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ガソリン注入口はなぜ左右まちまち 身近な謎解き 鈴木貴博 百年コンサルティング代表取締役

2017/11/9

自動車にガソリンを入れる給油口はメーカーやモデルによってばらつきがある PIXTA

 ここまでの訓練で読者のみなさんの頭も、かなり柔らかい頭に仕上がってきたのではないでしょうか。

 今回の問題は、まず左脳で何が起きているのかを整理して可能性を絞り込んだうえで、右脳で発想をジャンプさせて実際何が起きているのかを推測するような、柔らか頭のコンビネーションが求められます。

 ここでもう一度、この連載で皆さんが学んできたことをあらためて振り返ってみましょう。

 まず「謎を受け入れる心を磨く」訓練で、不思議な現象に直面したときに、それを頭から否定してしまうメンタルブロックの発動を阻止する訓練をして、頭を柔らかくして、謎解きに入れるようにウォーミングアップをしました。

 左脳を鍛える訓練では、論理的に問題の構造を整理するスキルを学びました。

 右脳を強める発想法の訓練では、3つの技術を手にいれました。つまり、ニュースから発想を盗む技術、違う仕事をしている人の視点を借りる技術、そして外国の常識から学ぶ技術でした。

 さらに他人の経験値を間接体験することで、どんなことが起きてもびっくりしないという境地に達するための訓練も済ませました。

 ここまでの訓練を通じて、固かった頭はかなりのところまで柔らかくなってきたのではないかと思います。

 さて、野球ではイチロー選手のように右投げ左打ちが有利と言われていますが、私はビジネスも同じだと思っています。

 ビジネスで右投げというのは、右脳でたくさんの発想を投げかける能力。この力が強いと、それだけ広い範囲まで考えを広げることができます。

 ビジネスで左打ちといえば、実際の打ち手を論理的に突き詰めていく能力。この能力が強い人は、思いつきではない、制約条件をクリアした実行可能なオプションがどれなのか、広げた戦略発想の風呂敷をきちんとたたんでいくことができます。

 この両方ができれば鬼に金棒です。

 生まれながらに脳が右利きだとか左利きだとか特徴があるものですが、実際のビジネスシーンではそのどちらかではなく、右脳で発想を投げかけて左脳で打ち手を考える右投げ左打ちができる人が圧倒的に有利なのです。

 せっかく右脳が柔らかくなっても、左脳が固くなってしまったらここでストップ。その逆でも先には進めません。両方の脳を柔らかいままで使いこなすことができるかどうかがここでは試されます。

 皆さんもどこまで柔らか頭で考えることができるでしょうか? ぜひ最後の難関に楽しみながら取り組んでください。

問題
 自動車のハンドルは日本では右ハンドル、アメリカは左ハンドルというように、その国の交通規制によって一定のルールがあります。ところがガソリンを入れる給油口は同じ日本の車でも右にあったり左にあったり、車によって向きはさまざまです。なぜ給油口は車によって異なる側に設置されているのでしょうか?

【ヒント】
実際、メーカーによってランダムなのですが、そのおかげで何かいいことがあるのですが、それは何でしょう?

■正解 ガソリンスタンドの給油効率がいい

 ガソリンスタンドでは車の給油口があるほうに車を誘導してくれますね。もしすべての車が左側に給油口がある仕組みだったら、スタンドの右側のレーンばかりに車が並んでしまって、順番待ちの列が長くなってしまいます。給油口のある側が左右半々であればスタンドの左右のレーンが使えますからそれだけたくさんの車に同時に給油できますね。ちなみに日産自動車の車の給油口はだいたい右側、ホンダは左側、トヨタ自動車は車種によってまちまちになっているそうです。規制がないことで生まれるメリットもあるのです。

 私自身の仕事、つまりビジネスの戦略を立案するという仕事を振り返ってみると、その多くの部分は頭を柔らかくして考えるという作業に依存していることにあらためて気づかされます。

 つい最近もこのようなことがありました。ある有望な商品の販売戦略を検討していたのですが、消費者テストの反応はいいのに、売れ行きはどうも芳しくない。

 よく調べてみると、その商品を買う人は必ず家族に相談するのですが、実際に買う人ではなくその家族が反対するある理由があることがわかりました。そのような構造があったから売れていなかったのです。

 これを戦略の専門用語でDMU(Decision Making Unit:真の意思決定者)が間違っていたケースだと表現します。購入する本人がDMUだとばかり思っていたら、実はその家族が強力な拒否権を持っていた。だから本当のDMUは家族のほうで、その家族に対するインセンティブを設計しなければこの商品は売れないのです。

 もし私の頭が固ければ、消費者テストが好調なのに売れない商品の理由には、ずっと気づかなかったかもしれません。それどころか売れない理由を、「コマーシャルの量が足りないからじゃないか?」とか、「流通チャネルが本気で扱ってくれていないんじゃないか?」などと他の方面にあらぬ疑いをかけていたかもしれません。そうではなく柔らかい頭で、「この謎を解いてやろう!」と問題に取り組むことができたからこそ、謎に気づくことができたのです。もっとも謎というものは、解けてみれば皆、簡単なことだったりするのですが。

 みなさんも困難な謎に突き当たってしまったら、この連載でトレーニングした方法論をもう一度振り返ってみたり、連載で取り上げた以外にも多数の問題を収録している拙著を活用していただければと思います。

[「日経Bizアカデミー」で2014年6月13日に公開した記事を転載]

「戦略思考トレーニング」は今回で最終回です。

鈴木貴博
 百年コンサルティング代表取締役。東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループを経て2003年に独立。持ち前の分析力と洞察力を武器に企業間の複雑な競争原理を解明する競争戦略の専門家として活躍。

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出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 896円 (税込み)

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