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セカンドキャリアのすすめ

資格取得者の不幸な勘違い 「士」はおまけに使おう

2018/2/14

公認会計士が会計以外も幅広くコンサルティングできれば、さらに頼られる存在に。 写真はイメージ=PIXTA

 私は「無職」で大学を卒業しました。今から30年ほど前、景気はよかったのですが、親は「どうして就職しないんだ」と嘆いていました。しかたがありません。その当時、私は公認会計士の試験を受験勉強中だったからです。大学4年で受けた初回の受験は落ちましたが、「来年はたぶん大丈夫だろう」という根拠のない自信もあり、そのまま就職活動をせずに卒業して夏の試験に向かったのです。

 結果は運よく合格できました。私がうれしかったのは当然ですが、「この先どうなるのだろう?」と息子を心配した両親のほうが喜んでいました。ふだんは無口な父親から電話で言われた「よくやった、おめでとう」というやさしい言葉は今でも忘れられません。

 そのとき、私も父親もわかっていなかったのです。「大変なのは合格のあと」ということが。

 最初どこかに勤めるにしても、いつかは独り立ちしたい――。そんなことを思い描いていました。しかし、公認会計士は大きな組織に属して働く人がほとんどであり、独立して成功している先輩は少数だったのです。

 20歳代はずっと「将来のイメージ」がうまく描けずにもんもんとしていました。その不安を振り払うべく外資系に入って死に物狂いで働いたのですが、運の悪いことに働きすぎで身体を壊してしまいました。胃潰瘍による吐血を繰り返し、数カ月にわたって入院を何度も繰り返す羽目に陥りました。

 こうなると職場から「社会人失格」のような目で見られます。それも自業自得です。職場を変え、身体はすこし元気を取り戻しましたが、それでも将来に対する不安感はまったく消えません。やけっぱちのような毎日でしたが、ある日、一筋の光が差し込む「事件」が起こったのです。

■「会計士さんですか!」と予想外に驚かれる

 そのころ、私は会計ソフトウエアの販売にかかわっていました。ある会社へうかがってソフトのインストールを行っていたときのことです。たまたま会社の「会計データ」を更新する作業を行っているとき、その会計データの異常に気が付きました。

 本来、「ソフトウエア業者」の私には関係のない話なのですが、そのデータについて「なぜこんな計算を行っているのだろう」という疑問が止まりません。失礼は承知ながら、担当者に聞いてしまったのです。「どうしてこの計算なんですか? これだと毎月異常値が出ませんか?」と。

 突然、「業者のお兄ちゃん」から質問された担当者の方は目を丸くしています。その顔には「君はいったい何者なんだ?」という警戒感がありありと浮かんでいます。

 私はこれはまずいと慌てて言い訳しました。「出しゃばってすみません。私、公認会計士なんです。どうしても計算が気になって」。

 すると、担当者は「えっ、会計士さんなんですか! ちょっとお待ちください」と言い残して、向こうへ行ってしまいました。数分後、彼は年配の上司を連れて戻ってきます。

上司「詳しく話を聞かせていただけますか?」

 しばらくその上司と話した後、「ご一緒に夕食でもいかがですか?」とお誘いいだたき、豪華な夕食をごちそうになりました。この経験は私にとって、その後の人生を左右するできごとになりました。

■資格を「おまけ」にする生き方

 会計士という「資格」を持て余していた私は、この日の出来事によってハッと目が覚めました。「会計士という資格を『おまけ』にすればいいんだ」と気付いたのです。

 「公認会計士です」ではなく、「公認会計士も持ってます」と言える自分へ。こう書くと同じに見えますが、これは全く違います。会計士として仕事を突き詰めるのではなく、田中靖浩個人として仕事を突き詰めていこう。そのうえで「会計士も持っています」と付け加えることができれば、意外に強いぞ。こう考えたのです。

 自分の仕事を固めたうえで、その「おまけ」として会計を位置づければ相当強力な武器になります。会計を必要としない会社・組織など世の中にありませんから。しかし、会計を「本業」に位置づけてしまうと、堅苦しくて嫌われることが多くなります。しかも最近はコンピューター、AI(人工知能)と競合関係になってしまうことも多くなってきました。

 「専門性をおまけにする」。これに気づいて私は自由になりました。やっと未来への視界が開け、「自分という職業」を生きていく決意が固まりました。それが苦難の道なのは承知ですが、20歳代だった私は何となくワクワクしました。

 「会計を捨てる」ということではありません。それはしっかり勉強します。ただ、あくまで主人公は自分であり、資格や知識は「おまけ」だということです。まずは商売人として自分の足でしっかり立つこと。それがあってはじめて、資格という武器が生きるのです。

 これは私だけの話ではなく、資格を目指す多くの人にとって、「専門性をおまけにできるか?」は「資格取得後の成功」の分かれ道になっている気がします。会計士であれ、弁護士であれ、医者であれ、ビジネスも人生も「うまくやっている人」というのは、その資格以前に「人として」魅力的です。彼らは決して資格に寄り掛かりすぎることなく生きています。そんな人たちと出会うたびに「見習いたい」と思うのです。

■資格に寄りかかりすぎないで生きよう

 私自身、専門学校で講師をつとめた経験がありますが、受験者たちには「合格・不合格」しか見えていません。しかし、「幸せ・不幸せ」は必ずしもそれとは一致しないのです。

 合格して不幸になるケースもあれば、不合格だけど幸せになるケースもあり得ます。講師の立場からは、試験の結果はともかく幸せになりなさいよ、と言うしかないわけですが、気をつけたいのは「合格しても不幸せ」というケースです。私自身がそうだったので、よくわかるのですが、合格したことによって「その仕事をするしかない」と視野狭さくに陥ってしまい、自分自身の夢や希望を見失ってしまう――。そんな人が意外に多いのです。

 せっかく勉強して取った資格に縛られるのはもったいない。そんな「資格のしっぽ」に縛られるのはやめましょう。

 資格は人生を切りひらく武器にもなるし、ときに人生を邪魔する地雷にもなります。会社を辞めても仕事ができるよう、難関資格を目指す人がこの国にはたくさんいます。そんな皆さん、資格に寄りかかりすぎてはだめです。ぜひ資格を味方に、自由多き人生を選び取ってください。

「セカンドキャリアのすすめ」は水曜更新です。次回は2018年2月21日の予定です。

田中靖浩
 田中公認会計士事務所所長。1963年三重県出身。早稲田大学商学部卒。「笑いの取れる会計士」としてセミナー講師や執筆を行う一方、落語家・講談師とのコラボイベントも手がける。著書に「良い値決め 悪い値決め」「米軍式 人を動かすマネジメント」など。

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