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インバウンド最前線

あなたも「通訳ガイド」? 規制緩和、個人旅行に需要 東洋大准教授・矢ケ崎紀子氏に法改正のポイントを聞く

2017/7/6 日経産業新聞

規制緩和により、国家資格を持っていなくても有償の「通訳ガイド」ができるようになった

 インバウンド(訪日外国人)の受け入れ拡大のため、通訳の有償ガイドを無資格でもできるようにする「改正通訳案内士法」が2017年5月に成立した。18年3月までに施行される見通しだ。これまでは通訳案内士という国家資格が必要で、訪日外国人向けの観光ガイドが足りなくなっていた。法改正のため観光庁が設けた有識者検討会のメンバーで東洋大学国際観光学部の矢ケ崎紀子准教授に、新制度の狙いや課題を聞いた。

■英語以外のガイド不足が深刻

 ――通訳ガイドの現状にはどのような問題があるのですか。

 「大きな需給ギャップが生じている。中国本土や東南アジアといった英語を話せない人が多い国・地域からのインバウンドが急増した。一方で、日本人にとって身近な外国語は英語。登録している通訳案内士の大半は英語ガイドで、中国語などで案内できるガイド不足が深刻化してきた」

 「通訳案内士の試験制度にも課題があった。重箱の隅をつつくように日本の歴史や地理について非常に細かい知識を問う試験で、合格率が2割程度と非常に難易度が高い。通訳ガイドの供給源を法制度が縛っていた」

 ――無資格者にも有償でのガイドを認めることで、ガイド人数の増加が見込まれます。

 「百貨店やレストランなど、現在でもインバウンドと接する機会の多い企業でも、いきなりガイドを雇い入れるのは難しい。まずは制度改定を機に、通訳ガイドの団体などに相談してほしい」

 「新制度では、通訳案内士の研修方法や試験も変わる。これまでは求められなかった旅程管理などの力を求めるようになる。客の知的レベルや情報量、関心などに応じてガイド内容や話し方を変えるなどコミュニケーションスキルを伸ばすことも必要となる」

 「全旅程を担当する通訳案内士『スルーガイド』と、地域限定のガイドを両立させる制度とするのが特徴だ。国家資格がなく地域限定でガイドをやりたいという人は、地方自治体が設けた資格を取得したり研修を受講したりすれば通訳ガイドへの従事が可能となる」

 ――地域限定のガイドとは、どのようなものですか。

 「京都市が作った市内限定のガイド制度、『京都市ビジターズホスト』がよくできている。京都の日常や街並みにガイドが付加価値をつけることで、観光収入が期待できる制度にすべきだという問題意識で創設した。面接や専門学校に委託した研修制度、口述試験を組み合わせ、ガイドの質や誇りを担保する制度だ」

 「京都の制度は、インバウンド客が観光ホームページにアクセスすれば、得意分野や言語などでガイドを検索できるようにしたことも特徴だ。現状では、通訳ガイドが個人旅行に対応するということがさほど知られていない。政府観光局など海外に情報発信できる機関によるアピールが必要だ。制度改正に合わせ、日本の通訳案内士制度を内外に積極的に紹介してほしい」

 ――通訳ガイドが生計を立てられるようにするためには、個人客需要の取り込みも大切です。

 「通訳案内士を専業として生計を立てているのはほんの一握りだ。自ら仕事を作るというよりランドオペレーターと呼ばれる全行程を手配する旅行会社に雇われ業務をこなす場合が多い。旅行商品は買いたたかれることが多く、団体旅行商品は付加価値が比較的低いため安価になりがちだ」

 「予算や時間に余裕があり、日本を深く知りたいと訪れる個人旅行客へのガイドができていない。海外ではそうした付加価値の高いガイドは尊敬され、ガイド料金も高い。そうしたガイドを増やしていけば、普段着の日本の良さが伝えられる。買い物も家電量販店や百貨店などから、地場の産品や生活に根ざした商品にも拡大していけるだろう」

■規制厳しくても悪質ガイドなくならない

 ――規制緩和によって悪質なガイドが増えるという懸念もあります。

 「基本的には、悪質なガイドはなくならない。規制を厳しくしても、法の網をくぐる人はいるだろう。国としては、罰則規定の厳格化などで国としてのメッセージを明確にすることができる。韓国のように観光警察が取り締まる国もあるが、日本の警察制度にはなじまないと考えている」

 「悪質なガイドには二通りある。1つは海外から知識不足のガイドが同行して訪日するケースだ。日本の法制度が及ばず、当事国との2国間交渉を期待するしかない。もう1つは国内在住のガイドが特定の店舗を案内し、バックマージンを受け取るケースだ。悪質なランドオペレーターを把握できる制度づくりが重要だ」

 ――ガイドの地位向上でよい人材が集まり、悪質なガイドが駆逐されるような好循環が必要です。

 「複数ある通訳ガイドの業界団体がまとまるべきだ。まずは連合組織や連合体を作って業界の課題解決にあたってほしい。現状では賃金交渉や価格交渉がしづらく、効果的な研修制度が設けられなかったという問題を解決しうる」

 「議論は分かれるが、(外国語を母国語とする)『ネイティブガイド』を増やすメリットも考慮したい。例えばタイ人で日本語のコミュニケーションができ、主な観光資源の案内ができる人が日本の資格を取得する。足りない点は地域の通訳ガイドの手を借りつつ、タイ人の興味や関心のポイント、どう説明したら面白いかといった視点が生かせる。通訳ガイドは2国間の懸け橋になるべきだ。自分がかつて経験した日本の良さを同胞に分かってほしいと頑張るとき、そのガイドは悪質なガイドにはならないはずだ」

(聞き手は牛山知也)

矢ケ崎紀子
 1987年国際基督教大教養卒、住友銀行入行。2006年九大院法学修士。日本総合研究所や観光庁(観光経済担当参事官)、首都大学東京都市環境学部特任准教授などを経て、14年より東洋大学国際観光学部国際観光学科(17年4月に国際地域学部国際観光学科から改組)准教授。専門分野は、観光政策論および観光行政論。

[日経産業新聞2016年10月26日付を再構成]

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