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過剰な批判や叱責を受け流すのも仕事の知恵だ PIXTA

過剰な批判や叱責を受け流すのも仕事の知恵だ PIXTA

「誇張」にはおおげさ、うそっぽいなど、あまりよいイメージがありません。「誇張」とは、実際よりもオーバーに表現すること。でも、それは決して悪いことばかりではありません。

おおらかな人を「太陽のような人」、純粋な性格を「天使のようだ」と、特徴を表現するのはポジティブな誇張です。しかし、こうしたうれしくなる誇張ばかりではありません。人を傷つけるようなことを平気で口にする人は、必要以上にマイナスの方向に誇張して話をするものです。

「そんなことでは何度やっても失敗する」「そんなやり方では誰にも相手にされないぞ」。すべてを否定するようなこうした批判や叱責は言葉の勢いが加わりすぎて、必要以上にマイナスの方向へ誇張されています。

「何度やっても失敗する」とか、「誰にも相手にされない」と決めつけていますが、単に本人がそう思っているだけで、成功する確率はゼロではないかもしれません。興味を持ってくれる人が現れる可能性もあるでしょう。つまり、「全否定」は多くの場合、誇張が度を越えているのです。

こういった誇張が的はずれであることは理屈では誰もが分かっています。しかし、マイナスの方向に誇張された批判や叱責にまじめに反応してしまう人や、悲観的になる人は後を絶ちません。なぜでしょうか?

それは、「マイナスの誇張」の暗示にかかっているからです。発語者の強い情念を帯びた誇張表現は時に実力以上の説得力を持ってしまうもの。勢いが暗示効果をまとってしまうのです。だから、暗示にかからなければ、批判や叱責を受けたことが本当にその通りであるのかを、冷静に分析することができます。まずは「マイナスの誇張」は、その場の勢いであって現実とは異なるという点を、あらためて確認しておきましょう。

第三者的な冷静さで、マイナスの誇張を真に受けない

ビジネス社会は戦いの連続、世の中は荒波だらけと受け止めれば、つらく苦しいことの当事者になってしまいます。当然、ショックも大きく、怒りや悲しみに揺さぶられることになります。でも、第三者の視点に立てば、自分を客観視できます。すべてを否定するかのような、マイナスの方向に誇張された批判や叱責も、「よくある話」と受け止めることができます。そもそも本当に賢い人はこういった極端な物言いを避けるはず。つまり、過剰な誇張を好む人は「その程度」の人と見て、心理的ダメージを抑えることも可能になります。

世の中は楽しいことがたくさんあり、ビジネスの場でも心躍ることがあります。マイナスの誇張にめげていたら、その間に素晴らしい出会いを逃してしまうかもしれません。もっと楽しいことに視点を置き、気分を変えましょう。そのきっかけになってくれるのが「プラスの誇張」です。

踏み込んだ褒め言葉は相手との距離を縮める PIXTA

踏み込んだ褒め言葉は相手との距離を縮める PIXTA

「プラスの誇張」はお世辞ではありません。褒め言葉に近いのですが、相手の魅力や才能を評価し、相手の気持ちも弾ませる表現です。たとえば、いつも身だしなみに気を配っている人に「きちんとしていますね」「おしゃれですね」と声を掛けるのは、見たままの状況を褒めているのに過ぎません。ここにプラスの誇張を加えると、「そのすてきな服は、どちらで見付けたのですか?」「●●さんの着こなしをまねしたいのですが、コツを教えてもらえますか?」というような表現になります。

一見、似たような褒め言葉に見えますが、「どちらで見付けた」のほうには、装いを単純に「おしゃれ」と褒めるだけではなく、その服を探し出すセンスまでひっくるめてリスペクトする気持ちが込められています。探し回る面倒を惜しまないで、自分らしい服を選ぶ態度にも目配りがきいています。「まねしたい」は表面的に「きれい」と感じるレベルを超えて、相手に近づきたいと考えるほどの評価を示しています。相手からおしゃれポリシーを語ってもらえるよう、水を向けているので、会話がつながります。どちらも表現がくどすぎないところがポイントです。

もう一歩踏み込んで褒めるメリット

仕事をてきぱきこなす人に「行動力がありますね」といえば、相手はうれしいに違いありませんが、「行動力」という言葉があいまいでいま一つピンと来ないでしょう。そこでプラスの誇張を加えれば、「そのやりきる力は、どこから生まれるのですか?」「●●さんを見ていると、私ももっと自分から動かないと、と気合が入ります」となります。

相手の行動力の「中身」を考えて褒める行為は、その行動力を見習ううえでも意味を持ちます。会議の最中からもう電話で交渉を始めるとか、社外の勉強会に進んで参加するといった、具体的な「行動」にまでブレークダウンしてはじめて行動力の中身が分かり、まねできるようになるからです。褒め方を考えるのは、褒める相手をじっくり観察することにつながり、自分がそれを見習う手掛かりにもなるのです。

踏み込んで褒めるのは、最初のうち、気恥ずかしいと思えるでしょう。あざとく見えはしまいかと、心配になるかもしれません。でも、日本人は他人をちゃんと褒めない傾向があるので、正面から褒めてもらえると、相手はかなりうれしい気持ちになります。感謝や尊敬を心の中だけで感じていても、相手には伝わりにくいもの。しっかり口に出すと、間柄が一気によくなることが珍しくありません。

表現を少し変えるだけで、相手の心にあなたの言葉は深くしみていきます。人間関係はより豊かになるでしょう。プラスの誇張は、不平不満をためている自分をなだめ、やる気や元気を引き出すきっかけにもなります。プラスの誇張を活用して、明るい気分と愉快な人間関係を手に入れましょう。

次回は、誰もが魅了される「穏やかな話し方」です。キーワードは「ゆっくり、はっきり、すっきり」です。お楽しみに!

「臼井流最高の話し方」は水曜更新です。次回は8月30日の予定です。

臼井由妃
 ビジネス作家、エッセイスト、講演家、経営者。熱海市観光宣伝大使としても活動中。著作は60冊を超える。最新刊は「今日からできる最高の話し方」(PHP文庫)
 公式サイト http://www.usuiyuki.com/

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