「AIと共存する力」を養う3つの学問とは?第2回 駒澤大学経済学部准教授の井上智洋氏に聞く

特に問題発見は、AIにとって難しい作業です。なぜならば、解くべき問題とは、人間の価値観に照らし合わせて浮かび上がる問題だからです。人間と同じ心を持っていないと問題意識を持つことができません。過去に実例がある問題ならば、AIがデータの傾向から示唆してくれるでしょう。ただし、これは本を読んで、過去の例や賢人の知恵から学ぶのと同じことです。前例のない新たな問題が潜んでいる場合には、AIが示す示唆を鵜呑みにすると、見当違いな問題設定をしてしまうことになるでしょう。解決すべき問題は、人間が自ら考える必要があります。

また、問題の解決法も人間にとって納得できるものである必要があります。囲碁で勝つといった明確な成果目標に対して、AIの力は絶大です。しかし、世の中の問題の多くは何をもって解決したと言えるのか、成果の定義が複雑化しているものがほとんどです。何が重要な成果なのか判断する作業には、人間の出番が残ります。

AI時代への適応は社会人でも遅くない

――AIネイティブにはなれない今の社会人が、問題発見力と問題解決力を磨くことはできないのでしょうか。

AIと共存して生きるうえで、人の「感性」と「悟性」を磨くことが重要になると思います。このうち、感性はイメージしやすいと思うのですが、悟性とは思考力のようなものだと言えます。その悟性を磨くためにうってつけの学問が3つあります。

まず、コンピューターサイエンスです。問題を定義し、解法を考えるうえではアルゴリズム的な思考が大切になります。文系社会人でも、真剣にプログラミングを学べば、ある程度のプログラムを作れるようになります。ただし、スキルとしてのプログラミングは忘れてしまってもよいと思います。1回経験しておくと、アルゴリズムとはどのようなものなのか思考法が理解できるようになります。AIが何に使えて何に使えないのか明確になり、AIの的確な使い所を見つけることができるようになるでしょう。

次に経済学です。大学の授業で行っている経済学の授業では、世の中で起こっているさまざまな現象をモデル化し、それを土台にして問題の本質を見抜いたり、解決案を導いたりします。このモデル化ができるかできないかで、能力の大きな差が生じます。

最後に哲学です。過去の偉い人が考えてきた問題とそれを解決するための思考パターンを数多く蓄積した学問が哲学です。哲学が発達しているフランスなどでは、一般の教育にもかなり熱心に取り組んでいると聞きます。日本では軽視されているように見えますが、考える力を養うため、もう少し注力した方がよいと思います。

――AIと共存する力を得る方法として、仕事の中で養う勘や経験より、むしろ考え方を体系化した学問の重要性を説いている点に意外性があります。

多くのデータの中から傾向を抽出する作業は、AIが最も得意とする作業です。頭の中にモデルを作って、それを基にイマジネーションを膨らませる作業は人間にしかできないことであり、これこそがAIにできないことなのです。AIには、「もし私が鳥だったら、どんなに自由を感じるだろう」といった事実に反する状況に基づく空想、つまり反実仮想ができません。ところが、この作業は未来に対するビジョンを作り、先回りしてビジネスを立ち上げるためには欠かせない能力です。

――AIと人がうまく共存しながら価値のあるビジネスを営むには、経営者やマネージャーにも相応の心構えが必要になりそうです。

日本企業は、AIに対する取り組みが遅れているように見えます。経営者の若返りも大切ですが、経営者の方々にはせめてAIの重要さに気づいていただきたいと思います。もはや、AIのインパクトが及ばないビジネスなど、存在しないと考えた方がよいのです。AIは、開発するにも利用するにも莫大な資金が必要です。「AlphaGo」を開発したディープマインドは、グーグルの傘下に入って資金とデータを得て、他社を圧倒する開発力を身につけました。形だけの組織を作って取り組む姿勢を見せるだけでは、効果は得られません。AIの技術や応用を担う責任者に、権限とお金をドンと渡す器量が求められます。

井上智洋
慶應義塾大学環境情報学部卒業、早稲田大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。博士(経済学)。専門はマクロ経済学、貨幣経済理論、成長理論。人工知能と経済学の関係を研究するパイオニアとして、学会での発表や政府の研究会などで幅広く活動。AI社会論研究会の共同発起人もつとめる。著書に『ヘリコプターマネー』(日本経済新聞出版社)、『人工知能と経済の未来』(文藝春秋)、『新しいJavaの教科書』(ソフトバンククリエイティブ)など。
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