海女のとりたて、「海の味」 久慈のウニ、卵とじ丼も
とれたてのウニをその場で割って味わう。海水の塩味が新鮮この上ないウニの甘みを引き立てる…。「北限の海女」で知られる岩手県久慈市の海女の素潜り漁が、7月1日から始まった。
久慈市の小袖海岸は、ドラマ「あまちゃん」の舞台になったことでも知られる場所。漁港の奥には、震災後に再建された「海女センター」があり、そこで、毎年7月から9月まで、土日と祝日に、1日3回、観光客向けの「素潜り実演」が行われる。来場者は、目の前で海女漁を見学(有料)できるとともに、とれたてのウニをその場で味わうこともできる。
今年の初日となった1日には、漁に先立って、安全を祈願する神事も行われた。漁業関係者や海女さんたちが、今年の漁の安全を海に向かって祈った。
漁場は岸壁の目の前の岩場。しかし、水深は8メートルにも及ぶという。そこへ、ベテランから地域おこし協力隊の若手まで、4人の海女さんたちが海に入っていく。
この日の水温は9度。海女さんたちは「しゃっこい(地元の方言でとても冷たいの意味)」を連呼しながらも、次々と海底へ潜っていく。しばらくして浮上すると、手にはウニが。来場者からは歓声と拍手が上がる。
潜っては浮上しを繰り返していると、やがてウニで網がいっぱいになる。陸に上がっても、海女さんたちは体を温める間もなく、その場で殻を割ってとりたてのウニを販売する。
観光目的の素潜り実演なので、来場者を楽しませるしかけが随所に凝らされているのだ。
鮮やかな手さばきで、次々と殻を割られるウニ。この日は一つ600円。それをスプーンですくってほおばる。とれたてのウニは弾力がある。新鮮さを物語るかのような舌触りを楽しんでいると、やがて濃厚な味わいが口の中いっぱいに広がる。
何もつけずにそのまま、しかし、ウニを洗った海水の塩味が、いいアクセントになっている。
久慈のウニを語る上で欠かせないのは「牛乳瓶」だ。ウニというと、木の柵に盛られた「柵ウニ」を想像する人が多いだろう。一方で、瓶詰めには「塩ウニ」を思い浮かべるのではないだろうか。
久慈では、新鮮なウニを牛乳瓶に詰めて販売するのが一般的だ。ウニのシーズンになると、ホームセンターには牛乳瓶とプラスチック製のふたが箱単位で店頭に山積みされる。
この日も、観光客への生ウニの提供が終わると、残ったウニを手早くすべて殻から取り出す。水で洗い、ワタを取り除いてきれいにする。それを牛乳瓶に詰めていく。
コツは、殻に接した部分が、外側になるように、瓶を回しながら詰めていくこと。こうすると瓶を手に取ったとき、中が美しくおいしそうに見える。そして、ある程度詰めたら瓶を逆さにして水を抜く。これを繰り返していくと、牛乳瓶いっぱいにウニが詰まるのだ。
お土産にウニを買って帰るなら、この「牛乳瓶ウニ」がいいだろう。店頭では1瓶3000円を少し超える程度の価格だった。ただし、瓶詰めとはいえ生ウニなので、日持ちはしない。
とれたてのウニを味見したら、市内の料理店に移動して、本格的なウニ料理を堪能する。お邪魔したのは、小袖海岸からも近い「おおみ屋」。
まずは鮮度抜群の生ウニをいただく。「生ウニ重」だ。ご飯の上に、地元産のウニがたっぷり盛られている。
味付けは、わさびじょうゆで。酒の供ならちびちびなめるように食べるのもいいが、ランチ、ご飯なら豪快にほおばりたい。ご飯とともに、大きな口を開けて掻き込む。
とろけるようなうまみで、白いご飯がついつい進んででしまう。
「あまちゃん」にも登場した「甘いんだかしょっぱいんだか微妙な味」の久慈まめぶ汁とミニ生ウニ丼がセットになっているのは「北三陸海女セット」だ。
まめぶは、久慈市山形地区に伝わる郷土料理で、だんごの中にくるみと黒糖が入っている。根菜などとともにすまし汁で煮たのがまめぶ汁。塩味の効いた汁とまめぶの甘さのコントラストが魅力だ。
ウニというとすしネタ、生で食べるイメージが強いが、地元では加熱して食べることも多いという。海女センターの素潜り実演では、生ウニとともに焼きウニも販売されていた。
卵とじのウニ丼である「ウニ重」も、そんな火が通ったウニのおいしさが堪能できる一品だ。
地元では、どんぶり飯でウニを食べる場合は、生ウニよりも卵とじにする方が多いという。「ウニ丼」といえば、まず卵とじを思い浮かべるのだそうだ。
生でも食べられるウニだけに、卵とじにしても味は濃厚だ。煮ても形崩れしない。食べる前は、卵がウニの味を遮ってしまわないかと心配したが、生で食べるよりも、ウニの甘さや香りが際立つイメージだ。
たれの染みたご飯もいい塩梅で、お重を手に持って、わしわしとご飯をかき込むように食べると止まらなくなる。値段も生ウニ重に比べて手ごろなので、ぜひ味わってみてほしい。
いちご煮も加熱したウニ料理として広く知られている。ウニとあわびという、高級魚介を使ったうしお汁で、汁の深い味わいも魅力だ。地元では、缶詰が多く店頭に並ぶ。日持ちもするので、おみやげにも最適だ。
三陸海岸北部ではラーメンもウニ入りを多く見かける。「磯ラーメン」と呼ばれるもので、ウニやホタテなど、地元産の魚介がたっぷりと具に盛られる。
夜の町に出れば、酒の肴にもウニは欠かせない。昼のウニ重で、ご飯とともに豪快にほおばるのもいいが、やはりちびちびなめるようにウニを食べながら飲む地酒は最高だ。
居酒屋では、お通しにウニ豆腐が出てきた。ほんのりウニの香りがする豆腐に、さらにまた酒が進む。二日酔いに要注意だ。
「北限の海女」を看板にした久慈の観光は、夏休みシーズンがメインになる。毎年、8月の第1日曜日には「北限の海女フェスティバル」も開催される。素潜りの実演だけでなく、郷土料理の提供など、いつにも増して観光客を楽しませる趣向がたっぷりと用意される。今年は、8月6日の開催だ。
とれたての「海の味」がする生ウニは、決して交通の便がいいとは言えない岩手県北の久慈まで、わざわざ食べに行くだけの価値があるおいしさだ。
(渡辺智哉)
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