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ビジネスの謎を解く気持ちが「柔らか頭」を育てる PIXTA

ビジネスの謎を解く気持ちが「柔らか頭」を育てる PIXTA

私が若いコンサルタントだったころ、営業現場に出入りして見聞きしたことを上司に報告すると、「そんなバカなことがあるわけないだろう」と一蹴されることがよくありました。だいたいは若いコンサルタントである私が現場の人たちから、極端なケースや、ホラ話を聞いてきたのを、経験がないために真に受けたせいだったことが多かったのです。

たとえば、「1割仕入れ値を下げたら売上が10倍になった商品がありますよ」(と、仕入れ値を下げたい問屋のおじさんに騙された)とか、「法人向けのこの商品を、実は結構個人が買っていっているんです」(結構というのは3人だけのことだった)とか、まあそんな話でした。

ところが、このような一見ばかげた報告でも、10回に1回ぐらい、実は本質的な競争前提の変化や、消費者行動の進化のシグナルを拾っている場合がありました。経験を積んだコンサルティング会社の上司というものは偉いもので、そのようなシグナルについての報告を受けると、自分の頭の中にも何らかのアラートを発するような柔らかい脳になっているようです。

「それは必ずしもバカな話とはいえないかもしれないな。なぜなら別の取引先でもこういうことがあったんだ……」といった形で、私からの報告をもっと詳しく聞きたいと言い出して、「この謎を解いてみよう」と目を輝かせたものでした。

不思議な現象の裏に潜むビジネスチャンスを見抜く

ビジネスパーソンのみなさんも経験があると思いますが、ビジネスの現場にはたくさんの謎が存在しています。「なぜ今年のセールでは去年のような爆発的な売れ行きが見られないのだろう?」とか、「なぜあの弱小の特約店が今期に入って取引上位に入ってきたのだろう?」とか、ビジネスの現場には謎がいっぱいです。

今までの常識と違うことが起きている場合、そこには何か、本質的な変化が起きている可能性があります。しかし、真面目なビジネスパーソンほど、謎に直面すると、「そんなことがあるはずない」と、頭の中でこれまでの常識が邪魔をします。私の業界の専門用語でこれを「メンタルブロック」と言うのですが、頭が常識に反する事実を拒絶するのです。

柔らかな戦略脳をつくるためには、このメンタルブロックの発動を抑えるトレーニングが重要です。「そんなことあるわけないじゃないか」という最初の反応を、意識して抑えて、「これには何か裏があるに違いない。よしこの謎を解いてやる」という反応に変えるのです。ビジネスの現場での名探偵になったつもりで物事を見るようになれば、その分、メンタルブロックの発動を抑えることにつながります。

この分野の問題については、もちろん正解にたどり着くほうがいいのですが、それ以上に、自分の頭の中の「常識の壁」を押さえつけることができるようになるかどうかのほうが重要です。その視点で、ぜひ、みなさんも問題にチャレンジしてみてください。

問題
 炭酸飲料の夏のキャンペーン、商品を買うと応募できて素敵なグッズが当たる、定番の懸賞プログラムです。さて、コーラ会社のキャンペーンではペットボトルの蓋のシールが応募券になっていて、インターネットでもはがきでも懸賞に応募できます。シールの裏に印刷されている番号をインターネットの応募サイトで入力するとその場で当たりかどうかがわかるのですが、なぜかこのシール、捨てないでハガキに貼ると、もう1回同じ懸賞に応募できるのです。ちょっと不思議ですよね。1枚のシールでなぜ合計2回、懸賞に応募できるのでしょうか?

【ヒント】
 ふつうのくじ引きならくじを引くときに抽選券を回収して、同じ人が何度もくじを引かないようにするのが常識ですよね。なぜそうではない仕組みになっているのでしょう?

正解 応募の重複をチェックするオペレーションが大変だから

もしインターネットかハガキか「どちらかでしか応募できない」ルールにした場合、ハガキに貼られているシールがインターネットで応募済かどうか、チェックをする手間が大変です。何百万人が応募するキャンペーンですから、アルバイトを大量に雇って当選ハガキのシールを全部はがして番号をチェックすることになりますよね。そんなコストをかけるよりも2度応募できるルールにしてしまったほうが手間もかかりませんし、何よりキャンペーンの応募も増えてにぎわいます。このルールのほうが費用が少なく効果が大きいですよね。

ビジネス現場での謎には特徴があります。どの謎もその背景にあった答はばらばらなのですが、共通点としては狭い範囲で考えた場合の常識や前提を超えたところにその答を得るための鍵がありました。

公平性を重視するとキャンペーンの問題は変な現象に見えます。言い換えると、視点を変える訓練をすれば、謎の全体像がもっと早く見えるようになるわけです。実はこのことは、柔らか頭を作るためのトレーニングのステップにもなっているので、覚えておいていただきたいと思います。

とはいえ、その前に柔らか頭に立ちはだかるのが常識の壁。常識に反する現象や事象を目にしたときに、反射的に頭を支配しようとするメンタルブロックという常識の壁の発動を、いかに自分の力で抑え込むことができるのかというのが訓練の主眼です。

謎を目の前にして、「こういうことがもしあるとすれば、どういうことが起きているのだろう?」とその謎を受け入れて、謎について考えるモード(姿勢)に、なるべく短い時間で入ることができるようになること。そのことが達成できれば、みなさんも柔らか頭にまた一歩近づいたことになるのです。

[「日経Bizアカデミー」で2014年5月2日に公開した記事を転載]

「戦略思考トレーニング」は木曜更新です。

鈴木貴博
 百年コンサルティング代表取締役。東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループを経て2003年に独立。持ち前の分析力と洞察力を武器に企業間の複雑な競争原理を解明する競争戦略の専門家として活躍。

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