コカ・コーラ 世界の有力ブロガー集め、リオ五輪発信オリパラのマーケティング(中)

――コカ・コーラ社は、スポーツイベントの取り組みを社内でどのように生かしているのでしょうか。

「『システム・モチベーション』という取り組みを通じて、グループ内の社員に参加してもらいます。例えば、大会期間中にコカ・コーラのクルーとして、会場内での商品の販売や選手村の商品入れ替えなどの仕事を現地法人と一緒にやるというような取り組みで、かなり大きな反響があります」

「通常、五輪は開催地だけで完結してしまうのですが、リオではブラジル全土の社員を巻き込みました。さらに南米は地続きで各国の言語も同じか近いので、アルゼンチンやウルグアイ、パラグアイ、コロンビア、チリなどのコカ・コーラ社員を巻き込んだシステム・モチベーションも仕掛け、大会期間中に一緒にクルーとして働いていてもらいました」

――成果はどうでしたか。

「五輪の会場で仕事をするという経験は、なかなかできるものではありません。リオでは、日本からも10人ほどのスタッフが現地に行って、どういうオペレーションをしているのかを体験しました。東京五輪に向けた『ナレッジトランスファー(知識の伝達)』ですよね。あなたたちは、4年後にこういうことをやらないといけないんですよということをグループ内で伝える取り組みです」

リーダーの素養得る機会に

――投資に対するリターンはどのような規模感で考えているのですか。

「ROI(投下資本利益率)的なところですよね。スポーツ関連でROIを測るのはすごく難しい。特に五輪は様々な要素が絡んできます。もちろんスポンサーシップの料金を支払っていますから、終わった後に大会を振り返って期間中にどれだけ商品が売れたといった数字は出てきます。ただ、お金には換算できないより重要な効果も多い。だから、大会前後だけでROIを定量的に深く追求しているという印象はありません」

コカ・コーラは五輪の聖火リレーを支援している(写真は2008年の北京大会)

「例えばリオ五輪であれば、小さいサイズのペットボトルを普及させるというレガシーを設定して、大会を通してブラジルで訴求しました。うまくはいきましたが、それでレガシーが確立できたとは言い切れません。本当に成功したかどうかは10年後、20年後でないと見えてこないからです」

――人材の育成という観点ではいかがですか。

「コカ・コーラで五輪やサッカーW杯のプロジェクトに関わった後、要職に就く人はとても多いです。普段は上司の判断を仰ぐ時間がありますが、大きなスポーツイベントでは、その場で自分なりの判断を下さなければなりません。すごく短い時間の中で頭をフル回転させる必要がある。スポーツイベントの取り組みは、リーダーとしての素養を学ぶ良い機会になると思います」

――高橋さんは以前、国際サッカー連盟(FIFA)でも10年ほど勤務していたそうですね。客観的に見て、コカ・コーラのマーケティングの強みは何でしょうか。

「常に斬新なアイデアを出し続けることだと思います。そして、それをコカ・コーラ1社でやろうとしない。いわゆる、ライツホルダー、国際オリンピック委員会(IOC)しかり、FIFAしかりですが、互いにウィン・ウィンの関係を築いていく発想でプロジェクトを進めます。だから相手はコカ・コーラの提案に応じようと考えるし、『じゃあ、やろうか』という流れになりやすい」

「コカ・コーラは1992年のバルセロナ大会から、スポンサーとして聖火リレーの支援を始めました。開催国以外からも聖火ランナーを募るなど、オリンピックを地球規模で盛り上げることに寄与しています。これはコカ・コーラがIOCにアイデアを持っていき、『それは面白い。やろう』と決まったプロモーションです」

「サッカーW杯では、大会開催前に各国を優勝トロフィーが巡っていくトロフィーツアーを実施していますが、あれもコカ・コーラがFIFAに提案したものです。始まった当時、私はFIFA側にいたので事情をよく知っています」

高橋オリバー
1970年ドイツ生まれ。リーボックジャパンとスポーツマーケティング会社のISLで勤務。02年に国際サッカー連盟(FIFA)に転じる。FIFAではマーケティング・アライアンス・ディレクターを務めた後、イベントやプロモーション戦略の開発を含む事業のトップに就き、10年から全イベントの事業会社系子会社の責任者に。12年ナイキジャパンの各スポーツ連盟やチーム、個人アスリートのマネジメントを行う部門のシニア・ディレクターに就任。16年から日本コカ・コーラの東京2020オリンピック ゼネラルマネジャー。
上野直彦
スポーツジャーナリスト。早稲田大学スポーツビジネス研究所・招聘研究員。ロンドン在住の時にサッカーのプレミアリーグ化に直面しスポーツビジネスの記事を書く。女子サッカーやJリーグも長期取材している。『Number』『AERA』などで執筆。初めてJユースを描いたサッカー漫画『アオアシ』で取材・原案協力。著書に『なでしこのキセキ川澄奈穂美物語』(小学館)、『なでしこの誓い』(学研教育出版)がある。

(3回に分けて火曜に掲載します)

[スポーツイノベイターズOnline 2017年4月4日、6日、10日付の記事を再構成]

今こそ始める学び特集
今こそ始める学び特集