出世ナビ

仕事人秘録セレクション

コネ切符なし、傲慢で成功 ななつ星、王さんも断る  成功の陰に笑いあり(13) 九州旅客鉄道会長 唐池恒二氏

2017/11/24

ななつ星の申し込みにはコネやつてを一切認めなかった(2013年10月15日)

 九州旅客鉄道(JR九州)の唐池恒二(からいけ・こうじ)会長の「仕事人秘録」。第13回は「ななつ星 in 九州」のデビューについて語ります。

――世界の王(貞治)さんの申し出も断った。

 コネやつては一切お断り――。スペインのレストラン「エル・ブジ」はマドンナのような著名人でさえも待たせます。そのこだわりが世界最高峰の地位を作りあげているのでは。心に留め置きました。

 2012年10月1日、「ななつ星」の予約受付の初日。石原進会長が相談に来ました。「香港の超VIP(最重要人物)が乗りたいと言っている。何とかなるだろう」。「会長、残念ながら公正な抽選なんです」と答えると、「君、そんなこと言ったってできるでしょ」と食い下がられましたが譲りませんでした。

 その2時間後、なんと次は王さんから「知り合いが乗りたい」との電話が! さすがに王さんは受けた方が良いのかなと思いまして。一晩寝ながら考えて、やっぱりお断りしました。これが良かった。東京の財界人からの申し出にも「世界の王さんでも断りました」と告げると、何も言えないですから。一人の例外も作らない。傲慢さがブランド価値を高めた気がしますね。

――人生も変える。

 「ネットに写真を流すのだけはしないでくれ」。ななつ星を製造する車両所では携帯の持ち込みを禁止しました。私が見に行った時は平気で撮って恨まれたけどね。試験走行時も黒いシートをかぶせながら運転しましたよ。隠すと見たくなるのが心情ですから。運行1カ月前に初めて本物をお見せした時には期待感が最高潮に達していました。

 ですが、そのころ裏側はまさに戦場。(デザイナーの)水戸岡(鋭治)さんは頑固で妥協しませんから5ミリでも設計からずれると怒るんです。家具や電気職人もこだわりがある。私でも近寄りがたかったですよ。運行2週間前の欧州メディア対象ツアーで完成したのは7割程度。責任を感じる水戸岡さんに「間に合わなかったらいいじゃないですか、腹をくくりましょう」と言うと、安心されて泣き始めまして。最も良い部屋は配電盤むき出しのままお見せしましたが、戦いの中で最高の列車ができあがりました。

 旅の始まりは乗車1年ほど前の当選連絡から。電話口から「おめでとうございます」とともに拍手を聞き、感激の涙を流すお客さまも。記念日の予定など乗車までのやりとりは20回以上。禁煙車と告げると「乗車のために1年間禁煙します」とのお答え。まさに人生も変えてしまう。出発日にお客さまを待ち構える、担当のツアーデスクはお土産をたくさんいただきますよ。

 運行開始1カ月のころ、由布院駅で停車するななつ星を見て、「いつか乗ろうね」とお子さんの頭をさするお父さんお母さんがいましてね。本当にうれしかった。別世界の道楽だと見捨てられやしないかと心配していましたから。

 社長がするお客さまのお見送りは今でも引き継がれています。出発日にある重要な会議は、お見送りに合わせて終わりますからね。会社の最優先事項ですよ。

[日経産業新聞2016年5月2日付]

仕事人秘録セレクションは金曜更新です。次回は2017年12月1日の予定です。

出世ナビ新着記事

ALL CHANNEL