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間違いを厳しく責め立てると、人間関係にひびが入りかねない PIXTA

間違いを厳しく責め立てると、人間関係にひびが入りかねない PIXTA

会話をしているときに相手の間違いに気づくことがあります。そんな場合は訂正すべきか、受け流すべきかを考えてしまいます。他愛もないおしゃべりならば、受け流しても問題は生じないでしょう。しかし、仕事に関わる間違いをスルーしていたら、取り返しのつかない事態に陥る可能性もあります。

上司や同僚から、間違った内容を聞かされた場面をイメージしましょう。お得意様の会社設立記念祝賀会で、上司である営業部長が祝辞を述べることになりました。「こんな話をするのだ」と、祝賀会を前に上司はあなたに伝えました。「橋下(はしした)社長、会社設立80周年、おめでとうございます。80年という節目の席にお招きにあずかり、心より感謝致します」

ところが、実は「橋下」と書いて読みは「はしもと」。大切な取引先である社長の姓を、上司は間違えて記憶していたのです。こんなミスに気付いたら、瞬間的に「部長、それ、間違っています!」と、口に出してしまう人もいるでしょう。名前を間違えられるほど嫌なものはありません。それも付き合いの深い会社の営業部長が間違えるなんて、かなりの大失態。相手に失礼にあたり部長も恥をかくのですから、間違いを指摘すべきです。

しかし、即座に「部長、それ、間違っています」と伝えることは、相手の気分を害する可能性もあります。こういう発言で相手を不快にさせるのは、損な話。間違いを指摘すること自体は正しくても、相手を不快にさせるのは得策とはいえません。

まずは受け入れて、間違い指摘は言い添える

ここで必要なのは、いったんは受け入れる姿勢です。先の発言を私が耳にしたら、まずは「なるほど。創立80年を迎えるのですね」と伝えます。「なるほど」というひと言を、添えるだけで発言者には「自分の話をきちんと聞いてもらえている」という満足感が生じます。「なるほど」は共感や協調を示す言葉ですから、雰囲気が和み、その後の会話もスムーズに運びます。その下地をつくってから、間違いを指摘するのです。

間違いを指摘する際は、穏やかな雰囲気を醸し出しながら「質問」を活用するのがコツです。たとえば「私の記憶では、はしもと社長様なのですが、いかがでしょうか?」。あるいは「私の記憶違いかもしれませんが、はしもと社長だと思うのですが?」というような言い方をします。

すると、相手には疑問が浮かびます。「あれ? そういえば」。こんなふうに思考を整理し確認を行い始めます。相手は間違いを指摘されたのではなく、あくまで「自分で気づいた」という格好になりますから、恥をかいたとか、否定されたとか思わずに、自ら間違いを正すことができます。

相手のプライドを傷つけない指摘は敵を増やさないうえでも重要だ PIXTA

相手のプライドを傷つけない指摘は敵を増やさないうえでも重要だ PIXTA

誰だって勘違いや記憶ミスはあります。それは避けようがないことです。だからといって、頭ごなしに「それは違う」と指摘されたら、気分を害するのが人の常。間違いを指摘する際には「自分が言われて不快になる言い方をしないように」と心得ましょう。

プライドを傷つけない「クッション言葉」でやんわり促す

先に述べたような質問をしても、こちらの意図に気づいてもらえなかった場合には、クッション言葉を活用して、一歩踏み込んだ発言をするのがおすすめです。意図に気づいてくれないからといって「部長は勘違いしています!」と言い放つのではなく、「まことに恐縮ですが」や「私の勘違いでしたら申し訳ありませんが」「実は私も勘違いをしておりまして」というように、本題に入る前に、発言トーンを柔らかくし相手への気遣いを示す「クッション言葉」を前置きとして活用します。

ビジネスの場では、正誤を言い切るのが正しい選択ではない場合も多いものです。相手のプライドを傷つけてしまえば、相手が逆恨み的に怒りを抱くこともあります。相手が立場や権威などへのプライドを重視する人であれば、間違いを正した側が損をするという理不尽な事態にもなりかねません。

だから、ビジネスの場では、出会う人は誰もが「プライドを重視するタイプ」とみなして、接するのが賢明です。「間違いをストレートに正して、何が悪いのか?」「そんなプライドはおかしい!」と思う人もいるかもしれませんが、相手のプライドをコントロールすることはできません。さりげなく相手の間違いを指摘するのは「相手に気づかせる」ことであり、自分を守るためにも有用な考え方なのです。

コミュニケーションを円滑にするうえでは、しばしば「遠回しの言い方」や「自分らしくない発言」を求められることもあります。それをいちいち面倒で厄介なことだと受け取るのか、様々な考え方を持った人と話ができるから、コミュニケーションは楽しいと受け取るか次第で、あなたへの評価も変わってくるはずです。「出会う人は皆、師匠」だととらえ、コミュニケーションの幅を広げていってくださいね。

次回は、気持ちよく相手が説得に応じるコツを解説します。お楽しみに!

「臼井流最高の話し方」は水曜更新です。次回は11月1日の予定です。

臼井由妃
 ビジネス作家、エッセイスト、講演家、経営者。熱海市観光宣伝大使としても活動中。著作は60冊を超える。最新刊は「今日からできる最高の話し方」(PHP文庫) 公式サイト http://www.usuiyuki.com/

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