オクラ、暑い日にさっぱり和風で? 実は「西洋野菜」
我が家にインド出身・ニューヨーク在住の女性が遊びに来たときのこと。
「今日は私が料理をつくるわね。畑になってる『オークラ』使ってもいい?」
と言った(もちろん英語で)。
ん? ん? いま「オクラ」って言った? オクラって日本の野菜だし、日本語だよね?
「なんでオクラなんて日本語、知ってるの?」
不思議に思って、そう彼女に聞いた。すると、
「オクラは英語よ~。インドでもアメリカでも普通に手に入るわよ」
という。
なんですと!
ゆでて刻んで納豆に混ぜたり、しょうゆとかつおぶしをかけたりして食べる、あの「The 和食」みたいな「オクラ」が英語?
いやいや「オクラ」なんて語感はいかにも日本語じゃないか。そうか、納豆が「Natto」、豆腐が「Tofu」として海外でも通じるように、オクラもきっと世界じゅうに輸出され「Okura」で通じるようになったに違いない。
だが、念のためネットで調べてみると、オクラは「Okura」ではなく「Okra」。彼女の言うとおり英語だと判明した。
原産地はアフリカ北東部で、レタスやセロリやアスパラガスと同様、明治になってから欧米経由で日本に入ってきた「西洋野菜」のひとつだったのだ。アフリカはもとより、アメリカ大陸、アジア大陸でも広く食べられているらしい。
えー! 海外旅行から帰ってきてオクラ入り納豆ご飯を食べて「やっぱ日本のご飯最高!」と叫んでいたのはなんだったのか? 西洋野菜であることに軽いショックを受けたが、出自はどうあれ、私のオクラへの愛は変わらない。
なにより見た目がいい。まず切った断面が星形になっているのがなんともいえずかわいらしい。切らずに1本そのまんまの姿もほっそりとしていて美しい。女性の指に似ているので、英語の別名も「Lady's finger」という。なんとも優雅ではないか。
私が田舎に移住したてのころは畑をやっていて、いろいろな野菜とともにオクラも育てていたが、オクラの花はハイビスカスにも似て、とても美しいと知った。それもそのはず、オクラもハイビスカスも「アオイ科」で、同じ仲間。
オクラが日本に入ってきたのは明治時代だけれど、一般家庭の食卓にのぼるようになったのは実は1970年代に入ってから。それまではおもに「観賞用」だったというのも納得だ。
オクラの花は早朝に咲き、午後にはしぼんでしまう。半日だけのはかない命。でも、夏の畑仕事は朝の涼しい時間にやるので、美しいオクラの開花を何度も目にすることができた。こういうことも、東京に住んでいたころには知らなかった田舎暮らしの楽しさだと感じた。
ちなみにオクラの花は食べることができ、サラダやおひたしなどに使う。フィリピンに行ったとき「ピナクベット」という夏野菜の炒め物にもオクラの花が入っていたっけ。ほんのりオクラの味がして噛んでいるうちに粘り気が出てくる。最近、日本でも花をよりおいしく食べるために改良した「ハナオクラ」なるものも登場している。
はかなく美しい見た目からはちょっと想像できない、あのネバネバの食感もたまらなく好きだ。一見モデル風のスタイリッシュな女性が、しゃべり始めたら漫才師のような早口の関西弁だった…みたいで「ギャップ萌え」する。
あのネバネバは糖質とたんぱく質が結合した物質「ムチン」によるもの。納豆や山芋などにも多く含まれている。
人間のカラダにも存在し、おもに消化系の粘膜を覆う粘液の成分だとか。ゆえにこのネバネバを食べると胃の粘膜を保護してくれ、胃潰瘍や胃炎の予防になる。胃腸が弱りがちな夏にもピッタリというわけ。
オクラは好きだけど、下処理がちょっと面倒くさいと思っている人もいるかもしれない。教科書的には、オクラは表面のうぶ毛が気になるので、表面を塩でこすって、塩がついたまま熱湯でサッとゆでるとよいと書いてある。が、スーパーで買う場合は緑色のネットに入って売られているので、私はあのネットのままゴシゴシとオクラの表面をこすりながら洗っている。
そして、ガクの部分の堅いところだけ包丁でぐるりとむいて、切らずに1本のままゆでる。ムチンは水溶性なので、切ってからゆでてしまうと栄養分がお湯に溶け出してしまうからだ。
細かく刻んで食べるのであれば、いっそ「ゆでる」という工程を省いてもいい。オクラは生でも食べられるのだ。うぶ毛をとってガクの堅いところを除いたら小口切り、またはみじん切りにして納豆や山芋と一緒に和えるのがいちばん簡単(1本のまんま生で食べるのはちょっと堅くて青臭い)。ゆでたものも、生を細かく刻んだものも冷凍保存が可能だ。
そうそう、和食の素材と思っていたオクラだが、インド人の彼女がつくったオクラ料理「ビンディマサラ」もまた絶品であった。ビンディ(Bhindi)とはヒンディ語で「オクラ」の意味。簡単な作り方を紹介しよう。
【材料】
オクラ:10本
タマネギ:1/2個
プチトマト:適宜
ニンニク:1かけ
ショウガ:1かけ
ターメリック:小さじ1/2
コリアンダーパウダー:小さじ1/2
クミンパウダー:小さじ1/2
チリペッパー:小さじ1/2
塩:小さじ1/2
オリーブオイル:少々
水:少々
【作り方】
1 オクラはうぶ毛とガクをとって3等分にカット。プチトマトは半分にカット。その他の野菜はみじん切りにしておく。
2 鍋を火にかけオイルを入れ、タマネギを軽く色づくまでいためる。ニンニク、ショウガを加え、香りが出るまでいためたら、スパイス類を投入。
3 オクラとトマトを加えてさらにいためる。水を加えてフタをし、蒸し焼きに。
4 トマトがトロッとしてきたら火を止め、塩で味付けする。
スパイスをいろいろと用意するのが面倒だったら、カレー粉で代用するのも可。これからの季節、ビールにもピッタリなので、ぜひ試してみて!
(ライター 柏木珠希)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。