2017/7/18

孫子の「商法」

大阪出店にあたって看板メニュー「活きあわびと生うにのゼリー寄せキャビア添え」を用意、皆が驚いたのは、このメニューは「原価率300%」と発表されたことです。原価率300%ということは、売価1000円に対して原価3000円。1皿売るたびに2000円の損が出ることになります。

「そんな、バカな!」

公認会計士の私は我が耳を疑いました。しかし、それはまぎれもない事実だったのです。ただしこのメニューが提供されるのは、1日20食限定でした。ということは1日の損は4万円(2000円×20食)にとどまります。1カ月間フルに営業したとしても120万円の損。月に120万円の赤字。その実態は「広告宣伝費」であると私は思うのです。

実際、この「原価率300%」メニューが発表されるやいなや、マスコミに大々的に取り上げられました。それを聞いたお客さんはわんさとお店にやってきます。そして原価率300%メニューを頼み、写真を撮って交流サイト(SNS)に「食べたよ~」とつぶやきます。ここまでを考えれば、なんと安い広告宣伝費でしょう。

この作戦は「食べ放題」と違って、ほかのメニューではきちんともうけています。「500円ピザ」と違って、赤字メニューは1日20食限定なので、注文を受けるたびに赤字が積み重なっていくということはありません。口コミをうまく活用して「話題をつくり、売り上げをアップし、もうけを出す」という上手な戦略といえましょう。

私がはじめて「俺の」のイタリアンを訪れたとき、ウエイターから「原価率の高いメニューを選んでくださいね」と言われ、仰天した記憶があります。レストランでは原価率を隠すのが普通であり、客に教えることなどまずありえません。その逆に「このメニュー、原価率高いんですよ、ぜひ!」というおすすめは、生まれて初めての経験でした。まだ未経験の皆様、この店でどんな奇襲が飛び出すか、ぜひ一度足を運んでみてください。

「孫子の『商法』」は火曜更新です。次回は2017年7月25日の予定です。

田中靖浩
 田中公認会計士事務所所長。1963年三重県出身。早稲田大学商学部卒。「笑いの取れる会計士」としてセミナー講師や執筆を行う一方、落語家・講談師とのコラボイベントも手がける。著書に「良い値決め 悪い値決め」「米軍式 人を動かすマネジメント」など

値決めの心理作戦 儲かる一言 損する一言

著者 : 田中 靖浩
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,512円 (税込み)

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