自宅で簡単、本格「わら納豆」作り あなたもトライ!
「納豆をはじめて食べた人は偉いよね~」。
この手の会話は酒の席や家庭の食卓で何度となく繰り返されてきたのではないだろうか。ネバネバ糸をひく納豆の見てくれと匂い。慣れてしまえばとてもおいしそうに思えるのだが、どうしても苦手、絶対無理という人もやはり多い。
なにせ納豆とは発酵した豆なのだ。
発酵と腐敗は紙ひとえ。「だって腐った豆なんでしょ?」と抵抗を感じる人がいるのも無理はない。タイでは納豆を「トゥアナオ」と呼ぶそうだが、これはまさしく「腐った豆」という意味らしい。
たとえば納豆のパックをあけて表面につぶつぶと白いものがついているのも、疑ってかかればいぶかしい。「これ、食べていいんだろうか?」と悩んだことがある人もいるかもしれないが、このつぶつぶはアミノ酸の結晶で、もちろん食べても全く害はない。
ところで、皆さんは大豆がどのようにして納豆になるのか見たことがあるだろうか。納豆好きを自認する私も、納豆は買ったことしかなく、大豆からの変化の過程は見たことがない。ならば何事も経験、作ってみようじゃないかと思い立ち、納豆づくり体験に参加してきた。
挑むは「わら納豆」。稲わらを束ねたつとの中で発酵させた、昔ながらの納豆だ。
用意するものは「大豆100グラム、水、納豆菌、容器(わらづとでもタッパーでも可)、保温用の箱、お湯、鍋」。
用意できたら数日がかりでの納豆作りのはじまり、はじまり。
(1)まず下準備として大豆を洗い、一晩水につけておく。一晩たったら水切りし、大豆を蒸す。鍋で煮るなら6時間。圧力鍋で1時間が目安だ。
(2)蒸したてホヤホヤの煮豆からはほっくりした香りがたちのぼる。この煮豆に納豆菌をかける。湯で薄めたものを霧吹きなどに入れてふりかけるといい。
(3)ここで稲わらの登場。わらづとの中央をたぐるようにしてくぼみをつくり、まだあたたかい大豆を詰めていく。詰め終わったら、再度わらづとにも納豆菌をスプレーしておくと安心。
(4)容器に入れ、発酵させる。プラスチック容器などに入れるといい。庫内はあたたかくしておくのがポイント。ペットボトルに50℃のお湯を入れ、箱に入れておいてあたためるのが簡単だ。納豆菌は生きているので、容器は密閉しないこと。キリなどで通気口をあける。
まだこの段階では豆からは蒸し大豆の匂いしかしていない。この匂いを確認してから箱の中で寝かせる。ここからは納豆菌が働いてくれるのを待つのみ。
目には見えないが、納豆菌、フル活動中。時々箱の中をのぞきながら待つ時間の楽しさよ。
さて、1日たったところで、おそるおそるわらの中をのぞいてみると、豆に白い膜がはったようになっている。これは納豆然としてきたぞ。
今度は冷蔵庫に移して熟成させる。さらに1日おいたものを取り出して、見てみると、ちゃんと糸もひいている。これは納豆だ! ドキドキしながら皿に盛り、食べてみた。味はまだあっさりしている。
ここからさらに2日熟成さて、ワラをあけてみた。
おぉー!! 強い粘りと、よく知っているあの納豆の香り。もはや売り物にもひけをとらない立派な納豆が出来上がっているじゃないか。かきまぜればネバ―っとよく粘る。
ちなみに納豆菌は市販の納豆からもとれるが、失敗を防ぐには納豆菌を買うとよい。納豆の作り方は意外に簡単。時間さえかければ、誰でも自宅で納豆を作ることが可能だ。
ところで、豆が発酵するのは納豆菌の働きのおかげだ。
納豆菌は約1万年前には自然界に存在したと考えられ、日本産の稲わらには約1,000万個の納豆菌が、胞子の状態で付着しているとされる。わらづとは昔からなんでも入れる容器として使われていたというから、わらづとの中で大豆が自然発酵したのは想像に難くない。
納豆の発祥には諸説あるが、納豆のようなものは縄文時代から食べられていたのではという説がある。大豆が伝来したのは縄文時代のことだが、当時の竪穴式住居では稲わらをしいて暮らしていたため、家の中で大豆が自然発酵したのでは?という説だ。もちろん当時はまだ納豆という呼称はないが、縄文人が納豆のようなものを食べていた可能性は高いという。
もうひとつには源義家がある。義家が戦いの際に、村人から献上された豆を馬にのせて運んだところ、馬の体温で発酵し糸を引くようになり、義家が自らの強さを誇示するためにこれを食べたという説だ。他にも戦国武将とのかかわりを伝える説がいろいろある。馬の体温くらいの温度で発酵が進むというのが興味深い。
納豆菌はとても強い菌で、熱や寒さにも強く、マイナス100℃まで生きられる。つまり納豆は冷凍保存も可能ということだ。またO157などの病原性大腸菌を抑制する効果もある。納豆菌が腸内に入ると善玉菌を増やす働きをすることもわかっている。
納豆には夏に嬉しい働きもある。タンパク質とビタミンB1が豊富な納豆は夏バテにも効果が期待できるのだ。たんぱく質には免疫力を高める効果が期待でき、ビタミンB1には老廃物の代謝を促し、疲労を回復させる働きがあるからだ。
さらに納豆は大人の強い味方にもなってくれる。なんと納豆を食べると肝機能改善効果も期待できるというのだ。
全国納豆協同組合連合会によると、酒のシメにおすすめの肝臓お助けレシピはラーメンではなく納豆カレーだそう。納豆の成分と、カレーのクルクミンの相乗効果で肝臓をいたわることができるからだ。二日酔いのときには、納豆に塩だけかけて、そのままさっぱり食べるのもいい。
これからしばらくはまだ残暑も続く。納豆パワーで今年最後の夏バテ対策はいかがだろうか? お酒を飲む日には、飲む前にも飲んだ後にも納豆を試してみてはいかが?
(日本の旅ライター 吉野りり花)
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