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仕事人秘録セレクション

九州に豪華列車を 「ななつ星」の原点、28年前に  成功の陰に笑いあり(11) 九州旅客鉄道会長 唐池恒二氏

2017/11/10

西部劇にちなんで、あそBOYではウエスタン調の制服で接客した

 九州旅客鉄道(JR九州)の唐池恒二(からいけ・こうじ)会長の「仕事人秘録」。第11回は「ななつ星 in 九州」の誕生について語ります。

――話はいよいよ「ななつ星 in 九州」の誕生秘話へ。原点は、今から遡ること28年、営業課時代にあった。

 丸井での研修を終え、1988年にJR九州に戻りました。そこで手つかずで残っていた仕事を引き継いだのですが、その中に日本一周列車の企画がありましてね。熊本県を出発し東北まで行って帰ってくる。しかも出発は夏で期限はわずか半年。焦りましたが運が良かった。

 JR発足2年目でまだ国鉄時代の人脈が残っていてね。JR他社に頭を下げて何とか形にしました。品川駅では2時間も止めさせてもらいました。JR西日本や東海、東日本の線路を通る企画は今ではとてもできません。最初で最後の日本一周旅行ですね。

 並行してもう一つの企画が走り出していました。熊本駅と阿蘇地域の宮地駅間に13年ぶりに復活させるSL列車の名付け親になるようにという指示でした。私は「ネーミングの神様」と言われますが、ぱっとひらめく天才じゃないんです。しかも、神様はすぐに降りてこないときたもんだから大変です。「阿蘇に行って現地を勉強するところから始めるか」

――現地に赴いて、ひらめきが生まれる。

 阿蘇を高い所から眺めると、全く無知だと気づかされました。阿蘇は雄大な火山の印象が強いのですが、ほとんど火山なんて見えません。カルデラの中に小さな山があります。「人を包み込むような大地の阿蘇は女性なんだ」と直感。女性的な印象を抱かせるために、阿蘇を「あそ」とひらがなにしました。「これはいい」。まず、あそを列車名に入れるのは決まり。

 それから西部劇。阿蘇を眺めているとガンマンが打ち合う姿にぴったりにも思えてきた。世界的に有名な、かの黒沢明監督も映画「乱」で、ハリウッド映画のような合戦を撮影する舞台に選んだ地でもあります。「阿蘇は日本離れしたアメリカだ」。名機と呼ばれた国鉄8620形蒸気機関車、通称「ハチロク」は小ぶりな車体でした。なら、その印象からハチロクをボーイと呼んでみよう。SL列車の新たな名は「あそBOY」。命を吹き込んだ瞬間でした。

 あそBOYを走らせるだけでは物足りない。導入効果を地域に波及させたい。三菱商事と、阿蘇の60ヘクタールの土地に西部劇をイメージしたテーマパークをつくる構想も練りました。当時は営業の一課長。調査費1000万円を投じましたが「貧乏会社なのに訳の分からないことをするな」とえらく上司に怒られまして。結局は幻に終わり、残念でした。

 営業の1年間は後の大きな仕事のきっかけをくれました。旧知のアイデアマンと食事をともにした時のこと。「九州に豪華な寝台列車があるとヒットしますよ」と助言されました。その時からです。豪華寝台列車を考え始めたのは。その後も親しい人には話していましたが、社長に就任すると、長い間温めていた構想の実現へ動き出しました。

[日経産業新聞2016年4月27日付]

仕事人秘録セレクションは金曜更新です。次回は2017年11月17日の予定です。

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