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働くママの支援サービスを起業 保活の実体験から着想 マザーネット社長 上田理恵子さん

2017/9/13

客員教授を務める追手門学院大学でのゼミ風景(写真中央上)

 働く女性の増加に伴い、仕事と育児の両立に悩む家庭が多い。マザーネット(大阪市)はシッターサービスに加え、家事代行や親の両親のケアなど、ワーキングマザー(ワーママ)を総合的に支援するサービスを手がける。深刻化する待機児童問題に対応するため、法人向けの保活(子どもを保育園に入れるための活動)コンシェルジュサービスも始めた。上田理恵子社長に自身の保活経験や同社設立の経緯、ワーママへのアドバイスなどを聞いた。

■不妊治療経て第1子出産 社内の育休取得第1号に

 私が大学を卒業して大手空調機メーカーに入社したのは、男女雇用機会均等法が施行される2年前の1984年。就職が厳しい時代で、事務系・技術系大卒社員71人中、女性はたった2人でした。設計部に配属され、工場で男性社員とともに夜遅くまで食器洗浄機の開発を行う日々を送っていました。

 入社3年目の24歳のときに学生時代から付き合っていた人と結婚し、翌年、本社に転勤。それからは新規事業開発室で商品開発の仕事に没頭しました。

 私の母が専業主婦だったこともあり、自分もいずれ子どもができたら会社を辞めて育児に専念するんだろうなと漠然と考えていました。でも、結婚後に参加した異業種交流会で多くの社外のワーキングマザーに出会ったことがきっかけで、「子どもを大切にしながらしなやかに仕事をする、あんなすてきな女性に私もなりたい」とあこがれるようになりました。

 結婚直後から子どもを希望していたのですが、なかなか子宝に恵まれませんでした。2年にわたる不妊治療の末、30歳で待望の第1子を出産。社内の育児休暇取得第1号になりました。

■生後4カ月で入所、復職 保活の経験生かし、会設立

 当時から「保活」は大変でした。私の住む市では、出生届と同時に保育園の入園申し込みが必要でした。それを知らずに11月生まれの長男の首が据わった翌年1月から見学を開始した私は子どもを抱いて第1希望の園に行ったところ、保育士の先生から衝撃のひと言が。 「働き続けたいなら、4月から7月までに産むのが常識。お母さん、知らなかったの?」。

 それでもあきらめきれずに「どこか入れる園はないですか」と何度もしつこく市役所に通ううちに「また上田さんか」と、担当者から名前を覚えられ、「そんなにうるさいんやったら、保育所に入ってもらいます」。どうにか第8希望の家庭保育所に入れることができました。本当は育休を1年取りたかったのですが、生後4カ月で入所させて復職することにしました。

 このときに経験した苦労をほかのママにもしてほしくないとの思いから「『キャリアと家庭』両立をめざす会」を、次男を出産する3日前の94年7月に私1人で設立しました。平日夜は自宅の電話を開放してママからの悩み事相談を受け、土曜は大阪市内の会場を借りてママたちと情報交換会を開催。会の活動を知った山形や福岡など遠方のママたちから「情報交換会の内容を教えてほしい」との要望を受け、後に月刊誌の発行も始めました。

 次男は生まれた翌年から保育園に入ることができ、私は復職後も会の活動を続けていました。そのころには1日20件ほどの電話相談が寄せられるようになっていました。

■ママからの切実な声受け シッターサービスを創業

 そんなある夜、中小企業に勤めるママから熱を出した子どもの預け先がないという内容の電話がありました。「うちの会社は平日休めない。上田さんの会社は大企業なんだから、明日有休を使って子どもの面倒を見にきてくれませんか」。切実な声でした。

 電話相談と情報交換会だけで、自分は中途半端なことをしているのではないか――。本当に困っている人を助けられないことに葛藤がありました。

 出産・育児を通じて働く意味を考えるようになり、「自分でしかできないことをしよう」と考え、17年間勤めた会社を退職。2001年に病児のケアも行うシッターサービスのマザーネットを創業しました。

 当初は関西地区中心でしたが、「私の住んでいる千葉県市川市でもぜひやってほしい」との要望を受け、創業5カ月目には関東地区に進出。その後も長野、福岡にエリアを拡大し、今では北は札幌、南は鹿児島までカバーしています。

 とりわけ都市部で待機児童問題は深刻です。保育園に入れなければ育休を延長せざるを得ず、企業にとっても女性社員が復職できなければ大きな戦力損失になります。そこで、これまでの情報交換会などで蓄積された保活の情報やノウハウを生かし、法人対象の「保活コンシェルジュサービス」を13年からスタートさせました。

 独自のネットワークを使ったり自治体に直接確認したりして、「今度、○○市で保育園が新規開設される」といった情報を入手。それらを基に入園に向けたアドバイスを提供しています。

■ワーママ増え上司も苦悩 各自が歩み寄り負担を軽減

 育児と自分の親の介護が重なるダブルケアが社会問題になっていますが、近ごろ問い合わせが多いのはペアレントサービスです。例えば白内障やがん治療などは介護保険の対象外ですが、働くママ・パパは遠方に住んでいる親御さんがこのような病気になっても、頼るところがどこにもない。そんな高齢者をケアするサービスです。利用者からは「親をサポートしてくれるので安心して海外赴任ができるようになった」と感謝の声をいただきました。

 働くママが増える一方で職場の上司の悩みも増えています。管理職向けワークライフバランス・セミナーで講演すると、終了後は質問の嵐。その多くが「育休を取得する女性社員が増えたのに、現場の人員が増えない」「働くママの時短勤務のしわ寄せが独身女性と男性社員に集中してしまって不満が高まり、職場のモチベーションが上がらない」といったマネジメントについてのことです。

 こうした問題は社員それぞれの少しずつの歩み寄りが重要だと考えます。ワーママは子どもを保育園に入れられたら、残業まではしなくても、復職直後からフルタイム勤務を目指す。初めはつらいかもしれませんが、それで職場が回ります。また、週末出勤の職場では、パパの協力を得ながら月に1回でも土・日出勤ができれば全体の負担が和らぎます。

次男の星(せい)さん(写真右)の大学院での研究テーマは「男性保育士はなぜ増えないか」

■家事代行を上手に使って、子どもとの時間の確保を

 高齢出産の増加に伴い、最近はダブルケアに自分自身を加えた「トリプルケア」という言葉も出てきています。年を取るほど体力的にしんどくなり、知らず知らずのうちにストレスを抱えていることがあります。そんなときは気分転換を兼ねて家族で外食に行くのもいいのではないでしょうか。

 仕事をしていると、どうしても家でできることが限られます。私の印象だとむしろ働くママのほうが「自分で何でもやらないと」というこだわりが強い傾向があるようです。自分の中で優先順位をつけて家事代行サービスをうまく利用することで体を休めて、お子さんとのコミュニケーションの時間を確保してください。

 私自身も企業に勤務していたころは夜遅くまで残業もあって、子どもたちとゆっくり過ごす時間がありませんでした。忙しいとどうしても愛情が伝わりづらい。

 ではどうすれば深いコミュニケーションが取れるのかと考え、実行したことがあります。それは日ごろから子どもたちに「大好き」と言葉で伝えることでした。彼らもすごくうれしそうで、「お母さんは自分のことを大切に思ってくれているんだ」と分かってくれた様子でした。

 この習慣は子どもたちが大きくなってからも続けました。以前、高校生だった次男に「お母さん、誰好きか知ってる ?」と聞いたら、照れ隠しで蹴飛ばされましたが。そんな彼も今年で23歳になり、今では「はいはい。分かってるって」と半ばあきれながらも受け止めてくれるようになりました。

上田理恵子
 マザーネット社長。1961年鳥取県生まれ。84年大阪市立大学卒業後、ダイキン工業に入社。2001年同社退職後、マザーネット設立。16年追手門学院大学客員教授に就任。著書に「働くママに効く心のビタミン」(日経BP社)。

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