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父・謙一氏は戦前の講談社で看板雑誌「少年倶楽部(くらぶ)」の編集長を務め、戦後は独立して「漫画少年」を創刊した。

父は大変な読書家で、我が家はいつも本であふれていました。そんなこともあって、小さいころから和洋やジャンルを問わず、古典から現代ものまで手当たり次第に目を通してきました。

かとう・たけお 1938年東京生まれ。東大卒。富士電機に入り、副社長、会長を歴任。2013年から現職。著書に父の伝記『「漫画少年」物語』がある。

かとう・たけお 1938年東京生まれ。東大卒。富士電機に入り、副社長、会長を歴任。2013年から現職。著書に父の伝記『「漫画少年」物語』がある。

漫画雑誌の発行元だったので、漫画もよく手にしました。手塚治虫は『ジャングル大帝』『火の鳥』はもちろん、読んでない作品はないと思います。

この10年ほどは、明治から昭和にかけての近現代史と関連する評論を中心に読んでいます。石橋湛山、高坂正堯、粕谷一希に関する一連の著作は座右の書といえるかもしれません。1冊には絞りにくいですが、昨年出版された五百旗頭真・中西寛編『高坂正堯と戦後日本』はよい本でした。いまの日本を考えるうえで苅部直、簑原俊洋らの主張にも共感します。その中では細谷雄一著『安保論争』を推薦します。後藤新平も評伝はほとんど読んでいます。

総合雑誌が全盛だった時代に「中央公論」編集長を務めた粕谷さんには生前、親しくしていただき、主宰する勉強会「東京史遊会」にも参加しました。そこで芳賀徹、高階秀爾、相田雪雄、金平輝子さんら優れた読書人と付き合う機会を得て、大いに啓発されました。粕谷さんには、読書を通じてこそ過去に学び、現在の世の中の動きを正しく捉え、未来を考えることができるとの信念がありました。勉強会の末席に加えていただいたのは、政治家、官僚、経営者の中にも読書人が多くいてほしいと願っていたからでしょう。

 そうした経験もあり、民間から公文書館の館長に迎えられた。

現代史への関心が近年強まったのは、いまの仕事も影響しています。公文書館は春と秋に特別展を、加えてやや小規模な企画展を年4回開いています。そのときどきの展示に関連した本をじっくり読むようになりました。

今年春の特別展「誕生 日本国憲法」は大変な盛況でした。同時開催の講演会の講師をお願いした古関彰一さんの『日本国憲法の誕生 増補改訂版』には感銘を受けました。2年前のケネディ大統領の特別展の際は、土田宏著『ケネディ―「神話」と実像』、ビル・オライリーほか著『ケネディ暗殺 50年目の真実』などを読みました。なかでもケン・フォレット著『永遠の始まり』は大変よかったです。

3年前の特別展「江戸時代の罪と罰」を企画した当館に勤務する氏家幹人は文章も大変優れています。彼が書いた同名の著書は、当時の社会の実相を知るうえで必読の本だと思います。

余談ですが、せっかく資料の宝庫に毎日いるのに見たことがないのはどうかと思い、古文書の読み解きにも挑戦しています。同じ時代の同じ種類の文書には共通して使われる文字や言い回しがあります。それを手掛かりに読んでいくと急に「わかった」という瞬間があり、パズルを解くようです。

 40~50歳代のころは時代小説にはまっていた。

池波正太郎は小説だけでなく、随筆も全部読み、『鬼平犯科帳』はドラマのDVDも全巻購入しました。彼の好きな散歩コースを歩き、好みの蕎麦(そば)屋や食堂に立ち寄るのはいまも楽しみです。池波の後を継げる作家としては、逢坂剛の近藤重蔵が主役のシリーズに期待しています。

吉村昭も全作品を読む作家のひとりです。『大黒屋光太夫』など丹念な取材をもとにした作品には、吉村の誠実な人柄が表れていると思います。自分としては長編より短編が好きです。

趣味がクラシック音楽を聴くことなので、その分野の評論や随筆にも手を伸ばします。ご本人を存じ上げていることもあり、中野雄『指揮者の役割』、梅津時比古『音のかなたへ』は興味深く読みました。

昨年、出版された本でいちばん面白かったのはユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』でした。ベストセラーになったので、いまさらと思われるかもしれませんが、大ヒットする前に自民党の細田博之総務会長に薦められて読みました。慧眼(けいがん)に敬意を表します。

(聞き手は編集委員 大石格)
【私の読書遍歴】
《座右の書》
石橋湛山、高坂正堯、粕谷一希、後藤新平の著作や関連する評論。行動や思想に共感した人たちの著作や関連する本は続けざまにすべて読むことにしている。
《その他の愛読書など》
(1)『鬼平犯科帳』シリーズ(池波正太郎著、文春文庫)。40~50歳代のときに時代小説にはまった。池波正太郎は随筆もすべて読んでいる。
(2)『落日の宴 勘定奉行川路聖謨』(上・下、吉村昭著、講談社文庫)
(3)『大黒屋光太夫』(上・下、吉村昭著、新潮文庫)。丹念な取材に作者の人柄を感じる。
(4)『重蔵始末』シリーズ(逢坂剛著、講談社文庫)
(5)『ジャングル大帝』シリーズ(手塚治虫著、講談社ほか)
(6)『火の鳥』シリーズ(手塚治虫著、講談社ほか)。漫画編集者だった父の影響で手塚作品も読破した。
[日本経済新聞朝刊2017年7月15日付]

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