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焼き肉のたれにこだわる 新味を尋ね、好みの店を探す

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NIKKEI STYLE

思いがけず知らない街で、ひとり、急いでランチを食べるハメになったことはないだろうか。

土地勘はない、頼れる連れもいない、ゆっくりネット検索をする時間もない。周囲を見渡しても、見覚えある全国チェーンのひとつもなく、当てずっぽうで入るには勇気がいる店ばかり。無策に困り果て、ひとり、立ち尽くしたことはないだろうか。

だがそんなとき、通りすがりの人たちが「この店、すっごいおいしいんだよ。今度一緒に行こうよ」と、目の前の店を指差しているのを見てしまったら…? もっけの幸い、棚からぼたもち。神様が「これを食え」と教えてくれたと信じて、乗っかるのが上策だ。

先日の私がそれだった。

通りすがりの人に感謝しつつ、入ったのは焼き肉店。周囲の人の注文はほぼ「ハラミ定食」一択。うん、これ絶対間違いないやつだ。繁盛している店で、ほぼ全員が同じメニューを食べているのは、おいしいか、お値打ちか、もしくはその両方に決まっている。

さも当然のごとく、私もハラミ定食を注文した。

そのハラミ定食が実に良かった。

まず肉がいい。そして肉の量がたっぷりある。これでこの値段とは、ランチとはいえ驚きである。

さらにたれがいい。なんともいい具合に肉を引き立て、ごはんとの相性も抜群。このたれだから肉をもりもり食べられるし、このたれだからごはんも進む。このたれあってこその人気メニューなのだと、しみじみ感動しながら完食した。

焼き肉には、たれ派と塩派がいる。

私は長年、ゴリゴリの塩派だった。塩の方が素材そのものの味がわかると信じていたし、酒にはたれは合わない、塩に決まっていると思っていた。さらにいうなら塩の方が通っぽいし、大人っぽいし、かっこいい感じがするじゃないか。「大人っぽい」という理由で選んでる時点ですでに子供っぽいのだが、カッコつけの私はいつでもどこでも「塩」を選んできた。

だが鼻腔(びこう)をくすぐったとき「あっ 焼き肉!」とお腹がなるのは、どちらかというとたれだ。またいろいろな店を経験するうちに、うまい店にはうまいたれがあることもわかってくる。甘ったるいからと敬遠していたが、スッキリしたキレが自慢のたれもある。肉の部位によってあえて甘くする店もある。

「たれより塩」と十把ひとからげに嫌っているのは、あまりにも狭量だった。

しかして今は「どちらも両方味わいたい欲張り派」である。塩には塩の、たれにはたれのうまさがある。どちらか一方なんて決められない。

なんならひとくちずつ塩、たれ、塩、たれと食べたいくらいだ。甘いと辛いの無限ループで、死ぬほど肉が食べられるに違いない。

焼き肉のたれは、大まかに「もみだれ」と「つけだれ」に分けられる。

もみだれは、焼く前に肉と合わせるたれのこと。あらかじめからませることで、肉を柔らかくし味をつける。ロースやカルビなどの正肉はしょうゆベース、レバーやギアラ、シマチョウなどのホルモン系は味噌ベースというのが一般的だが、地域により、店により様々だ。東海地方ではなんでも味噌ベースの店も多いし、千葉にある友人の店のように「うちのお客さんは濃い味は好まないので、ホルモンだろうが味噌は隠し味程度にしか入れないよ」というところもある。

一方つけだれは、焼きあがった肉を食べるときにつけるたれのこと。

レモンや酢を加え口当たりをさっぱりさせたもの、ごま油やネギを合わせた香り高いもの、辛味の強いもの、日本の焼き肉店らしく梅干しを使ったものなど、これまた店により様々だ。もみだれとはガラッと味を違えていることが多く、その組み合わせの妙が腕の見せどころといった観もある。

そして先ほど「たれ派と塩派」と言ったが、実は塩もただ塩をかけるのではなく、塩だれを作ってからませる店が結構多い。塩コショウのシンプルさも捨てがたいが、酒やゴマ、ニンニクの風味豊かな塩だれはまた別次元のおいしさだ。自作も簡単なので、自宅で試行錯誤するのも楽しいだろう。

焼き肉は、調理法が「焼くだけ」という、とてもシンプルなもの。それだけにたれに個性を出そうと、どの店もどのメーカーもしのぎを削っている。

たれの味が決まるまで何年もかかったり、何代も受け継がれた門外不出の味もあれば、季節の果物を加えたり、今の時代だからできる海外の調味料を合わせたりと日々進化していくたれもある。新しいたれがあれば、新しい味の扉が開く。たれを知ることは、自分好みの店を探す大きな手がかりになる。

焼き肉の味は、時代によってずいぶんと変化してきた。

今日本にあるのは「現在の朝鮮半島から直輸入された本場の味」と、それよりずっと以前からある「オモニの味をベースにしてはいるが、長年日本の土壌で独自の発展を遂げた在日コリアンの味」のふたつだ。

洋食と同じ、と考えれば合点が行くだろう。

フランスやイタリアなどから少しずつ入ってきた外国料理は、日本で入手しやすい材料や、日本の調理器具で作りやすいかたちに置き換えられ、味も見た目もどんどん変化しながら定着していった。生まれた時からアルデンテの若者と、子供のころはケチャップ炒めのスパゲチしかなかった中高年では、同じパスタでも出合った味がまるで違う。

コロッケとクロケットのどちらが正しいかという話がバカげているように、本場の韓国料理と在日コリアンの味のどちらがいいという話ではない。焼き肉のスタンダードとして当たり前のように受け入れているつけだれは、実は戦後、大阪・鶴橋の店で考案されたものだという。私たちにとって「普通の焼き肉」とは、やはり日本で育まれた在日コリアンの味なのだ、と思う。

私の焼き肉の原体験は、館山のネオンあやしき裏路地にあった小さな店だ。

ガスホースが部屋中にのたうちまわる畳の座敷。カセットコンロはまだ普及しておらず、炭火の無煙ロースターなどもちろんない時代。煙がもうもうと充満してよく見えないテレビでは、たいていデビルマンをやっていた。ということは土曜日の20時過ぎだ。今は便利だ、ネットでなんでも調べられる。子供の自分が何時に焼き肉を食べていたかの確認までできるのだから。

おっと閑話休題。そうだ、父はその店でたまにたれを分けてもらっていた。育ち盛りの太った子供が3人いた我が家では、自宅でもガスホースを台所からうんと伸ばして自宅焼き肉をよくやっていたからだ。

牛乳瓶に入れられ大事に家まで運んだたれは、決して妻子には触らせず、父自らがうやうやしく肉にかけるものだった。当時は質より量だったから、間違いなく安い肉だったろう。でもノスタルジア込み込みなのは百も承知で言うが、あの焼き肉は本当においしかった。時には近所の幼なじみも呼んで、ヤブ蚊だらけの庭で肉を焼いたものだ。彼らは覚えているだろうか。

今でも繁華街を歩いていると、見知らぬ店から漂う焼き肉のたれの香りに、自分でも驚くほどハッとすることがある。それはきっと、あのデビルマンの焼き肉屋のたれと同じ成分を感じているからだろう。つまり現代的な韓国料理ではなく、在日コリアンの味。押し寄せる本場スタイルに、駆逐されそうなあの味。冒頭のハラミ定食のたれがひどく印象的だったのも、そういうことなのかもしれない。

変わった部位を数多く揃える焼き肉店で「実は今、ロースやカルビなどの普通の肉を、たれでおいしく食べさせることに夢中になっている」と聞いたことがある。また別のある店では今「焦げないたれ」を開発中だと伺った。

同じ肉でもたれで台無しにもなれば、極上にもなる。うまいたれは、おいしい焼き肉時間を過ごすためのマストアイテムなのだ。

(食ライター じろまるいずみ)

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