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アイリッシュウイスキーの栄枯盛衰 時代に弄ばれた酒

世界5大ウイスキーの一角・ジャパニーズ(5)

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NIKKEI STYLE

「1779年、アイルランドの免許登録蒸溜所の数は1,228カ所に上った。そして、大都市に集中し、大規模化していった」と前回書いた。直感的にちょっと多過ぎるのではないかと疑問に感じた方もいらしただろう。評価が高まる国産ウイスキーへと至るウイスキーの歴史と魅力をひもとく本連載、今回もアイリッシュの物語から……。

アイルランドでは、人口の大部分を占める小作人や貧農はこぞって密造ウイスキーを作ってきた。「ポティーン」と呼ばれてきた。大英帝国に、そして地主にも苦しめられてきたアイルランドの農民たちがささやかな安らぎを得たのが、癒しの力を持つと信じられていたこのポティーンであった。

ポティーンとはゲール語で「小さな蒸溜釜」の意味だ。それが蒸溜液そのものを指すようになった。発酵液を蒸溜して作るが、原料は穀類、乳清、砂糖大根、廃糖蜜、ジャガイモ、リンゴなどであったので、ウイスキーよりスピリッツと呼んだ方がよいかもしれない。

今、アイルランドではたくさんのポティーン製品が売られている。私が試飲したポティーンの味は、ウイスキーよりむしろ泡盛の新酒のような感じであった。

この1,228カ所にはポティーンを作る小規模なものも入っていたと思われる。

ところが、1790年には登録蒸溜所の数は246カ所に激減する。酒税法が変わったからだ。蒸溜時間や操業日に算出基準を設けて、その基準と蒸溜釜の大きさを掛け算して蒸溜能力を算出する。そして、作っても作らなくてもこの仮定の蒸溜能力に対して課税されるようになったのだ。

このように酒税法が不利に働いた業者が密造に走るのは世界共通の現象である。

この法律が制定されたのは、アイルランドで飲まれるウイスキーの量が激増したためだ。

飲酒動向に変化が起き始めたのは1770年ごろからだった。都市部で飲まれるポティーン、そしてウイスキーの量が増えていった。新たに飲み始めたのは、商業革命や産業革命の始まりとともに生まれた労働者階級であり、人口増加の中核でもあった。それまでアイリッシュウイスキーを飲んでいた階層、すなわち貴族や富裕層とは異なる階層である。

1770年の酒税収入内訳の筆頭はラムで51%、ウイスキー25%、ジンとブランデーがそれぞれ10%であったのが、1790年にはウイスキーは66%を占めるに至った。

急ピッチで消費量が増えるウイスキーへの課税は政府の喫緊の課題であった。制定されたのが冒頭の設備能力に課税する税制である。この制度が零細業者の地下への逃避を進めたが、そのマイナスを帳消しにしただけでなくプラスになったのは、大規模業者の蒸溜免許取得が進んだこと、そして生産拠点の大消費地への集中であった。

安定して算出基準を超える操業度を維持できる大規模業者にとっては好都合な税制であった。集中したのは首都ダブリンと南部最大の工業都市コーク。新興階級の人口増大とともにアイルランドは世界一のウイスキー消費国になって行く。

そして、1823年法が制定される。

この法規が画期的なのは、蒸溜免許料がそれまでの半額になったこと、酒税の課税が生産時ではなく販売時に行われること、設備や製造法についての前提・規制が取り払われたことであった。

蒸溜業者は、ウイスキーの質を上げるためどれほど時間をかけて丁寧に蒸溜しても構わない。釜のサイズについての規制がなくなったので、超大型釜の導入も可能、保税倉庫で貯酒してもその期間、酒税支払いが発生しない。これは運転資金を大幅に減らせるということである。

登録蒸溜所数はとんとん拍子に増え、1835年には19世紀最多の93カ所を数えるに至った。そして、1833年にはアイルランドの蒸溜量はイングランド、そしてスコットランドの両方を追い抜いた。

しかし、いいことは長く続かなかった。

コークへのドライブの車内で研究所長から聞いた話はこうであった。

まず、アイリッシュウイスキーを襲う困難の波が早くも1830年代の終わりに押し寄せる。経済不況であり、酒税増税であり、節酒運動の高まりであり、1845年から49年にかけてのジャガイモ飢饉である。

需要減少のあおりを受けて免許取得蒸溜所数も1847年には51カ所に減る。

蒸溜業界が活路を見出したのは、産業革命が進行中のヴィクトリア朝大英帝国や英連邦諸国への輸出であった。役立ったのは長い伝統に培われた蒸溜技術である。

例えば、スコッチ最大の蒸溜釜の4倍、143キロリットルの容量を持つ巨大蒸溜釜の導入であり、効率のよい連続式蒸溜機の発明であった。

しかし持ち直したのも束の間、再び厳しい状況に襲われる。1870年代終わりからであった。

増税・ジャガイモ飢饉の後遺症としての人口減。ジャガイモ飢饉への対応として教会が指導した飲酒習慣改善・節酒運動の進展。ビール飲用の広がりなどによる国内消費の落ち込み。スコッチブレンデッドウイスキーの伸長などによる海外市場での競争激化であった。

とどめは、1920~33年のアメリカでの禁酒法施行、そしてアイルランド独立運動に手を焼いた大英帝国による1922年の関税引き上げである。大英帝国市場からのアイルランド製品の締め出しを図ったのだ。

こうしてアイリッシュウイスキーは完膚無きまでに叩きのめされる。その酷さは以下の数字でよく分かる。1920年90蒸溜所、1945年6蒸溜所、1966年2社2蒸溜所、そして、1972年1社2蒸溜所。まさに止めを刺されたのだった。

次回は、コークに到着した翌日訪れたミドルトン蒸溜所から話を始めたい。そして、アイリッシュウイスキーに何が起きたかを紹介したい。

今回お奨めするウイスキーは、キルベガンである。

ダブリンから大西洋に面したゴールウエイに向かい高速道路を西に真っ直ぐ80キロ、キルベガンの集落にある同名の蒸溜所に因んだアイリッシュブレンデッドウイスキーである。

1757年に蒸溜免許を取得し稼動開始以来、1954年に生産は休止したものの2007年に再稼動するまで免許を維持してきたアイルランドで最長の免許維持記録を持つ蒸溜所である。設備は1970年代以来、地元有志によって稼動可能状態にメンテナンスされてきた。

創設したマクマナス家から1797年にコッド家に渡った後、アイリッシュウイスキー最大手の1社、今はなきジョン・ロック社が1843年に買収。その後50年間、アイリッシュウイスキーの黄金期を謳歌した。

1900年以後も他の蒸溜所に比べれば長い間稼動を続けたが、運命には逆らえずと思いきや、救いの神が現われこの蒸溜所を買収し、生産を再開するという大きな僥倖がもたらされたのである。

蒸溜所のある村には6世紀にアイルランド12聖人の一人、聖ベガンが立てた修道院があった。キルベガンとは「ベガンの教会」という意味である。その後新たな修道院が建てられたが、1539年に地元民に払い下げられ、更地になった。そして再度教会が建設されたが、現在は廃墟となっている。

キルベガン蒸溜所の原酒の酒質を味わえる日を楽しみにしながらも、現行製品のレモンのような柑橘系のフレッシュさと微かなハチミツの甘さ、ビスケットのような芳ばしさ、そしてオークの心地良い味わいを楽しんでいただきたい。

(サントリースピリッツ社専任シニアスペシャリスト=ウイスキー 三鍋昌春)

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