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男性学から読み解く女性活躍 真の改革、男女セットで 大正大学心理社会学部人間科学科准教授 田中俊之さん

2017/10/11

共働き夫婦の育児は分担の決め方が悩ましい PIXTA

 女性の活躍を考えるうえで、男性の働き方や生き方の変化は重要なテーマの一つだ。しかし、女性を取り巻く状況のみにスポットが当てられがちなのが現状だ。そこで「男性学」の研究者である大正大学心理社会学部人間科学科准教授の田中俊之さんに、男女それぞれの仕事、生き方はどう変わっていくべきか、男性学の視点で解説してもらった。

■就活時に感じた違和感解き明かしたい

――まず、男性学を研究するようになったきっかけを教えてください。

 大学4年生の就職活動期に感じた違和感がきっかけです。同級生がいざ就活となるとみんな同じ髪の色になり、同じスーツを着て「就職する」と同じことを言い出したときに、私はかなりびっくりしました。男性の場合、就職すれば定年まで約40年辞められません。20年そこそこしか生きていないのに、それを当たり前だと思い、決断する様子が非常に興味深かったのです。

 ちょうど日本でも男性学の入門書が出て、大学のゼミで講義があったり、研究者も現れたりした時期でした。戦後の日本社会の中で男性が会社に雇われて定年まで働くということがいかに当たり前になっていったのか。それを女性の問題とセットで考え、「男は仕事、女は家庭」という役割分担のルールがいかに作られたのか、明らかにしていきたいと思い研究を続けています。

■進む育休後の職場復帰 変化を理解し、対応急げ

――最近の働き方に関する環境の変化についてどうとらえていますか。

 国立社会保障・人口問題研究所の「第15回出生動向基本調査」に、第1子出産後の女性の就業経歴についてデータがあります。昭和の終わりごろの1985年から89年には、女性の73%、4人のうち3人は結婚、妊娠、出産のどれかで仕事を辞めています。「昭和の話」と思うかもしれませんが、90年代以降もそれほど変わりません。2000~04年は60%台後半、05~09年でも60%台半ばの人が辞めています。

出産して辞める人が減り、育児休業を取って復帰する人が増えてきた

 それが10~14年になると、急に変わりました。出産して辞める人が約10%減り、代わりに育児休業を取って復帰する人が約10%増えました。最近の「女性活躍推進」の流れにより、今後はさらに育休復帰は加速すると予想できます。企業やその管理職は「女性は育休取得後も働く」と認識を改め、いかに対応していくかが求められています。

■いまだ根強い性別役割分業 当事者意識で本音の議論を

――昨今の「女性活躍推進」のムーブメントをどう思いますか。

 私の認識では、日本はいまだ性別役割分業の社会です。「男は仕事、女は家庭」という意識と構造が残っており、賃金格差があるので深刻です。男性の賃金を100とした場合、女性は70。それなら賃金が高いほう、つまり男性が仕事をメインにするという行動パターンにつながります。

 女性の就業率が上がった今でも、女性は無意識のうちに「家事・育児があなたのメインの仕事」という社会のメッセージを受け取っています。しかし女性活躍推進で女性に期待されているのは、「キャリアを積み、仕事で成果を上げること」。一方で男性側へは、理想のイクメン像として語られるのは、「仕事だけでなく育児にも積極的にコミットすること」。しかしその前提として「一家の大黒柱はやめない」ことを求められている。男性も仕事と家庭の両立で、板挟み状態です。

 いまこそ、イメージ先行の建前の議論ではなく、すべての人が当事者意識を持って本音で議論すべきです。

■社会の仕組み変える改革 多様な働き方を想定して

――今後、男女それぞれの仕事、生き方はどのように変化していくべきでしょうか。

 私には1歳7カ月の子どもがいます。妻の産褥(さんじょく)期には約2カ月の育休を取りました。主に妻のケアと家事を担いましたが、産後の女性が育児も家事もやるのは相当な負担だと身をもって実感しました。今でも毎日午後6時に帰って家事・育児をやっていますが、実は子どもが生まれてから、本を1冊も出版していません。まじめに育児をしたら、本を書く時間がとれなくなりました。本を出していた時期よりも収入が減りましたが、この時期、仕事の成果が落ちるのは当然で、仕方のないことだと思います。

 これからは「夫婦2人とも働く」時代に変わります。子育てや介護を理由に社員が仕事をペースダウンすることも増えるでしょう。今まではキャリアの中でペースを落とす時期に女性が退職という選択をしてきましたが、今後は男女問わず誰にでもその可能性が出てきます。企業側が多様な働き方を認めていくことが必要です。

大正大学心理社会学部人間科学科准教授 田中俊之さん

 男性学という視点で見ると、女性活躍推進、働き方改革が盛り上がっているいまは大きなチャンスです。これは社会の仕組みそのものを変えていく、本当の改革です。相当知恵を絞らないといけない。女性の生き方、働き方が変わるときに、男性もセットで変わらなければいけないということです。

 残念ながら日本は、女性のほうが不利なことが多い社会です。男女間の賃金格差や、結婚、妊娠、出産など就労を継続する上でいくつも女性特有の壁があることなど、男性の多くが気づいていない問題があります。感情論ではなくデータを用いて、女性の立場をしっかりと理解してもらう工夫をしていかないといけません。

■女性の意識変化が男性の働き方を変える

――最後に丸の内キャリア塾読者にメッセージをお願いします。

 もう少しおじさんにはやさしくしてください(笑い)。先日、都内の平日昼間の市民講座で、「皆さんの夫のいいところを書き出してみましょう」という課題を出したら、「馬車馬のように働くところ」という回答がありました。頑丈で一生懸命働いてくれさえすればいいという話です。女性の皆さん自身が男性に対し、仕事で偉くなっていくこと、稼ぎをたくさん得ることを求めていないか、また男性が残業もいとわず働くことに対して満足していないかを、改めて考えていただきたい。女性の男性に対する意識変化によって、男性の働き方や生き方が大きく変わります。

 女性活躍推進や働き方改革は、ダイバーシティー(人材の多様性)推進とセットで進める必要があります。一部の働く女性の話ではありません。当事者意識を持ち、立場や境遇が違う人に対しても関心を寄せ、想像を働かせることが大切です。さらに、障害者や性的少数者(LGBT)と共に働く視点も重要です。働く人すべてがお互いの立場を思いやる気持ちが大切だと思います。

田中俊之
 大正大学心理社会学部人間科学科准教授。1975年東京都生まれ。2004年武蔵大学大学院博士課程単位取得退学、学習院大学研究員、武蔵大学社会学部助教などを経て、17年から現職。社会学博士。専門は男性学、キャリア教育論。著書に「男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学」など。

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