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新しい発想を得るには、他人の目を借りるといい PIXTA

新しい発想を得るには、他人の目を借りるといい PIXTA

ある米国の大手ホテルチェーンでは、転職してきた社員に対して、そのチェーンの仕事のやり方について「おかしいな」と気づいたことを集めるプログラムがあるそうです。転職してから間もない時期に、「この会社のやり方はちょっと変だな」と気づいた社員の声をヒアリングする部署があって、その意見を経営陣に吸い上げるのです。

ホテル業界以外の業界から転職してきた社員からは、そのホテルチェーンでは当然だと思っていたやり方や習慣が意味がないことに見えるという報告があがったり、もっといいオペレーションのやり方があると提案が集まったり、ホテルチェーンの経営幹部には思いもよらなかった新しい物の見方が提示されるのです。

面白いことに、この報告制度は転職後半年が賞味期限で、それを過ぎると別の業界から来た社員もだんだんこのホテルチェーンのやり方に同化していって、目からうろこが落ちるような意見はそれ以上は出なくなるそうです。

この制度は言い換えると、硬直した官僚組織に部外者の目から見た意見を取り入れる制度です。このような制度を作ることで、組織の思考力に柔軟性を保つ役割を果たします。

さて、われわれ個人の柔らか思考力についても同じことがいえます。自分自身で柔らかな発想ができなくても、普段違う世界で働いている他人の「目」を利用すれば、新しい発想のヒントが手にはいるのです。

町工場で出た鉄くずは工員の目には邪魔ものに見えますが、芸術家の目にはアートの素材に映るかもしれませんし、再生設備を持っている人には資源に映っているはずです。

消費期限が近づいた加工食品は、小売店にとっては廃棄処理をしなければならないやっかい物ですが、NPO(非営利団体)にとってはそれを引き取らせてもらうことによって多くの人々に食事を分け与える料理を作るための食材に映ります。

他人の目を借りれば、自分の発想を補える

この原則がわかれば、自分の目ではなく、他人の目を使うことが、柔らかな頭で物事を考える技術として役立つことに気づくことになります。それも全く仕事が違う他人の目であれば、自分が絶対に考えつかないような意外な視点で物事を語ってくれるはずです。

実はこれが柔らかな発想をするための技術の「その2」です(「その1」は前回記事に挙げました。「『そんなバカな』と切り捨てない 常識の壁破る思考法」)。新しい発想が必要なとき、しかも自分がどちらかといえば右脳で考えるよりも、左脳で考えるほうが得意な人の場合は、他人の話を聞く、それもできるだけ仕事が違う人の話を聞くというのが、自分では思いつかない発想にたどり着く方法論なのです。

そしてこれは技術なので、身につけさえすれば後は発想を足で稼ぐことができます。フットワークよく、いつもと違う仕事をしている人に話しかける。雑談の中から情報を拾う。そんな行動を通じて、自分だけの努力では手にはいらない柔らかな発想が、この技術を通じて手にはいるようになるのです。

今回は、違う業界、違う仕事をしていてことで気づいた柔らかな発想の事例を問題にしてみました。自分も門外漢になったつもりで、その人にはどう物事が見えたのかを考えることにしてみましょう。

問題
 全国段ボール工業組合連合会では、日本全国の段ボールの出荷高を毎月翌月末に発表していて、四半期ごとの統計はたとえば4~6月期の場合、7月末には発表されます。実はこの統計はそのさらに2週間後に発表されるある統計データの先読み指標として使われるのですが、段ボールの出荷高から、どのような統計データが予測できるのでしょうか?

正解 GDPの速報値

四半期のGDPの速報値(経済成長率の速報値でもある)は翌々月の中旬に発表されます。その結果次第で企業の設備投資計画も株価も大きな影響を受けるのですが、GDPの成長率が大きく上下する場合、同じ時期の段ボールの出荷高も同様に増えたり減ったりすることが知られています。企業活動にブレーキがかかれば段ボールの使用量も減るし、逆に景気が急によくなると大量の段ボールが必要になるから当然のことかもしれませんね。だから経済成長率の先読みをしようとする人は段ボールの出荷量に注目しているのです。過去10年ぐらいで見ると、大きな天災の前後を除いて、だいたい的中しているようです。

優れた発明は少なからず門外漢によって発見されることがあります。門外漢から何か意見されると、普通の人は、「おまえら何にもわかってないんだから、えらそうに話すなよ」と、ちょっとした不快感を感じるものです。それを口にするかどうかは別ですが、人間というものは必ずそのような反応が湧き上がるものです。

その本能的な感想を理性で抑え込んで、「おもしろいですね。もっと聞かせてください」と言うひとことが出せるかどうか。ここがカギとなる重要なノウハウです。

その差がひいては、自分にはない柔らかな発想を手にいれる技術を使いこなせるのか、それとも使えずに機会を失ってしまうのかの差が出るところです。もしみなさんがご自分で、頭が固いことで損をしていると思ったら、まず門外漢の話を本能的にシャットダウンしてしまう前に、「おもしろいですね。もっと聞かせてください」と口にすることを習慣づけてみてはどうでしょうか?

[「日経Bizアカデミー」で2014年5月9日に公開した記事を転載]

「戦略思考トレーニング」は木曜更新です。

鈴木貴博
 百年コンサルティング代表取締役。東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループを経て2003年に独立。持ち前の分析力と洞察力を武器に企業間の複雑な競争原理を解明する競争戦略の専門家として活躍。

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