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序列のバランスを気にする習慣は、大企業では珍しくない。写真はイメージ=PIXTA

序列のバランスを気にする習慣は、大企業では珍しくない。写真はイメージ=PIXTA

私が講師を務めた「参加者が全員女性」のセミナーで、軽いカルチャーショックを受けたことがあります。数人で1組の島形レイアウトの会場で、彼女たちは皆、初対面にもかかわらず、すぐに仲良くなっているのです。それがなぜカルチャーショックかといえば、これは私が長年経験してきた「全員男性・初対面同士」のセミナーではまず見られない風景だからです。

男性同士の場合、まずは立ち上がってお辞儀をして名刺交換を行います。この儀式がないと始まりません。交換した名刺から社名や肩書などを確認しつつ、相手の年齢を推し量る。これでやっと「敬語を使うべき人」と「そうでない人」の区別ができます。そこからやっとおそるおそる会話が始まるのです。

このあたりの「一連の手順」を省略してしまうと、よそよそしい雰囲気のまま話が進んでしまいます。この危険を避けるべく、主催者や講師は冒頭に一連の手順を「ご案内」して差し上げることが多いのです。

でも、全員女性のセミナーは全く雰囲気が違いました。まず彼女たちは名刺交換などそっちのけで話を始めます。年齢が上だろうが下だろうが、どんな会社に勤めていようが、そんなことは関係なく、一期一会の対話を楽しんでいたのです。

ちなみにセミナー修了後、その場で仲良しになった者同士で飲みに出かけたグループもあったようです。主催者への信頼もあったとは思いますが、このフラットな雰囲気は私にとってかなり衝撃でした。

「タテ」の並びを気にする男たち

セミナーに限らず、男性同士が集まると、名刺交換によって「タテの序列」を確認しつつ会話するスタイルが多いように思います。サラリーマンが他の会社とミーティングするときに繰り広げられる、「向こうは事業部長が出るみたいだから、こっちも部長が出ないと、バランス上、まずいっすよ」といった「序列チューニング」の会話は「タテ意識」の典型的な例。男性は相手と「格」がそろっていないと、落ち着かない生き物なのです。

女性たちは、やれ部長だ課長だといった「序列チューニング」をあまり気にしない人が多いように思います。そんなことより、気が合うか人かどうか、共感できる意見をもった人かどうか。そんな「ヨコの共感」を大切にしている人が目立ちます。

あえて比較して表現するなら、「序列意識が強い男性的会話」vs「共感意識が強い女性的会話」といえるでしょう。

これはどちらが優れているというものではなく、あくまでスタイルの違いです。ただ、そこには向き・不向きがあり、ピラミッド型ヒエラルキー組織に向いているのは「序列意識が強い男性的会話」の一方、分散型ネットワーク組織に向いているのは「共感意識が強い女性的会話」のようです。

独立してうまくやるためのコミュニケーション能力

いつも社内で上下関係ばかりに気を遣っている人は、夜の飲み会で「無礼講でいいよ」と言われてもなかなか「目上と話す」スタイルから抜け出せません。また「上司にご追従」が得意な人のほうが出世しやすいものです。

人生の最後までずっとピラミッド会社に勤めるのであれば問題ないかもしれませんが、もし仮に会社を離れて独り立ちするのであれば、この「序列会話」の習い性を修正したほうがよさそうです。

この20年ほどの間に、独立開業そのものは本当にしやすくなりました。なぜなら、ちっぽけな個人でも仕事が取れる環境が整ったからです。その変化をもたらした最大の要因はやはりインターネットです。ネットを通じて意見を発信し、独立した仲間とネットワークを組むことができ、またお客さんと直接やりとりすることができるようになりました。これは本当に革命的な変化だったように思います。

私自身、大組織からの独立組ですが、独立当初はインターネットがなかったこともあり、仕事のほとんどはエージェントやその他の紹介によるものでした。それが今や多くの仕事依頼がメールやネットを通じてやってきます。

ただし、あくまで「独立しやすい」環境が整ったというだけの話で、それを仕事に結びつけられるかどうかは本人の実力次第。仕事を増やすためには専門的な能力を磨き、コミュニケーション能力も高めないといけません。最近の傾向としては、後者(コミュニケーション能力)の重要性がどんどん高まってきているように思います。

ピーピング上司がのぞき見したがるターゲットとは?

フリーランスがネットワークを組んで仕事することが増えた今、タテの序列会話ではなく、SNSのようなフラットな空間で「すぐに仲良くなって」「きままに話ができる」共感トークができることはとても重要です。

新たな場を立ち上げて楽しく仕事をしているフリーランスの多くは、この「フラットな共感トーク」が上手です。SNSでもそういう人の近くには同じく楽しげな人が集まります。そんな輪の中に入れるかどうか。残念ながら「元大企業からの独立組」にはこれを不得意にしている人が少なくありません。

それでもSNSで発言している人はまだいいほうです。50歳代を過ぎた私の知人(大企業勤務)の多くは、SNSに登録だけして、一言も発言をしていません。酒を飲むと分かるのですが、彼らは同じ会社の部下たちのやりとりを「じっと隠れて見ている」のです。そんな「ピーピング上司」にのぞき見される部下のほうはたまったのではありません。彼らは友人である私の書き込みも見ていて、飲み会になるといろいろ難癖を付けてきます。本当に困った人たち――。

「タテの会話」しかできない大企業グセを直すのは簡単です。年齢・性別・仕事の関係なく対話するフラットな共感トークをSNSで練習すればいいだけです。これができるようになると、各種のボランティアやマンション管理組合、PTAなど、「権力がきかない組織」での振る舞いがそれほど苦でなくなります。

のぞき見ばかりしているピーピング上司の皆さん、たまには立場を離れて部下に優しい一言でも掛けてみましょう。ただし、気持ち悪がられても責任は負いません。

「セカンドキャリアのすすめ」は水曜更新です。次回は2月7日の予定です。

田中靖浩
 田中公認会計士事務所所長。1963年三重県出身。早稲田大学商学部卒。「笑いの取れる会計士」としてセミナー講師や執筆を行う一方、落語家・講談師とのコラボイベントも手がける。著書に「良い値決め 悪い値決め」「米軍式 人を動かすマネジメント」など

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