秋を探しに 草紅葉が美しい名所10選
湿原や高山を彩る景色を草紅葉(もみじ)と呼ぶ。
秋の到来を告げる名所をランキングした。
■枯れゆくさまも しみじみ美しく
樹木の紅葉より一足早く、秋の訪れを知らせる「草紅葉(くさもみじ)」。湿原で多く見られ、高山植物が赤や黄金色に"衣替え"する。
葉だけでなく全体が色づいたり、時期や場所で違ったり。草紅葉の魅力は多彩さだ。例えばヨモギではだいだい色と赤紫色が入り交じる。イネ科など茎が色づく品種では1本の中でのグラデーションも楽しめる。
1位の尾瀬ケ原では、草紅葉は9月中旬に始まり下旬にピークを迎える。周辺の樹木も色づき始め、10月には紅葉との共演が期待できる。自然観察指導員の高野哲司さんは「落葉する樹木の紅葉と違い、草紅葉は枯れていくさまも楽しめる。わびさびやものの哀れを身近に感じられるのも魅力」と話す。
草紅葉の定義は難しい。紅葉と黄葉を分ける場合もあれば、イネ科など狭義の草に限る考え方もある。チングルマなど低木植物を評価する選者も多く、今回は秋を彩る草木を幅広く対象にした。10位には入らなかったが、阿蘇・草千里(熊本県)や葦毛(いもう)湿原(愛知県)を推す声もあった。
この時期、高山や湿原は朝夕冷え込む。登山が必要な場所など、十分な備えが必要だ。体力と相談し、無理なく楽しめる場所を選びたい。
湿原一帯に黄金色のきらめき(群馬・福島・新潟県)
初夏のミズバショウが有名だが、秋は湿原が草紅葉に彩られる。「やわらかな秋の日差しで一帯が黄金色にきらめく。山々も赤や黄に染まり、濃い緑の針葉樹と併せて豊かな色彩が楽しめる」(杉下弥生さん)。「スゲ類、シモツケ、モウセンゴケなどが見事」(倉田英司さん)
尾瀬はとにかく広い。一般的なのは、JR沼田駅や上越新幹線上毛高原駅からバスで約2時間の鳩待峠から入るルート。下り道を約1時間歩くと、ビジターセンターや山小屋のある尾瀬ケ原の入り口、山ノ鼻に到着する。5分ほど歩けば至仏山を望む写真の景色が広がる。早朝や夕方には「黄金色の湿原に(もやに光が反射してできる)『白い虹』がかかることも」(萩原浩司さん)。
(1)027・220・4431(尾瀬保護財団)(2)9月下旬から10月上旬
真っ赤な高原 圧倒的スケール(北海道)
黒岳や旭岳など2000メートル級の山々が高原を抱き、日本一早く紅葉を迎える場所としても知られる。「圧倒的なスケール。山肌を覆うチングルマやウラシマツツジの醸し出す紅葉は見事」(倉田さん)
アクセスしやすい「旭岳ロープウェイ」の姿見駅周辺も十分にきれいだが、体力に余裕があれば、裾合平まで足を延ばすともっと草紅葉を楽しめる。「紅葉に初雪が加わるとさらに美しい」(木原浩さん)。裾合平近くには、秘湯中の秘湯として知られる天然の露天風呂、中岳温泉もある。
(1)0166・97・2153(旭岳ビジターセンター)(2)9月中旬から下旬
シラカバ背景に漂う物寂しさ(栃木県)
戦場ケ原の西側に広がり、シラカバやカラマツに囲まれた一帯。「『貴婦人』と呼ばれるシラカバの大樹と草紅葉の取り合わせは必見」(中村義毅さん)だ。朝霧の名所で、夜明け前から多数のカメラマンが狙う。「一面のササの葉が濃黄色に変わり始め、物寂しさが漂う頃がいい」(大場秀章さん)。「背後の木々とのバランスが、見る人の心を和ませてくれる」(平野隆久さん)
シカによる被害が深刻な時期もあったが、柵の設置など対策が進んだ。「ホザキシモツケやトダシバが赤や黄色に染まるとセピア色のじゅうたんが敷かれたような趣」(杉下さん)で、「秋の残花も楽しめる」(久志博信さん)
(1)0288・22・1525(日光市観光協会)(2)9月下旬から10月上旬
見事なモザイク模様 織りなす(青森県)
「キツネ色に染まった草紅葉の高原。赤や黄色に色づいた木々。深い緑の針葉樹の森。見事なモザイク模様を織りなしている」(萩原さん)。おすすめは毛無岱(けなしたい)を通って酸ケ湯(すかゆ)に下るコース。「イネ科やスゲ類を中心とした薄茶色の中に、ゴゼンタチバナの赤黒い色が交じる」(山田隆彦さん)
「酸ケ湯方面に下ると、草紅葉のじゅうたんがぱっと広がる。天上の楽園を歩いているよう」(高橋重さん)。
(1)017・738・0343(八甲田ロープウェー)(2)10月上旬
沼が映す青空とのコントラスト(山形県)
見どころの弥陀ケ原湿原は八合目駐車場の目前。「晴れた日には木道周辺に点在する沼池が青空を映し出し、金色の草とのコントラストが鮮やか」(萩原さん)。「色彩的な変化が楽しめる」(平野さん)
秋は「登山道から見渡すチングルマ、湿原のスゲやカヤ類」(倉田さん)が見どころ。「たおやかな山稜に広がる草紅葉を楽しみながら頂上の小屋に泊まり、荘厳なご来光を期待しよう」(中村さん)。
(1)0237・74・4119(月山朝日観光協会)(2)9月下旬から10月上旬
起伏ない頂上に大湿原広がる(新潟・長野県)
新潟、長野両県にまたがる標高約2100メートルの山頂に「飛行場のような湿原の草紅葉」(高橋さん)が広がる。「苗場」の名は、湿原の沼池に群生するミヤマホタルイが田に植えた苗のように見えることに由来するという。
「起伏のない頂上に広がる大湿原に沼池も光り、まさに山上の楽園。頂上の山小屋に泊まりたい」(中村さん)。大広間に泊まるログハウス風の施設は夕朝食もある。
(1)025・767・2202(長野県栄村役場秋山支所)(2)9月中旬から1~2週間
湿原の入り口から全貌を見渡す(長野県)
ススキの白い穂が目立つなか、オニゼンマイやヤマドリゼンマイの赤茶色の群落、タチフウロやアケボノフウロの紅葉が楽しめる。「湿原の入り口に立てば湿原全体を眺望でき、草紅葉の全貌が見える。湿原を一周すると変化に富んだ自然を楽しめる」(山田さん)
霧ケ峰高原を走るビーナスラインで湿原自体へのアクセスも良い。「すぐそばまで車で行けるので、高齢者や足の弱い方でも満喫できる」(倉田さん)。
(1)0266・52・7000(八島ビジターセンター)(2)9月半ば~10月下旬
ツツジの赤と草の錦 油絵のよう(大分県)
「黄金色に輝くススキの穂と、色づき始めた紅葉が相まって素晴らしい景観が望める」(杉下さん)。標高1700メートル級の山に囲まれた盆地にあり「ほどよいハイキングの後に広大に色づく大地が現れる」(久志さん)。「ドウダンツツジの赤と草の錦が目にも鮮やかな油絵のようで強い印象が残る」(高橋さん)
「山懐にたたずむ登山者の交差点。のんびりテントで楽しむのもいい」(中村さん)。
(1)0973・79・2154(長者原ビジターセンター)(2)10月中旬から下旬
荒涼感漂う神秘的な溶岩台地(北海道)
標高850メートルの溶岩台地に広がる「北海道の尾瀬」。見どころは「一面に広がる大小の沼池と黄葉のオゼコウホネ、サワギキョウ、ナガボノシロワレモコウ」(高橋さん)。北海道ならではの静かな雰囲気に包まれ「神秘的な景色が良い」(平野さん)。「どこまでも広がる湿地の雄大さに息をのむ。荒涼感が魅力」(大場さん)
湿原散策のシーズンは短い。例年6月初旬に雪解けを迎え、初雪がちらつき始める10月には閉山する。
(1)0125・77・2673(雨竜町観光協会)(2)9月中旬から10月上旬
風に揺れ息づくススキの原(奈良県)
約38ヘクタールの高原に、銀色の穂が波打つ光景は圧巻。「スケールの大きなススキの原は風に揺れ息づいている。沈む夕日と共に鑑賞したい」(中村さん)。「緩やかな起伏の斜面を背に広がる、一木たりとも目に入らないススキの原にはぬくもりさえ感じる」(大場さん)
近畿地区唯一のランクイン。灯籠(とうろう)の明かりが夜のススキを浮かび上がらせる「山灯(やまあか)り」も催される。
(1)0745・94・2106(曽爾村観光協会)(2)10月上旬から11月下旬
◇ ◇ ◇
ランキングの見方 数字は選者の評価を点数に換算した総得点。地名、所在地。(1)問い合わせ先電話番号(2)例年の見ごろ。写真は1位尾瀬保護財団、2位木原浩、3位日光市観光協会、4位八甲田ロープウェー、5位月山朝日観光協会、6位鍵谷哲也、7位八島ビジターセンター、8位長者原ビジターセンター、9位佐々木純一、10位曽爾村観光協会提供。
調査の方法 専門家の協力で「草紅葉の名所」32カ所を選定。専門家にベスト10を選んでもらい、点数を付けて集計した。選者は以下の通り(敬称略、五十音順)。
大場秀章(東京大学名誉教授)▽木原浩(植物写真家)▽倉田英司(東京山草会事務局長)▽杉下弥生(日本ヴォーグ社「私の花生活」編集長)▽高橋重(登山家)▽中村義毅(栃の葉書房出版写真部)▽萩原浩司(山と渓谷社山岳図書出版部部長)▽久志博信(山野草研究家)▽平野隆久(植物写真家)▽山田隆彦(日本植物友の会副会長)
[NIKKEIプラス1 2017年9月16日付]
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