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ジェムソン、売上10倍以上に アイリッシュの復活

世界5大ウイスキーの一角・ジャパニーズ(7)

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NIKKEI STYLE

アイリッシュウイスキーは、海外に住む7,000万人とも言われるアイルランド系移民にとってなくてはならない存在だと思う。アイリッシュウイスキーは、彼らが愛して止まない祖国アイルランドとの一体感をもたらすようだ。日本人が想う日本酒や焼酎よりはるかに強固な絆がある印象だ。評価が高まる国産ウイスキーへと至るウイスキーの歴史と魅力をひもとく本連載、今回もアイリッシュの物語から……。

その事実を私はイタリアで、ドイツで、ベルギーで、アメリカで、そして日本でアイルランド人の知人、友人から直接経験した。ポティーンの持つ魂、そして魔力は現在も生き続けて、飲み手を魅了し、元気付けてくれるのだ。

輸出制限と禁酒法で弱体化したアイリッシュウイスキー業界は、アメリカの禁酒法廃止後に起きたウイスキー需要に十分対応できず、原酒在庫を持っていたスコッチに大きな遅れを取った。第2次世界大戦もスコッチに有利に働いた。ヨーロッパ戦線で戦った多くの米軍兵士がスコッチのおいしさを知った。アメリカでスコッチブームが起きたのは、この帰還兵の存在があったからだ。

ますます存在感が希薄になっていくアイリッシュウイスキー。しかし、このウイスキーには歴史を通して築き上げたアイデンティティーがあり、アイルランド人による消費という市場があった。

新生アイリッシュディスティラーズが旧3社から引き継いだビッグブランドはジェムソン以外に、パワーズ、パディー。会社はジェムソンに賭けた。

では、かつて最高の評価と最大の販売数量を誇ったこのブランドのポテンシャリティーをどう引き出したのか?

まず『アイリッシュ』をコアイメージに置いた。

パッケージはアイリッシュグリーンでコーディネート、マス広告で「イージーゴーイング、アイルランド」や「アイリッシュヘリテージ」のキャンペーン展開、アイルランドの守護聖人セントパトリックの命日、毎年3月17日に行われる祭りとのタイアップ、そして3回蒸溜ポットスティルウイスキーの品質を「Triple Distilled, Twice as Smooth」と訴求、そして飲みやすさを実感できる飲み方提案。

2003年ごろから売り上げが伸び始めた。最近では年率12%の伸び率を示しており、2016年には2003年の14倍を超える販売数量を達成した。

このジェムソンの伸びに牽引されるようにアイリッシュウイスキーのブランドの売り上げは大幅な伸びを示している。現在稼動中の蒸溜所数は少なくとも19カ所にのぼっている。

私がニューミドルトン蒸溜所を初めて訪れた1991年に戻る。

晴天の清々しい朝であったこと。初めて体験したアイリッシュブレックファストのことを覚えている。

スコティッシュブレックファストで出てくるハギス(細切れの羊内臓のオーツ麦炒め)、キッパーズ(鰊の燻製)、ハドック(鱈の燻製)、ポーリッジ(オーツ麦のおかゆ)は日本人の口にも合うが、そのような郷土色が強い料理は出て来なかった。ただし、ベーコンもソーセージもプディングもスコットランドのようにグリルするのではなくバターでいためるので、味が濃厚だった。

車で蒸溜所に向かうと出迎えてくれたのが、蒸溜の神様と呼ばれているマスター・ディスティラーのバリー・クロケットであった。飾らない、率直で、包容力のある人柄を感じた。

早速工程見学に出掛けた。麦汁製造装置(仕込槽)はビールの設備を導入していた。発酵槽はステンレススティール製で大きかった。

蒸溜室には4基のポットスティル(単式蒸溜釜)と3塔式のカラムスティル(連続式蒸溜機)が設置されていた。

まず度肝を抜かれたのが蒸溜釜の大きさだ。75キロリットルという大きさは、スコッチ最大の釜の2倍以上である。しかも4基とも同じサイズであった。この4基が協働して発酵液から原酒が持つべき香味を余さず抜き取っていく。しかも蒸溜の繰り返しは3回だ。まるで手品のようだと、ウイスキーの故郷に根付いたその高い蒸溜技術に感動した。バリーの凄さが実感となって降リ注いで来た。今から四半世紀前のことなのにその瞬間をはっきり覚えている。

各ブランドに必要な原酒のつくり分けの秘密の二つ目は、麦芽にした大麦と生の大麦の使用比率の調整だそうだ。秘密の三つ目は使用するたるによるつくり分けとのこと。

私が訪問してから現在まで、2回増設を繰り返し、巨大蒸溜所がさらに巨大になったそうだが、その姿は知らない。

工程見学の最後にバリーは私をテースティングルームに連れて行ってくれた。様々な原酒はまるで色とりどりの絵の具のようにそれぞれの香味を放っていた。スコッチとも日本のウイスキーとも違う個性。最後に飲ませてくれたのは製品だった。

「ミドルトン・ヴェリー・レア」年数表示はなかった。

バリーの説明では、その年々ミドルトン蒸溜所の原酒在庫でつくることができるベストのウイスキーを世に問うことを思い付いた。1984年のことだった。それから毎年数量限定で出し続けている。

バーボンのたるで12~20年熟成したポットスティルウイスキーとグレーンウイスキーのブレンドだ。香りは麦わら香、フルーティー、バニラ、オイリー、味わいはフルーツ系の甘さ、バニラ、スパイシー、ナッティー、クリーミー、爽快な苦味、マイルドな口当たり。スコッチのようにゴージャス、華麗ではない。だが、時の恵ともいうべき円熟感、安定感と厚みのあるオイリーが幸福感と安心感をもたらしてくれる。アイリッシュウイスキーの最高峰は、アイルランドの国民性を生き写しにしていた。ボトルのラベルには誠実さを感じさせるバリーのサインがあった。

ジェムソンブランドの成功を紹介したが、もう一人アイリッシュウイスキーの復活に重要な役割を果たした人物を紹介したい。1987年にウイスキー会社を起業したジョン・ティーリングのことである。彼と会ったことはない。

ジャガイモ原料のスピリッツ蒸溜所を買収、蒸溜釜2基と連続式蒸溜機を持つウイスキー蒸溜所に改修、クーリーディスティラリーと命名、アイリッシュウイスキー第3の蒸溜所として稼動を開始した。以下が彼の経歴だ。

1946年ダブリン生まれ。1782年ダブリン、マロウボーン・レーンで蒸溜所を開設したウォルター・ティーリングの子孫。1967年ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン商学部卒業、同大で経済学修士号取得、ペンシルヴェニア大学ウォートン校でMBA取得、1973年ハーバードビジネススクールで経営学博士号取得、博士論文のテーマは「19世紀以降のアイリッシュウイスキーの衰退」だ。

1987年クーリーディスティラリーを創業(40歳)。2014年同社をジム・ビームに売却(7300万ユーロ=99億円)した。

クーリー売却後はグレート・ノーザン・ディスティラリーを創業、2人の息子(ジャック、スティーブン)もティーリング・ウイスキーを創業している。

彼が目を付けた経営戦略上のポイントは、当時アイリッシュウイスキーの50倍の売り上げを誇るスコッチウイスキーとどう差別化するかであった。

アイリッシュはスコッチに対し、強烈で重いと認識されていた。この固定観念を打破し、アイリッシュの独自性に気付かせるため、彼はスコッチに負けない充実した味わいのポットスティルウイスキーとスコッチに比べ軽快で飲みやすいブレンデッドウイスキーを売り出した。2回蒸溜シングルモルトウイスキー「ターコネル」と第5回で紹介した「キルベガン」である。

さらに、彼は大胆な手を打った。「ターコネル」が位置取りした「充実した味わい」をさらに強化した新製品を発売したのである。1996年の「カネマラ」の誕生である。「アイリッシュにスモーキーなし」の常識を破るスモーキーな味わいは、しかし、アイリッシュウイスキー史をたどると昔、広範につくられていたことが分かる。

ポティーンづくりで、麦や麦芽の乾燥に使われていたのはピートだった。カネマラ国立公園に隣接するアイルランドで最も評判の高いピート採取地域産のピートでアイリッシュ独自の軽めのスモーキーを実現しており、数々の賞を獲得し、高い評価を受けている。

過去を否定するのではなく、そこから学んだ様々なことを駆使して、未来に向けた形をつくっていく。これは、これまでもアイリッシュが苦労しながらも実行してきたことだ。アイリッシュからはまだまだ新たな形が生み出されてくるだろう。

今回紹介するウイスキーは、その「カネマラ」である。

「カネマラ」は、アイリッシュでは唯一のピーテッドシングルモルト。アイリッシュでは珍しい小さめの蒸溜釜での2回蒸溜、バーボン樽熟成の4、6、8年もの熟成モルト原酒を使用。美しい山野の土の香りを思い出させるアイリッシュスモーキー、フレッシュな果実様、チョコレートの苦甘さの後のさっぱりしたスパイシーとスムーズさを楽しんでいただきたい。

(サントリースピリッツ社専任シニアスペシャリスト=ウイスキー 三鍋昌春)

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