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若い頃、人生には正しいもの、確かなことが必要で、それを探そうと思っていた。

ところが、そうではなかったのです。人はしょっちゅう間違えます。どんなに偉い人でも間違えます。絶対的に正しい真実などないのです。だから常に議論して、間違いは直して、前に進んでいくべきなのです。

たかはし・のりひろ 1957年生まれ。東大法卒。農林中央金庫で債券投資部長などを務めた運用のプロ。JA三井リース社長を経て2016年から現職。

たかはし・のりひろ 1957年生まれ。東大法卒。農林中央金庫で債券投資部長などを務めた運用のプロ。JA三井リース社長を経て2016年から現職。

それを教えてくれたのは大学生活も終わるころに法哲学の先生が紹介してくれた『開かれた社会とその敵』という本でした。もともとは物理が専門のカール・ポパーという人が第2次世界大戦中に書いたものです。本の中で「社会の敵」とされるのは古代ギリシャの哲学者プラトンやマルクスです。

共に偉大な歴史上の人物のはずですが、プラトンについては「本質主義」というものを持ち出したことが問題だとしています。例えば、プラトンが「愛の本質はこれだ」と語ると、それを反証するのは難しいわけです。力のある人がそう言うとそれが真実であり、定義となってしまうのです。意見が言いにくい、閉じた社会になっていく恐れが出てきます。

実際、ナチスドイツは「(ドイツ人などの)アーリア人が一番優秀」といった定義づけをして、ユダヤ人の迫害を始めます。

また、マルクスは「労働」に絶対的な価値を置きました。すると「労働」や「労働者」は批判しにくいのです。旧ソ連や中国では、そういう状況を推し進めて、社会が抑圧されていきます。この本は歴史を踏まえ、こういった実態を緻密に分析しています。

ポパーはマルクス主義などを否定しているわけではありません。「私が正しい」と反論を許さない状況をつくることがおかしいとの主張です。この本を読んで自分の視野は大きく開かれたと思います。

日本人は上の人の意向を察して動くことを美徳としがちですが、発言して多くの人に理解してもらわないと組織の経験値も上がらないのではないでしょうか。GPIFの理事長という立場になってからも、「開かれた組織」という雰囲気を大切にしたいと思ってきました。

 農林中央金庫で運用畑を歩んだ。2008年のリーマン・ショックはやはり記憶に残る出来事だ。

このときも人は必ず間違えるのだから、こういうことも起こるのだろうとの思いでした。どんなに好調な経済でもスローダウンすることはあるのです。この1年後に出版された『TOO BIG TO FAIL』(邦訳書名「リーマン・ショック・コンフィデンシャル」)は運用担当者としてすぐに読んでおかないといけないと思い、原書に目を通しました。

リーマン・ショックのとき、ニューヨークで当事者たちがどんなに苦労したかというリポートです。リアル過ぎて読みたくなかったというのが正直な感想ですが、こんな混乱を二度と起こさないためにも金融界の人たちは読んで反省した方がよいと、自戒を込め思います。意外にもウォール街の人たちは普通の人たちなのです。多くの人は謙虚といってもいいぐらいです。構造的に米経済はずっと強いのだと思い込んでいたら、みんなで失敗してしまったというところでしょうか。

 SFから青春小説まで幅広く読む。感想文を書き、独自の年間ベスト10まで選んだこともある。

高校でバスケットボールをやっていたこともあり、『一瞬の風になれ』のような青春スポーツ小説は無条件で好きです。それ以外でも、情報誌である「本の雑誌」を40年来購読しており、そこで薦めている本はよく読みます。

実際に読むのは多い年で80冊ぐらいでしょうか。でもその倍ぐらい買っています。買うだけで満足してしまうこともあるのがいけません。海外出張の折には飛行機の中で読もうと、10冊ぐらい持って行ったりするのですが、このときも読まずに持って帰ってきてしまうのが情けない限りです。

本には線を引いたり、折り目をつけたりするタイプです。そうすると頭に入った気がします。そういう点でタブレットで読むのは苦手です。

(聞き手は経済部 山口聡)
【私の読書遍歴】
《座右の書》
『開かれた社会とその敵』(全2巻、カール・R・ポパー著、小河原誠・内田詔夫訳、未来社)、『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』(上・下、アンドリュー・ロス・ソーキン著、加賀山卓朗訳、ハヤカワ文庫)
《その他の愛読書など》
(1)『一瞬の風になれ』(全3巻、佐藤多佳子著、講談社文庫)。本屋大賞を受賞した青春小説。陸上競技にかける高校生を描く。
(2)『図書館の魔女』(全4巻、高田大介著、講談社文庫)。手話の少女が主人公のSFファンタジー。複雑な構成に引かれる。
(3)『海賊女王』(上・下、皆川博子著、光文社文庫)。実在の女海賊の物語。強くて格好いい。
(4)『戦略の形成』(上・下、ウィリアムソン・マーレーほか編著、歴史と戦争研究会訳、中央公論新社)。歴史上の国家戦略を分析。明治期の日英同盟はロシアへの対抗上、日本側の利点が強調されるが、実は英国側の経済的利益が大きかったなど意外な解説が面白い。
[日本経済新聞朝刊2017年6月17日付]

「リーダーの本棚」は原則隔週土曜日に掲載します。

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