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稼ぐ! 戦略思考トレーニング

古い事例を今に生かす 共通する課題や対応策を見抜く

2017/9/14

米グーグルのビジネスは法律やプライバシーの問題を巧みにかわす設計で成り立っている

 最近の企業には“あそび”の部分が少なくなってきましたね。時代の流れで仕方のないことかもしれませんが、コンプライアンス(法令順守)や説明責任といったキーワードが重要視される分だけ、企業経営に余裕の部分が減ってきたと思います。これは正しい経営にとっては大切なことなのですが、戦略思考においては由々しき問題を引き起こします。

 戦略を発想するにあたって、コンプライアンスにひっかかりそうなもの、不道徳になりそうなもの、株主に説明しにくいものを考える前に排除してしまうからです。

 別に法律に反する計画や謀略を考えようと言っているわけではありません。ここは重要なところなので強調しておきたいのですが、コンプライアンスにひっかかりそうなものと、コンプライアンスに反するものは別物です。前者は微妙な問題があるかもしれないので慎重に設計しなければならないもの、後者は違法なものと考えれば、前者を必死に考えることは別に悪いことでもなんでもないことがわかると思います。

 戦略思考力を鍛えるためには、発想の枠を狭くしてはだめです。

 その観点で言えば、「この領域はコンプライアンス上、微妙な問題があるから最初から考えることをやめよう」「こういう進め方ではわが社の場合、説明責任が問われて先に進まないだろうから考えるのをやめよう」という発想が強い人は、それだけ戦略思考の幅を自分で狭めていることになります。

 考えてみてください。グーグルのビジネスモデルは道徳的に問題があるのではないかと感じる人も少なくないでしょう。あなたが何かを調べて(検索して)いるのを察知して、そこに広告を打つことで利益を稼いでいるのですから。

 でも微妙な問題をはらんで発想されたグーグルという商品は、広く世の中で受け入れられているどころか、世界を支配する力を持つまでに成長しています。その理由は「あなたが何を検索したのか、誰にもその情報は開示されない」ように商品が作られているからです。

 さて、そのような観点から、株主への説明責任やコンプライアンス、商道徳に反する問題を出そうと思ったのですが、すみません、私もよくよく考えてそのやり方は断念しました。やっぱり違法な戦略を推奨するわけではないとはいえ、微妙な問題を出すは結構難しいのです。

■昔の成功パターンも参考になる

 その代わりに、こういった発想を門前払いしない思考力を鍛える目的での別の問題を探しました(ちなみにこの方針転換の仕方は、戦略思考力の賜物ですよ)。昔はこんなことがあったんだという問題です。

 今だったらこんなこと、消費者を軽視しているんじゃないのとか、批判することもできるけれど、その時代においては精一杯考えてベストな解として通用するものだったという話です。

 昔はこういうことが通用したんだという視点で、自分だったら発想だけでもこういったことを考えることができるかどうかということを考えながら、問題を解いてみてください。

問題
 デル・コンピュータのように、注文を受けてから製造するビルド・トゥ・オーダー(BTO)という業態は在庫効率がよくて競争上有利だといわれますが、実際はなかなかそのようなビジネスモデルを構築するのは簡単ではありません。実質的にBTOに近い効果を出すために、アパレルのベネトンは染色工程を生産工程全体の一番最後に持っていくことで、人気の色の商品を速く市場に投入する工夫で優位性を築きました。さて、1980年代に、ある大手自動車メーカーでも車の色についてある工夫をすることで、人気車種の注文から納車までのスピードを上げていたのですが、当時どんな工夫をしていたのでしょう?

【ヒント】
どんなに効率的に生産をしても、注文があってから車を生産していたのでは消費者を1カ月も待たせてしまいます。ですから見込み生産をしなくてはならないのですが、そのような時代にどうやって人気車種を短納期で納品したのでしょう?

■正解 白い車の人気を高めて、注文を集中させた

 この当時、新車市場では白い車が人気でした。その理由はというと、実はこの会社のセールス方針がそうだったから。そして実際にディーラーのセールスマンはセールスマニュアルのトークを通じて、非常に高い確率で顧客に白い車を買ってもらうようにもっていくことに成功していました。白い車は人気だし、下取り価格も実際に高い。それに白い車は納車も早いということで、1980年代の中盤は、街を走る車は大半が白かったものでした。人気車種の注文から納車までのスピードを上げるコツは、注文の大半が人気車種という状態にしてしまうという発想でした。

 歴史は繰り返すと言いますが、どんなに時代が変わっても、政治では同じような問題が巻き起こり、同じような難しい状況があらわれて、同じような激動が引き起こされるという傾向があります。

 その場に身をゆだねているとどう判断していいかわからないような難しい政治問題も、ローマ時代の歴史を振り返ってみれば、よく似た状況が何度も起きていたり、結局は同じような力学にそって時代が収束していったりということがよくあります。

 そのような政治や外交に比べて、経営というものは歴史から学ぶという姿勢が少ない領域に思えます。おそらくわれわれの考えの前提に、これだけITや通信が進んだ時代に、戦前や高度成長期時代のビジネス事例に通用するものがあるわけがないという思い込みがあるのだと思います。

 ただ、私はそうは考えていません。結構、歴史的事例というものには、いまだに学ぶべきものがたくさんあるものです。特に日本企業が1970年代に経験してきたことは、いくつかの新興国では現在進行形の問題として通用するはずです。労働争議の問題、流通網構築の問題、コンプライアンスの問題、公害問題など、一定の状況下で企業や社員がどのような行動を示すかというルールには、普遍的な法則性があるものです。

 みなさんも古い経営事例を目にすることがあったら、なぜこのようなことが起きたのか、そして現代でも同じことが起きる可能性はないのか、考えてみるといいですよ。それが戦略思考力を広げるひとつの訓練になるはずです。

[「日経Bizアカデミー」で2013年11月15日に公開した記事を転載]

「戦略思考トレーニング」は木曜更新です。

鈴木貴博
 百年コンサルティング代表取締役。東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループを経て2003年に独立。持ち前の分析力と洞察力を武器に企業間の複雑な競争原理を解明する競争戦略の専門家として活躍。

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