グローバルビジネスのわな 世界市場との向き合い方
「グローバルビジネス」という言葉の意味は割とぼんやりしている PIXTA
私が若かったころ、ある経営者の方から「日本人はアメリカのことを見てグローバルだと言うけれど、それは間違いだ。本当にグローバルなビジネスマンになりたければ、日本とアメリカ、ヨーロッパの三極がわかるようになりなさい」と教えられたことがあります。
アメリカとヨーロッパでは、ビジネスのルールも、消費者のニーズも、戦略の常識も違う。そのことを理解しないと世界を相手にしたビジネスでは成功しないという教えです。それに加えて1990年頃までは日本が世界の三極のひとつだったという点も懐かしい気がします。
現代のグローバルビジネスは、当時よりもっと大変です。中国、インド、ロシア、ブラジルといった新興国が大きな市場になってきたため、ビジネスを拡大するのであればそれらのマーケットを知ることが重要になります。
ところがアメリカとヨーロッパの違い以上に、中国もインドもロシアも、それぞれ大きく違います。さらに、それらに続いて発展する国や地域があって、それらもまた異なる常識、異なるルールの国々だったりするわけです。
グローバルをひとまとめに考えるべきではない
ですから、これらの国々を相手にするビジネス戦略を考える場合には、本当はそれぞれの国に対しての深い専門知識が必要になります。国ごとに常識が違うので、グローバルなビジネスでは思いもよらないさまざまな出来事が襲ってきます。逆に言えば、グローバルビジネスで起きるこういったとんでもない事柄は、戦略思考の訓練の格好の題材になりますね。
常識にとらわれることなく、柔軟な発想を駆使しながら問題に取り組んでみましょう。「事実はフィクションよりも奇なり」というように、みなさんの想像を超える答が待っていたようであれば、それを発想を広げるための知識として活用すればいいのです。
発展途上国の工業化は、まずミシンで縫製する繊維工場から始まるものです。ところが、1990年代を通じてケニアでは87社以上の繊維工場が閉鎖され、ザンビアの繊維産業では約3万人が失業しました。ウガンダやタンザニアでも同様の状況が起きたといいます。アフリカの縫製工場の脅威として、ミトゥンバという安価で魅力的な繊維商品が大量に出回ることが地元の繊維工業に打撃を与えたというのですが、そのミトゥンバとはいったいどのような商品なのでしょう?
【ヒント】
中国よりもずっと人件費が安い国。そのようなアフリカ諸国で製造する衣服よりもさらに安くて高品質のものとは一体何でしょう。
正解 先進国でリサイクルに出された衣料
先進国で寄付されたり、リサイクルされたりした衣料は50~900キロ単位の俵状に梱包されてアフリカ諸国に出荷されていきます。色鮮やかで品質のいいこういった古着はミトゥンバと呼ばれ、アフリカ各地で古着市場が形成されているのです。原価がほぼ無料ですから、地元の工場が歯がたたないのも当然に思えますね。グローバル経済の矛盾から学ぶものもたくさんあるはずです。
多国籍企業で働くことでグローバルビジネスとは何かがわかるのでしょうか?
実は、多国籍企業といっても世界中で成功している企業はそれほど多くはありません。
コカ・コーラやディズニー、アップルのような、多くの国でビジネスが成功している企業は例外で、実はアメリカの多国籍企業の大半は、海外事業が生み出す利益の大半をカナダとメキシコで稼いでいるのです。
アメリカ企業は、国ごとに規制や消費者の価値観や言葉が異なるヨーロッパ市場で適応するのはあまり得意ではありません。その一方で、ヨーロッパ企業は、アメリカ企業のような大きな企業で単純な価格競争、コスト競争で勝ち抜くことは難しい様子です。
グローバルビジネスとはローカルビジネスの集積
ましてや成長のポテンシャルが似ているというだけで、文化も消費者も政治的安定度合も言語も違うロシア、中国、ブラジル、インドをひとつの成長ブロックだなどと考えるのは、まったくナンセンスです。結局のところ、グローバルビジネスとは、国ごとに異なるローカルビジネスであるという点に本質があるようです。
ところで国ごとに異なるがゆえに、グローバルビジネスでは思わぬ障害、思わぬ失敗、思わぬ競争相手というものに直面する機会がたくさんあります。実際にビジネスをやっている方にとってはとんでもない表現かもしれませんが、こういった思わぬ事例というのは、戦略思考を鍛えるには格好の研究材料ですね。
幸い、グローバル時代ということで、書店に行くとさまざまな国のビジネス事情を紹介した書籍がたくさん並んでいます。自分に関係ない国だと思わずに、戦略思考のトレーニングの材料としてそのような情報を有効に活用してみてはどうでしょうか。
※「戦略思考トレーニング」は木曜更新です。
百年コンサルティング代表取締役。東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループを経て2003年に独立。持ち前の分析力と洞察力を武器に企業間の複雑な競争原理を解明する競争戦略の専門家として活躍。