営トップのコミットメントです。
こんな話を知人から聞きました。働き方改革のリーダーを任され、素晴らしい提案をつくってトップにプレゼンをしたところ、「それをやっていくらもうかるんだ?」と言われ、萎えてしまったそうです。こんな意識ではうまくいくわけがありません。
こんな企業もあります。華々しく社長直轄の働き方改革プロジェクトを立ち上げたところ、集まったメンバーは賞味期限の切れたお荷物社員ばかり。トップの本気度が疑われ、誰もまじめに取り組もうという気にならなかったそうです。
どんな改革だろうが、組織を変えようとすると、必ず「推進する力」と「抑止する力」が働きます。トップのコミットメントは、あれば追い風になり、なければ向かい風になります。
こんなふうに、組織に働くさまざまな力を分析して、改革を前に進める方策を考えるのが、心理学者K・レビンが提唱したフォースフィールド分析です。
推進力を強め、抑止力を弱める
簡単に使い方を紹介しておきましょう。
中心に1本の線を引いて、現在のポジションを表します。その左側に改革を後押しする要因(推進力)を、右側に阻害する要因(抑止力)を書き出していきます。
このときに、個々の力の大きさを、矢印の長さや太さでビジュアルに表現します。そうやって、推進力と抑止力のせめぎ合いを直感的に理解します。
次にアイデア出しです。2つの力のうち、自分たちでコントロールできるものに着目しましょう。景気動向や規制緩和といった、コントロールできない力は議論するだけ無駄ですから。
まずは、抑止力のどれかをなくす、あるいは弱める方法を考えます。トップのコミット不足に対して、社長から全社員に激励のレターを出してもらう、といった具合に。
さらに、推進力をさらに強くするアイデアを考えます。最後に、新たに推進力として加える方策がないかを検討していきます。
その上で、真ん中の線がどれくらいまで目標に近づけられるかを考え、届かないようであればもう一度この手順を繰り返します。
働き方改革は企業文化の改革
フォースフィールド分析で大切なのは、表面的に働いている力だけではなく、目に見えない力や背後にある力を見つけ出すことです。
一例を挙げると、ある企業で働き方改革を分析したところ、抑止力に「トップのコミット不足」「従業員の関心の低さ」「評価制度の不備」などが上がりました。
では、なぜこれらの要因がリストアップされたのか。さらに深掘りして議論してみると、根幹にあったのが、滅私奉公を是とする「創業者の理念」でした。
こうなってくると完全になくすのは無理です。「滅私奉公は何のためにあるのか?」ともともとの意味を問い直し、今の時代にあった解釈に変えることで抑止力を弱めることにしました。
こんなふうに、組織には「企業文化」という名の目に見えない力が働いています。働き方改革とは、企業文化の改革に他なりません。
慣れ親しんだ仕事のやり方を変えようとすると、「うまくいくのか」(不安)、「面倒だ」(怠惰)、「それはおかしい」(抵抗)という声が必ず上がります。その壁をどうやって突破していくか。フォースフィールド分析を使って皆さんなりの知恵を絞ってみてください。