スムーズな説得に力みは禁物 相手のメリットを提案

上司や同僚など、同じ職場内でも説得は欠かせない PIXTA
上司や同僚など、同じ職場内でも説得は欠かせない PIXTA

「説得」と聞くと、思うように相手を動かすというイメージを思い浮かべる人がいるのではないでしょうか? そのせいもあってか、自分の主張を強引に押し付けようとする人が少なくありません。しかし、そうした姿勢では相手の反発は避けられません。

強引な言葉や語気で無理に「イエス」と言わせることができても、不信感や警戒心を持たれる心配があります。会議や商談などであれば、力業での「説得」で一時的に「イエス」を引き出しても、その後の人間関係に亀裂が入り、仕事が思うようにはかどらない、協力を得られないなどの問題が生じる可能性が大です。

正しい説得とは、丁寧な説明を通して相手に「納得」してもらうことです。「説明」と「納得」で「説得」と覚えましょう。納得してもらえれば、相手がそのことを理解して自発的に行動するので、後になって仕事が滞るという事態を避けやすくなります。相手は進んで行動してくれるのですから、人間関係が悪くなる心配もありません。

もし説得を苦手と感じるのならば、「何が何でも説得してやる」という考えが自分の中に存在しているのではないかと疑ってみてください。そうした思いがあると、無意識のうちに言動に表れてしまい、相手は心を閉ざし、抵抗感が増すばかり。いつまでたっても「説得下手」のままです。

説得を行うときには、相手側にとって「納得できる根拠」が必要です。根拠とは「売り上げが上がる」「人気が高まる」といった、数字が読めるものだけでなく、「共感」や「協調」など、心理的な満足感が得られるものでも構いません。

その際、注意を払う必要があるのは根拠に正当性があるかです。数字が読めるものとしては、官公庁が出しているデータや権威のある団体が発表している資料など、信頼性が高いものを示しましょう。そのうえで「営業部で実験的に行ったところ、休眠会員の掘り起こしに成功しました」といった、データだけではない成果も添えると、さらに効果があります。それらは説得力を高める助けになります。

メリットの強引なアピールはかえって疑念招く

心理的な満足感を生み出すには、説得する人の「話し方」がポイントになります。説得を急ぐあまり、早口でまくし立てる。得られるメリットばかりを強調する。こんな物言いはかえって疑念を呼び覚ましてしまいがちです。「私が勧めることに間違いはない」とか、「今、イエスと言わなければ損をする」というような、過信や脅しを印象づける物言いもタブーです。

メリットの「押し売り」は避けて、穏やかな口調で語りかけたい PIXTA

むしろ、焦らないで穏やかに語りかけましょう。メッセージの伝え方でも、先方にとって役立つ、有益という点を押し出すほうが聞き手の耳にチャーミングです。自分の利益だけを求めているのではないという態度が肝心です。

大事な点は単なる演技や作り物ではない、「納得してもらいたい」という気持ちを固めてから話し始めることです。こちら側にしっかりした信念があれば、自然と話し方に余裕が生まれます。自信に満ちた表情で、ゆったりと分かりやすく話すように心がけましょう。そうした語り口や物腰がそろえば、「この人の言うことならば間違いない」「話をもっと聞いてみよう」と、心理的な満足感が働き説得は成功しやすくなります。

プレゼンテーションや商談であれば、視覚に訴えるのもお勧めです。図やグラフ、表などを使用することで、相手は具体的にイメージしやすくなります。文字や言葉では伝わりにくい部分でも、視覚を伴えば、理解が進みます。ただし、プレゼン用ソフト「パワーポイント」の操作に不慣れだったり、ビジュアルに依存して解説口調になったりすると、相手の気持ちは離れてしまうので、提案の中身や自分のスキルと相談して使うようにしましょう。

後ろ向きの情報は先に、前向きな情報は後から

説得を試みようとすると、マイナスの部分についてはあまり触れたくないと考えがちです。メリットばかりを押し出して、先方の印象をよくしようと努めるのは、自然な気持ちでしょう。「この商品は必ずヒットします」とか、「お客様に絶対支持されます」とか、調子のいい言葉を並べ立てたくもなります。

それらは商品やサービスへの自信を示す言葉ではありますが、逆効果になることもあります。なぜなら、この世に「必ず」とか「絶対」といえる完璧なものは存在しないからです。メリットをアピールしすぎると、「誇大ではないか?」「データの改ざんがありそう」などと、余計な勘繰りを受けかねません。

メリットを伝えることは「説得」に不可欠ですが、やたらと強調しすぎると、かえって警戒されてしまうので、程度をわきまえましょう。私が説得を行う際には、デメリットも隠さず伝えています。その際、意識しているのは、まずマイナスの情報を伝え、プラスの情報で締めくくるという「マイナス・プラス話法」です。

たとえば「この商品は従来品よりも高価ですが、耐久性や利便性が優れているので、むしろお得だといえます」という調子です。デメリットはあるけれど、それ以上のメリットがあると伝えるわけです。こうした伝え方をすれば、誠実な印象を与えられる分、納得してもらえる可能性が高まります。

次回は「ひと声」でその場の空気を変え、相手の心をつかむ方法です。お楽しみに!

「臼井流最高の話し方」は水曜更新です。次回は11月8日の予定です。

臼井由妃
ビジネス作家、エッセイスト、講演家、経営者。熱海市観光宣伝大使としても活動中。著作は60冊を超える。最新刊は「今日からできる最高の話し方」(PHP文庫) 公式サイト http://www.usuiyuki.com/
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