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ジェットスター・ジャパン 旅客サービス・訓練マネージャー 小倉沙織さん

ジェットスター・ジャパン 旅客サービス・訓練マネージャー 小倉沙織さん

格安航空会社(LCC)のジェットスター・ジャパンで日本就航を実現した立ち上げ当初のメンバーだったのが、旅客サービス・訓練マネージャーの小倉沙織さんだ。航空会社の設立という、めったにできない経験で磨いたコミュニケーション力を生かしてスタッフを育成。現在は右腕となる部下を育てながら、家庭では子育てにも奮闘している。

5年で15都市を結ぶまでに成長した

皆さんはLCCを利用したことはありますか? ジェットスターグループはオーストラリアのメルボルンに本社を構える格安航空会社です。日本では成田空港を拠点とするジェットスター・ジャパンが設立され、2012年7月に成田―新千歳、福岡線が就航。現在では国内外15都市25路線にまで広がりました。

私が担っているのは、各地の空港で働く地上スタッフの教育とカスタマーサービスです。基本的には成田空港で仕事をしていますが、新しい路線が就航する際には現地へ飛びます。スタッフの教育、空港内のチェックインカウンターの設計、オペレーションの指導などにあたります。無事に就航を迎え、通常業務が始まると、またそれぞれに改良すべき点が出てくるので、ハード面とソフト面の両面から調整を続け、さらなるサービス向上を目指していきます。

就航準備期間は10人足らずで一人ひとりが責任重大だった

社員は900人強まで増えましたが、私が入社した当時は社長を含めてわずか8人でした。社員10人足らずで飛行機を飛ばす事業をスタートさせるというのは、並大抵のことではありません。協力会社の皆さんに支えてもらいながら、一人ひとりがそれぞれの持ち場で決定権を持って仕事をどんどん進めていかねばなりません。

私はジェットスターブランドのポリシーを学ぶべく、まずはオーストラリアへ飛びました。2カ月間、1人のエージェントとして働きながらトレーナーの勉強をし、ジェットスターのマニュアルを日本版に改訂する作業にも着手。帰国後は空港のカウンターづくりとスタッフの採用・教育に追われました。

すべての業務が関わりあっていて、誰かの仕事が滞ると飛行機が飛ばないという状況。正直、かなりのプレッシャーでした。でも、「私がこの仕事を期限までにやらないと困る人が出てしまう。○○さんが困る」と思うと頑張れました。あのころ、一緒に頑張り抜いたメンバーは今でも親戚のような存在です。7月3日に成田空港から北海道へ向けて飛び立った第1便の姿は忘れられません。

学生が気軽に乗れる飛行機を日本にも

私は自動車メーカーで約8年間、営業職として働いていました。その後、もともと旅行好きだったこともあり、ヴァージン・アトランティック航空へ入社。転職して、ジェットスターに入り今に至ります。当時ヴァージン航空はハイクラスなサービスを好むお客様に選ばれていた航空会社で、1日1便しかない空港にも専用ラウンジがあり、ビジネスクラスのお客様には自宅前から搭乗口までハイヤーで送迎するサービスもありました。

高級なものを求めるお客様とリーズナブルなものを求めるお客様は、それぞれニーズが異なります。当時、日本の航空業界には高級志向の選択肢はありましたが、手軽に利用できる航空会社がありませんでした。そんな中、米国ではすでにLCCが30年以上の歴史を持っていました。日本でもLCCへの関心が高まっていた当時、「旅をしたい学生でも気軽に利用できる飛行機があったらいいのに」という私の思いを知った現在の本部長が声をかけてくれて、ジェットスターの日本就航準備メンバーとして入社することになったのです。

30代で転職、3年後に出産

ジェットスターに転職する際、頭をよぎったのは「30代でこれから転職して子供は産めるだろうか?」ということでした。明確なライフプランがあったわけではありませんでしたが、迷ったことを覚えています。その問題はとりあえず横に置いてジェットスターで働き始めたわけですが、転職から3年後に無事、出産することができました。

産休に入るときには「もしかしたら仕事にはもう戻れないかもしれない」という思いがよぎりました。子育てがどんなものか未知数でしたし、「子育てをしながら仕事もしたいというのは自分のエゴなのではないか?」という気持ちもありました。「そもそも子供を産んで育てるのは今しかできないし、ママは私しかいない。だけど、私は仕事が好きだし、果たして仕事を手放して、ママとしての自分だけでいいのだろうか」と、いろいろな思いが巡り葛藤しました。

「私にとっては会社が長男で、子供が次男みたいな感じ」という

「私にとっては会社が長男で、子供が次男みたいな感じ」という

職場復帰したものの、どっちつかずの状態に

結論はというと、半年ほどで早々に職場復帰しました。ただ、復帰してしばらくは、どっちつかずの自分にもんもんとしていました。午後6時には仕事を切り上げなければならないので、プロジェクトの真ん中で立ち回れない。会社は子育て中か否かに関係なくポジションを選ばせてくれるのに、仕事をやりきれないから自分で諦めなければいけない。

そんな思いを抱えたまま働き続けて3、4カ月たったころからでしょうか、いつの間にか「できることだけやっていこう。子供が一人いるということはこれまでとは違うのだから」と思えるようになりました。今は保育園と両親のサポートに頼りながら、子育てと仕事を両立しています。

泊まりの出張はできるだけ避けたいのですが、海外の空港での仕事がある時は仕方がありません。そんな場合は子供を寝かしつけてから出発し、翌日の夜までには帰宅。そうすれば子供に寂しい思いをさせるのは朝だけで済みます。時間のやりくりを自由にできたり、理由を問わず誰でも週に2回在宅勤務ができたりするので、とても助かっています。

クリアな解答を持って臨む

仕事をする中で大切にしているのは、自分の中にクリアな解答を持つこと。何のためにそれをやるのか、なぜそれが必要なのか、結論として落としどころはどこか、をよく考えるようにしています。ものごとを進めるときには、自分の中に曖昧さがあると相手に納得してもらえません。それは、スタッフや後進教育の場でも、取引先との商談でも、官公庁の許可を得るときでも同じです。

日本就航前の準備段階では官公庁とのやりとりが多く、年配の男性担当者の中には、ベンチャー企業の若い女性ということで、なかなか真剣に向き合ってくれない人もいました。「誰か男の人を連れてきて」と言われたときには悔しかったですし、後日同席してもらった上長にも申し訳ない気持ちになりました。そうした経験のおかげで、しっかり勉強して知識をつけ、よく考え、説明するというコミュニケーション力や交渉力が身についたと思います。

あえて自分と似ていないタイプを部下に

今はお客様サービスの向上はもちろんですが、自分に代わって仕事を任せられる人を育てることが大きな仕事だと感じています。右腕になる後輩を育てるべく、2017年春から初めて直属の部下を持ち、マンツーマンで仕事を教えています。20歳代の男性です。

会社から彼を部下にするかしないか判断を迫られたとき、決め手になったのは、彼が自分と正反対のタイプだったことでした。自分と似たタイプの人との仕事は楽ですが、それでは同じ方向にしか広がらず、似た人間ばかりの組織になってしまいます。私は常々、1機の中に様々な人が同席するのが飛行機の面白いところだと思っているのですが、組織もいろいろな人がいるほうが面白いと思っています。

そんな後輩に伝えていきたいのは私のポリシーではなく、ジェットスターのポリシー。私が100%正解ではありません。だからこそ、私がお客様からお叱りをいただく姿も間近で見てもらいます。それが貴重な教育になると思っています。

それにしても部下を持つというのは大変なことです。相談ごとが多いうえ、勤怠管理もしなければならず、面倒なことがいっぱい。でも、とても勉強になります。私が当たり前だと思っていることが当たり前ではなく、「こういうことがわからないのか、こう考えるのか」と、発見があり、刺激をもらっています。

頑張る皆がいるから私も頑張れる

「自分がお客様だったらこうしてもらったらうれしいな」を考えながらいつも仕事をしていますが、状況によってはお客様にNOを言わなければならないケースもあります。そんな場合には言い方や物腰に気を配ります。だめなことをいかにプラスに伝えられるか、納得していただけるかが大切です。

クレームをいただいたお客様から、最後に「ありがとう、あなたが対応してくれてよかった」と言われると、とてもうれしいです。スタッフ向けのマニュアルづくりなどは直接お客様の目に触れるものではありませんが、社内から「わかりやすかった」という声が上がれば、やはりうれしい。「寝ないで頑張ってよかった」と思います。私はこの会社の人たちが好きです。皆が頑張っているから、私もそれに応えたくて頑張っていけるのだと思います。

取材後記

転職時の履歴書に「クレーム対応が得意」と書いたという小倉さん。「様々な状況に対応できるたくさんのポケットは経験から得られるもの。私は現場が好きです」と言います。クレーム対応はお客様や会社への愛情があってこそできる仕事。「私にとっては会社が長男で、子供が次男みたいな感じ」という言葉にも思わず納得です。撮影のためにオフィス内にお邪魔すると、社員の仲の良さ、オープンな雰囲気が伝わってきました。

小倉沙織
 ジェットスター・ジャパン空港本部 空港オペレーション部旅客サービス・訓練マネージャー。2011年、ジェットスター・ジャパンに入社。12年の日本就航に尽力。一児の母。千葉県生まれ。

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