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戦略を立てる能力は磨き続ける必要がある PIXTA

戦略を立てる能力は磨き続ける必要がある PIXTA

経営戦略論はいまやビジネスマンにとっての常識です。でもいい戦略で成長する会社が全体のごく一部なのはなぜでしょう?

それは戦略を立案し決定する力に個人差が大きいからです。そして、その個人差は、結果的に企業戦略の差、ひいては企業業績の差として現れます。

このように言うと、よくある経営者からの反応は、「うちのスタッフには、いい戦略を立案する能力が足りない」というものです。逆にスタッフに聞くと、「うちの経営陣は、いい戦略を決断する能力が足りない」などと嘆いたりします。これはどちらも問題です。

いい戦略を立てるためにも、いい戦略を決めるためにも、実はいい戦略思考力が必要です。

戦略論の教科書がたくさん書店に並ぶようになってきた結果、戦略の立て方は日本のビジネスマンの間にもかなり浸透してきました。けれども、肝心の戦略を立てたり決めたりする際の思考力の鍛え方がまだわかっていない人が多いのです。

サッカーの戦略理論はわかっても、フィールドの中で頭を働かせ周囲を見回しながらプレーするのは違うことですよね。それと同じで戦略的に行動するには頭の使い方を訓練する必要があるのです。

さて、サッカーの場合の戦略思考力とは視野の広さやチームメンバーの身体能力の把握、仲間の動きを見ての瞬間的な判断力などが重要ですが、ビジネスの戦略思考力の場合は何が重要なのでしょうか? いくつかポイントがあるのですが、それを説明する前にまずトレーニング問題を一問解いてみましょう。

問題 少子高齢化の日本では、いまや子育てする世帯よりもペットを育てている世帯の方が増加しています。実際2010年の国勢調査では12歳以下の子ども人口は1450万人でしたが、ペットの数は年々増加していて同じ年に飼われている犬猫の数は2150万匹だったといいます。この世相を反映してスーパーでもベビー用品の棚が縮小する一方で、ペット用品売り場の面積は年々広がっています。ところがペットフード会社の社長に聞くと「ドッグフードはここ数年、売上が下がって困っている」と言うのです。いったいなぜそんなことが起きているのでしょうか?

戦略思考には4つの能力が必要

21世紀に入った当初、レトリバーとかシベリアンハスキーといった大型犬ブームがありました。そのブームが一巡して、今ではチワワやミニチュアダックスフントのように家の中で飼える小型犬が売れています。いくらペットの頭数が増えても、あれだけ体格が違うと食べる量が10分の1以下と全然違うのです。そのような構造変化が起きたからドッグフード業界では販売数量を増やすのではなく、高級化でなんとか乗り切ろうとしているのです。

さて、この問題を解けた人も解けなかった人もいると思いますが、この問題から戦略思考力とは何なのかをひも解いてみましょう。

「この問題の答を知っていた」という人以外でこの問題の解答にたどり着けた人は、以下のいくつかの力を併せ持っていたはずです。

ひとつは常識を超える力。正解にたどり着けなかった多くの方が「顧客数が激増しているのに売上高が減少するなどありえない」という固定観念にとらわれてしまったのではないでしょうか。解答を見ればそんなことはないことが後からわかるのですが、それではだめですね。問題文を読んだ段階で自分の頭の中の常識を疑ってみないと、正解にはたどり着けません。

2つ目に論理思考力。これは左脳が強い人の能力です。具体的には「売上高が減っている」と聞いたときに即座に、「売上高=顧客数×単価×購入量×購入頻度」といった計算式を頭に浮かべる力です。そして問題文の「顧客数が増えているのに売上高が減っている」という前提を聞いて、「それなら単価が下がっているのか、ないしは購入量が減っているはずだ」と解決の糸口を見つける能力です。

3つ目に柔軟な発想力が必要です。論理思考で購入量が減っているのではという糸口を見つけても、まだ正解にはたどり着けません。購入量が減った原因が小型犬ブームだという発想力が伴わないと、構造はわかっても理由がわからないのです。

4つ目に事例をたくさん知っているということも重要かもしれません。常識に反するこんな事例があったということを知っているだけで、別の常識に反する現象につきあたったときにも、似たようなメカニズムが働いているのかもしれないという思考を働かせることができるようになります。

戦略思考力は基本を知ったうえで、さらに「鍛える」

このように常識を超える力、論理思考力、柔軟な発想力、たくさんの事例についての知識といったものを併せ持つことが高い戦略思考力につながります。そして経営戦略についてのフレームワークを理解しただけでは、これらの力の訓練にはなりません。経営戦略を知っているだけでは、戦略思考のビジネスセンスは高まらないのです。

この連載は常識的で優秀なビジネスマンの皆さんが隙間時間に、普段とは違う発想をしながら戦略思考を鍛える訓練を行えるように作られています。常識を超えた戦略的発想の実例を集めてクイズ形式のトレーニングにしてみました。

ひとつひとつの問題はわかりやすいものばかりなので、さっと読んで戦略思考力を確認することができます。

さらに問題を解き終わったら、ひとつひとつの問題が後々、新しいビジネスアイデアにつながる知識にもなるような題材を集めています。ですから事例として記憶することでも戦略を作る際に役に立つはずです。

さあ、通勤電車の中で、ランチタイムの間に、デートの待ち時間に、戦略思考のトレーニングに挑戦してみましょう。

「戦略思考トレーニング」は木曜更新です。

鈴木貴博
 百年コンサルティング代表取締役。東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループを経て2003年に独立。持ち前の分析力と洞察力を武器に企業間の複雑な競争原理を解明する競争戦略の専門家として活躍。クイズマニアとしても『パネルクイズアタック25』『カルトQ』などクイズ番組出演歴多数。

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著者 : 鈴木 貴博
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 896円 (税込み)

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