前立腺がん、ロボ手術が普及 放射線や温熱療法も

男性に特有の前立腺がんは、罹患(りかん)率で上位に位置する。60歳以上になると発症しやすいが、比較的進行が遅く、治療は年齢や進行度に応じて多くの選択肢がある。日本経済新聞社が実施した実力病院調査で精度を高めるロボット手術が広く普及しているほか、放射線や温熱療法など多様な治療に取り組んでいることが分かった。

右奥で医師が手術支援ロボット「ダヴィンチ」のアーム(左手前)を操り、患者の前立腺がんを摘出する(東京・新宿の東京医大病院)

前立腺がんの手術件数が全国トップクラスの東京医大病院(東京・新宿)は2006年に国内で初めて手術支援ロボット「ダヴィンチ」を取り入れた。導入当初は開腹手術も併用していたが、ここ数年は全ての手術をダヴィンチでこなす。手術実績は累積で2千件超、スタッフの陣容も厚い。

自分の手のよう

ダヴィンチは特殊なカメラとアームをおなかに入れて、10倍以上に拡大した映像を見ながら遠隔操作で手術する。そのアームの動きについて、泌尿器科を率いる大堀理教授は「自分の手がおなかの中に入ったような感覚」と操作性の高さを表現する。

ダヴィンチの操作性が高いといっても、慣れるまで十分なトレーニングが必要だ。だが精密な動きで腹部の神経を傷つけず手術ができるので、術後に尿失禁や性機能障害が起きるリスクを減らせる。小さな穴を腹部に数カ所開けるだけなので、傷が小さく、出血も極めて少ない。

さらに操作は座ったまま可能なので、医師が長時間立って手術を強いられることも無い。突発的な動きや手ぶれを制御する機能があり、手術する医師にもメリットがある。こうした多くの利点から「前立腺がんの手術はダヴィンチが一般的」といえるほどに普及が進んできている。

同病院では停電などに備えて非常用の電源を備えており、万が一の事態のために開腹手術も可能な体制になっている。

「手術なし」の件数でトップだったのは国保旭中央病院(千葉県旭市)。ロボット手術も行うが、それ以外の治療手段も幅広くそろえ、放射線や化学療法など様々な治療が可能だ。

泌尿器科の中津裕臣主任部長は「周囲30キロメートルに前立腺がんを診られる病院がないので、全ての治療ができる体制にしている」と語る。

同病院ではロボット手術よりも放射線治療の方が数が多い。16年は約100例の放射線治療を実施。主に「強度変調放射線治療(IMRT)」と呼ばれる方法で、コンピューター断層撮影装置(CT)で得られるがんの形に合わせて正確に放射線を当てる。健康な組織にできるだけダメージを与えずに済む。

中津主任部長は「早期の前立腺がんならば、手術と放射線どちらも選べるが、進行すると放射線が中心」と説明する。

ただIMRTは照射ポイントの設定に時間がかかり、1~2カ月先に治療が先送りになることもある。このためIMRTよりも照射の精度が粗いものの、早く治療開始可能な「3次元原体放射線治療(3DCRT)」も受けられるようにしている。

併用が効果的

原三信病院(福岡市博多区)は、泌尿器科に強い病院として全国に名をはせる。泌尿器科医が20人という大学病院並みの布陣だ。

標準治療以外に、温度を活用した治療も積極的に手がけている。「サーモトロン」と「高密度焦点式超音波療法(HIFU)」だ。いずれも、電磁波および超音波でがんを加熱し、治療効果を高める。

サーモトロンは電磁波で42度以上にがんを熱する。電子レンジと似たような仕組みだ。放射線治療・ハイパーサーミアセンターの寺島広美医師は、「がん細胞は熱に弱く、放射線や抗がん剤の増強効果もあり、併用治療が効果的だ」と話す。比較的進行した患者に使うことが多いという。

一方、HIFUは体内に超音波を集中させてがんを90度以上に温め死滅させる治療。早期のがんに用いるのが一般的だ。

新薬相次ぎ 選択肢拡大

前立腺がんは早期ならば手術か放射線で治療し、進行していたり転移があったりしたら化学療法を行うのが一般的だ。他のがんよりも進行が遅く、がんが悪化するより前に寿命を全うすることもある。

原三信病院の山口秋人副院長は、「過剰な治療がかえって患者に悪い結果をもたらすこともある」と話す。悪化の兆候が見られるまでは経過観察をすることも、前立腺がんでは普通だ。

がん治療では最近、抗がん剤の進化がめざましく、前立腺がんも例に漏れない。2014年以降、立て続けに新薬が発売され、治療の選択肢が増えている。

同年に発売された「ジェブタナ」は、従来型の抗がん剤「タキソテール」が効かなくなった場合の手段になる。骨に転移した場合には16年発売の「ゾーフィゴ」という薬が使用できるようになっている。

前立腺がんは男性ホルモンで増殖し悪化する。14年に発売された「イクスタンジ」「ザイティガ」は、その男性ホルモンの働きを抑える薬だ。

ホルモン抑制薬は一般に通常の抗がん剤よりも体への負担が少ない。従来のホルモン抑制薬は数年たつと効かなくなるが、選択肢が増えたためホルモン抑制薬を使える期間が延びている。

前立腺がんは、前立腺特異抗原(PSA)検査で見つかることが多い。血液を採取するだけで調べられるので、企業検診などで広く普及している。

厚生労働省は現在、公的ながん検診用にPSA検査を推奨していない。死亡率が低下する証拠が不十分との立場だ。もっとも専門家の間では有用性に関して意見が割れており、今後推奨度が変わる可能性もある。

調査の概要 調査は、症例数(診療実績)、医療の質や患者サービス(運営体制)、医療従事者の配置や医療機器などの設備(施設体制)の3つの視点で、病院選びの際に参考となる情報を、日経リサーチに依頼してインターネット上の公開データから抽出して実施した。
診療実績 厚生労働省が2017年2月に公開した15年4月~16年3月の退院患者数を症例数とした。対象は病名や手術方式で医療費を定額とするDPC制度を導入した1667病院のほか、導入準備中などを含め計3191病院。症例数の後の*は0~9例の誤差あり。「-」は0~9例。
運営体制 公益財団法人「日本医療機能評価機構」(東京)が病院の依頼で医療の質や安全管理、患者サービスなどの項目を審査した結果を100点満点で換算。点数の後に*があるのは13年4月以降の評価方法「3rdG」で審査された病院で、各項目をS=4点、A=3点、B=2点、C=1点として合算、100点満点に換算した。
施設体制 医療従事者の配置や医療機器などについて、厚労省が定めた診療報酬施設基準を満たしたとして各病院が届け出た項目を比べた。16年10~12月時点での届出受理医療機関名簿を集計した。
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