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仕事人秘録セレクション

43歳、本社勤務に 現場の「風」吹き込む  一点突破 再興に挑む(8) キリンビール社長 布施孝之氏

2017/7/14

本社に集まった幹部に居酒屋など業務用のビール事業の重要性を訴えた(東京都中央区)

 キリンビールの布施孝之社長の「仕事人秘録」。第8回は本社の営業部に移ったころを振り返ります。

――東京支社で業務用のビール営業に没頭していたころ、突然の本社への異動辞令。43歳になっていた。

 前任の営業推進部長が新興の大手酒販店に転職したことをきっかけとしたキリンビールの不買運動はとどまるところを知りませんでした。得意先のどこを回っても相手にされない日々の連続です。まるで修羅場――。そんな言葉が何度も脳裏に浮かびました。

 しかし、私は営業推進部長、現場のリーダーです。弱音は決して吐けません。部下20人を引っ張るため「明けない夜はない」「こんな経験できるのは俺たちだけ」とポジティブに発言し続けました。

 そのうちに得意先も少しずつ変わってきました。「別におまえが悪いわけじゃないしな」。そう言ってくれる人も出てくるようになりました。2年の時間が解決してくれたのです。

 こうなると後は攻めるだけです。逆境を乗り切ったチームは強い。チームワークは最高です。「さあ、行くぞ」。そんな時、思いもしなかった本社への異動辞令が下りました。営業部でした。入社から20年以上がたっていました。

――本社に行ってみると周りは30歳代の若者ばかり。右往左往の日々がまた始まった。

 悲惨でした。若いが本社勤務の長い連中は本社のどこにどんなボタンがあるのか、熟知しています。私にはそれが分からない。

 もっと分からないのは本社独特の言葉でした。とにかく難解なのです。例えば「店頭露出の最大化」などの言葉は格好はいいが全くの独りよがりです。具体性がなく何を示しているのか、イメージできないのです。思わず「こんな言葉では現場には伝わらないし響かない」と訴えました。

 営業部での仕事は企画担当でした。当時、営業本部長で後にキリンホールディングス(HD)の社長になる加藤壹康さんが立ち上げたプロジェクトの一つを任されたのですが、そこでの使命は業務用ビールの戦略を今後どうするかを検討することでした。

 もともとキリンは家庭用のビールで圧倒的な支持を得て伸びてきた会社です。業務用はそれほど力を入れる必要はなかった。そこが弱点になっていました。

 ではどうするか。当時、業務用はコストがかかるわりに利益が少ない「金食い虫」と見る向きが多かった。しかし、私はそれではいけないと感じていました。仕事帰りの居酒屋はキリンブランドを知ってもらう貴重な場です。おいしさを知ってもらえれば「家でも『一番搾り』を飲んでみよう」となるわけです。

 社長も交えた幹部会では「業務用が苦戦しているのはこれまで会社が真剣に考えてこなかったからだ」と前置きしたうえで「業務用を強化する意義」を説きました。周りはハラハラしていましたが、最前線の営業現場で頑張っている連中のために言うべきことは言おうと一歩も引きませんでした。

[日経産業新聞2016年8月3日付]

仕事人秘録セレクションは金曜更新です。次回は2017年7月21日の予定です。

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