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仕事人秘録セレクション

東日本大震災を越えて ヨーグルトで小岩井再建  一点突破 再興に挑む(12) キリンビール社長 布施孝之氏

2017/8/11

「生乳100%ヨーグルト」でV字回復の端緒をつかんだ(前から2列目の中央が本人)

 キリンビールの布施孝之社長の「仕事人秘録」。第12回はヨーグルトを武器に小岩井乳業の経営再建に挑んだ日々を振り返ります。

――小岩井乳業の経営再建の切り札として狙いを定めたのが「生乳100%ヨーグルト」だった。

 リストラで形勢はとりあえず建て直しました。次は攻めです。「会社のため身をひいてくれた先輩のためにも必ずいい会社にしよう」。2011年の仕事始めの訓示でこう話しました。

 ところが、今度は天災です。東日本大震災に見舞われたのでした。2011年3月11日。ちょうど岩手県の小岩井農場に全営業担当者を集結させ、総決起大会を開いていた時でした。その後、震災の影響で生産は止まり、11年度も赤字になりました。

 そして12年、今度こそ本当に攻めです。しかし、リストラに震災の被害が加わり、会社に余力はほとんどありません。こういう時に必要なのは経営資源を一点に集中させること。小さくてもいいからそこから突破口を開くことです。

 問題はどの商品を核とするかです。私はそれを「生乳100%ヨーグルト」に定めました。小岩井で製造部長を務めた荒蒔康一郎氏(のちのキリンビール社長)の発案で開発された商品で、原材料は生乳だけ。専用タンクを使い長時間かけ前発酵させたうえで、その後丁寧にかき混ぜてしあげるのです。品質の高さにこだわった小岩井らしいフラッグシップになる商品だと言えました。

 ただ、看板商品なのに一般消費者に知れ渡っているとは言えませんでした。担当者に聞くと「みんな知ってくれています」とは言いますが、それはメーカーの言い分でした。何せ私自身が、小岩井に来るまでのこの商品の製造方法を知りませんでした。

――あえて高めの目標値を設定し、無理を承知で挑戦させた。

 私が指示した2012年の生乳の売上高の目標値は前年比50%増でした。それまでの成長率はだいたい2~3%でしたので、これはとんでもない数字でした。担当者も「特売などの施策で10%増ならできる。でも50%増はとても無理だ」と言います。

 しかし、私は断固として首を縦に振りませんでした。「過去の延長線上で考えるな。やるためにはどうするかを考えて欲しい」。そう言い続け目標値を下げませんでした。こうなれば担当者も必死になります。

 社員がみんな懸命に取り組んでくれました。これまでほとんど売り込みをかけてこなかった牛乳販売店を開拓、コンビニやスーパーマーケットでも目につきやすい棚の位置に商品を置いてもらえるよう改善を進めてくれました。

 その年、「生乳100%ヨーグルト」の売上高は目標には届きませんでした。しかし前年比で30%増加、その後も売り上げは伸び続け、5年たつと2倍にまで成長しました。生乳だけでなくチーズやバターの取り扱いも増え、小岩井乳業は見事、増収増益のV字回復を果たすことができたのでした。

[日経産業新聞2016年8月9日付]

仕事人秘録セレクションは金曜更新です。次回は2017年8月18日の予定です。

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