会話のきっかけはひらがな言葉で ソフトな空気に導く
初対面の場合、会話のきっかけに困るケースが珍しくない PIXTA
初対面の相手や久しぶりに会う人にはうまく声をかけられない。何から話をしていいのか困ってしまうという人は多いものです。共通の話題があれば、それを軸に会話を展開することもできますが、相手の仕事向きや立場、ライフスタイルなどが分からなければ、それもできません。
しかし、会話の始まりはあいさつからというのは、どんな場合も一緒です。話し方に自信のない人は、ひらがなを意識しながらあいさつするといいでしょう。漢字交じりの「お元気ですか?」ではなく、全部ひらがなの「おげんきですか?」とつづった文字を口から出すような気持ちであいさつをするのです。
こうすると、言葉の響きが柔らかく優しい印象になり、肩の力を抜いた雰囲気で自然にあいさつができます。「こんにちは」「おはようございます」といった、すべてがひらがなのあいさつ言葉を使うのも効果があります。
「恐縮です」「失礼ですが、名刺交換を」「先般はお世話になりました」など、漢字の交じった物言いは硬質な響きになりがちです。人間味を感じにくくなる分、先方も構えてしまいます。あいさつは本題に入る前の手順であるはずなのに、漢字交じりではあいさつが済んでも互いの緊張感がほぐれないままで、本題に入りにくくなってしまいます。これでは時間が無駄であるうえ、本来の目的である突っ込んだ意見交換が難しくなる心配もあります。
しばらくご無沙汰だった相手や初めて会う人の前では誰しも緊張し、身構えてしまうものです。そんな場合は相手も同じように固くなっているはず。こちらがひらがなで語りかけるようなソフトで気負わないあいさつで語りかければ、相手も胸をなでおろします。
ひらがなを意識したあいさつは、こちらに関心を持ってもらううえでも効果的な方法です。自分から進んで距離を縮める意思表示をしているので、相手からも同様に柔らかいトーンの言葉を返してもらいやすくなります。ぎこちない会話を回避できるのは、ビジネストークを加速できる点でメリットが大きいといえるでしょう。これは「ミラー効果」といわれる心理的な働きを利用したテクニックです。親密な関係では相手と同じ言動をすることが多く、好意を抱いている相手と同じ言動をしてしまうものだそうです。だから、最初にひらがなあいさつで気持ちのハードルを下げてしまいましょう。
会議を動かす「ひらがなトーク」
漢字交じりだからといって、「ご無沙汰しております」や「お世話になります」といったあいさつが、好ましくないというわけではありません。ただ、こうしたあいさつも「ごぶさたしております」「おせわになります」と、漢字の部分をひらがなに置き換えるに頭の中でイメージしながら口を動かすようにしましょう。それだけで自分の緊張がやわらぎ、ミラー効果を引き出しやすくなります。話し始めの段階から相手との距離を縮められれば、その後の会話がスムーズに進むのに加え、「気持ちが通じ合っている」という感覚が議論の中身にも好ましい影響を与えてくれます。
この「ひらがな変換」のテクニックはあいさつに限らず、本題に入ってからでも役に立ちます。「検討します」「熟慮を重ねて」「喫緊の課題」などの堅苦しい漢語表現を使うと、話し合い自体が緊張感を帯びてしまいがちです。「ちょっと話をほぐして考えてみませんか」「急ぐに越したことはないのでしょうが」といった「漢字抜き」の言い換えを選ぶだけでも、場のこわばりを解く効果が期待できます。穏やかな心持ちで議論に集中しやすくもなるので、ビジネスを円滑に進めるためにもぜひ身につけておきたいトーク技術です。
ひらがなを意識したやわらかい言葉遣いは議論を深くする PIXTA
あいさつをして、自己紹介をしても、相手からの反応がいま一つというケースがあり得ます。その際に役立つのが、「きにかけていました」の9文字で始まる切り出し方です。実際の使い方はこうです。
き「紅葉が美しいですね」(季節の話題)
に「最近、●●が話題ですね」(ニュース)
か「ご子息はお父様にそっくりですね」(家族の話題)
け「肩こりに悩まされておりまして。まあ、職業病ですね」(健康の話題)
て「午後から雨になりそうですよ」(天気の話題)
い「●●さんのスーツはきょうもすてきですね「(衣装について)
ま「駅前に大規模な商業施設ができるそうですね」(街の話題)
し「●●さんのご趣味は何でしょうか?」(趣味について)
た「とても雰囲気のよい和食屋を見つけたのですが、今度ご一緒しませんか?」(食べ物の話題)など。
これら9種類の便利な話題の頭文字をとって「きにかけていました」です。使う場合のコツの第一は「●●ですね」「●●ですよ」と、共感や同意、意見を求めるところです。こう問いかければ、相手から何らかの反応があり、話に広がりが生まれやすくなります。
第二のコツは「でしょうか?」「●●しませんか?」と質問を投げかける点です。こうすれば、相手は答えざるを得ません。会話で大切なのは、途切れさせないことです。9種類の切り口からいろいろな角度で質問すれば、先方が進んで話しかけてくれない場合でも会話をつなぐことができます。
困ったときは、「ど」から始まる質問
「きにかけていました」を気にかけておけば、どんなシチュエーションでも話題選びで困ることはないはずです。でも、もし「きにかけていました」でもうまくいかない事態に陥ったら、思い出してほしいのが、「ど」から始まる質問です。「どうしよう」と困ったら「ど」と覚えてください。
「どちらからいらっしゃいましたか?」
「どんなお仕事を、なさっているのですか?」
「どれぐらい前に到着したのですか?」
「どうしてこのイベントをお知りになったのですか?」
「どなたかとご一緒ですか?」
頭の中にこういった「ど」をイメージしてみましょう。そして、シチュエーションや相手を勘案して、答えが期待できそうな「ど」から始まる質問を発してみるのです。
ただし、「ど」から始まる質問は続けないでくださいね。詮索好きな人と思われたり、相手を攻め立てる「詰問」にもなったりしますから、ほどほどにしましょう。
会話の糸口が見つからないという人は結構、多いもの。私自身、もともとは口下手だったのに加え、吃音で長年苦しんできましたから、そうした思いはよくわかります。
でも、会話を弾ませるポイントは「会話のきっかけは目の前にあふれている」という、割とおおらかな気持ちにあります。場当たり的で構わないのです。その分、目の前にいる相手をよく観察して、話題に使えそうなフックを探してみましょう。もちろん、相手先や本人に関して下調べをしておけば、使える材料が増えます。ただ、準備に頼ると、段取りをこなすような会話運びになりがちです。あまり難しく考えずに「ひらがなを意識したあいさつ」や、話題が見つかる万能ワード「きにかけたいました」、困ったときの「『ど』から始まる質問」などを組み合わせて、人との出会いを楽しむつもりで臨みましょう。
次回は、会話が盛り上がるたとえ話と、会話がしらけるたとえ話です。お楽しみに!
※「臼井流最高の話し方」は水曜更新です。次回は10月11日の予定です。