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CM撮影に駅や沿線に大勢の住民が集まって手を振った

CM撮影に駅や沿線に大勢の住民が集まって手を振った

九州旅客鉄道(JR九州)の唐池恒二(からいけ・こうじ)会長の「仕事人秘録」。第10回は九州新幹線の全線開業について語ります。

――九州新幹線のCMに沿線の2万人が参加

九州新幹線は整備新幹線の計画から約40年の悲願。2011年3月12日の全線開業に向けて、長年の思いをCMに乗せて全国に届けることにしました。

若手社員の発案で鹿児島中央駅から博多駅までの試験走行の際に、沿線から手を振ってくださいと呼びかけることに。新幹線は虹色に装飾し、沿線住民には衣装を着たりダンスをしたり思い思いの形で祝っていただきたかった。列車にカメラ十数台を載せ、上空や地上にもカメラを配置して準備を万端に整えました。

迎えた撮影日。新幹線の沿線には実に2万人もの人。ウエディングドレスの新婦、野球のユニホームを着た少年……。自発的に集まり喜んでいる。うれしさや期待感が伝わり、列車にいる社員やカメラマンは感動で涙がもう止まらない。3月9日からCMとして放映して評判になりました。

ですが、事態は一変しました。祝賀会の準備も最終段階を迎えた開業日前日、東日本大震災が発生。10分後にNHKを見ると大津波で街がのみ込まれる場面。1995年の阪神・淡路大震災以来の大災害だなと直感しました。

午後3時半、役員を招集。「これは国難だぞ。大変な犠牲者が出る」

午後3時45分。再び幹部を呼び、「日本でこれほどの災難が見舞われている。すべての式典を中止しよう」。状況は分からないうえ空振りになる可能性もあるが、今決めないと止められない。2年かけてきた準備が無になるが式典は絶対に駄目だ。様子を見ましょうという関係者もいましたが、断固としてやりませんと言いました。関係者の努力を思うと苦渋でした。

12日、出発式は中止。テープカットもありませんでした。博多駅は大勢の人で混雑していましたが、淡々と博多駅からの初便の出発を見送りましたね。

――CMが被災地を励まし

CMは放映から3日で中止になりましたが、ユーチューブの投稿で火がつきまして。3週間で300万アクセスも。コメントには「九州は新幹線に手を振る熱い地域。被災地も励みになる」。大震災で東北新幹線が復旧する時に沿線住民がCMに触発されて手を振るほど。そして、カンヌ国際広告祭で金賞を受賞することに。九州の思いが被災地を勇気付けたことが評価されてね。

熊本地震で新幹線が不通となり、このCMを流してほしいという声を聞きます。今回は当事者で難しいでしょう。代わりに出発式で披露する予定だった、新幹線の名前にちなむ幻のスピーチで気持ちをお伝えします。

「みなさん、"さくら"が咲きます。"つばめ"が舞います。"みずほ"が豊かに実ります」

[日経産業新聞2016年4月26日付]

仕事人秘録セレクションは金曜更新です。次回は2017年11月10日の予定です。

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