年をとるほど…頭は実は柔らかに? 視野を広げるコツ
鈴木貴博 百年コンサルティング代表取締役
年齢を重ねたほうが頭を柔らかく保てるのは、経験のおかげだ PIXTA
頭の柔らかさは経験に比例します。「ウソだろう? 歳をとるほど頭は固くなるんじゃないのか?」と思う人もいるかもしれません。しかし、考えてみてください。人間、40歳や50歳になったからといって、その年齢が原因で頭が固くなるものではありません。頭が固くなる原因は、年齢ではなく、毎日同じことばかりを体験していることからくるのです。
私がまだ若くて経験も少なかったころ、あるメーカーの戦略立案のチームに入って、その会社が行っている事業分野のひとつに関して、一生懸命戦略案を練っていたことがありました。
どちらかといえばその会社では傍流の事業で、市場には強いライバルが存在していたのですが、私には戦い方はあるように思えました。3カ月ぐらいの間、それこそ足で稼ぐように取引先や顧客の話を聞いて、その事業の将来性について必死で材料を集めたものです。
さあ、その材料をベースにいよいよ戦略を練ろうというときになって、私は上司に呼ばれました。
「ありがとう。君が集めてくれた情報でよくわかった。クライアントはあの分野からは手をひくことに決定したそうだ」
私は正直ショックでした。3カ月の間で仲良くなった社員や取引先の方々の顔を見ることができませんでした。経験が足りなかったため、私は勝手に、「いい情報を集めれば、それは競争戦略を立案する材料として使われるだろう」と思いこんで動いていたのですが、大企業の経営陣はそのような材料を、その分野にそもそも注力するか、それとも撤退するかを考える材料として使ったのでした。その部門はほどなくして、海外の大手に譲渡されました。
実はその後も、同じようなことを何度も経験してきました。そのたびに心が痛んだのですが、30代半ばを過ぎたころでしょうか、「何が起きても最近は驚かないな」と思う境地に到達していました。そのころには、部下がうろたえるたびに逆に励ます役割に、私の立場が変わっていたものです。
経験が少ないうちは狭かった視野が、たくさんの修羅場を経験していくうちに広がっていく。だから将来起きる可能性があることをいろいろと想定できるようになる。これは頭の柔らかさのひとつの重要な側面です。
さて、人間のよいところは間接体験から学ぶことができることです。自分の体験からしか学べない野生動物の場合は、修羅場をくぐって生き残らないと経験を貯めることはできませんが、人間の場合は、自分が体験しなくても他人の体験を聞き、深く理解することで、まるで自分が体験したことであるかのように経験値を上げることができます。
これが知識の力です。知識を増やす問題で、「そんな話は聞いたことがなかったよ!」とぜひ驚いてみてください。そのうえで、その驚きが新しい経験となることで、次に同じようなことに直面したときに、みなさんの頭が柔らかくその衝撃を受け止めることができるようになるのです。
缶ビールの形をよく見ると、缶の上の部分が少しずつ絞られていて、プルタブがある缶の上面の直径は缶の太さよりもかなり小さくなっていることがわかります。なぜ缶ビールはこのように上面が小さい設計になっているのでしょうか?
正解 上面の素材の方が価格が高いから
同じアルミでできている缶でも、側面の薄いアルミ素材と、上面の堅いアルミ素材では、違う特性を出すためにアルミに含有させる他の金属の含有率が違います。しっかりと蓋をする一方でタブを起こすと蓋が開くような特性を持つ上面のアルミのほうが、実はコストが高いのです。そのため少しでも缶のコストを下げるために上面の面積を小さくする工夫がなされているのです。強度の問題かと思った人も多かったかもしれませんが、それよりも経済性の問題のほうが大きいのですよ。
※「戦略思考トレーニング」は木曜更新です。
百年コンサルティング代表取締役。東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループを経て2003年に独立。持ち前の分析力と洞察力を武器に企業間の複雑な競争原理を解明する競争戦略の専門家として活躍。