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梶原しげるの「しゃべりテク」

電話が嫌で辞める若者 上役への取り次ぎすら苦痛

2017/6/15

今の20歳代前半の若者たちが育った10年ほど前、実家にはおおむねイエデンそのものは存在していた(総務省の「情報通信白書」による)。ところが、実際には親たちでさえ、主たる通話には携帯電話を使い、固定電話は脇へ追いやられていた(梶原が講義を通じ大学生から聞き取った感じ)。すなわち、イエデンはもっぱらファクス送受信や「信用証明」(クレジットカード契約などで必要だった)として重宝がられていたらしい(今では固定番号を求めない契約も増えている)。

■学びのチャンスにもなっていた「イエデン体験」

一方、イエデンしかなかった時代に思春期を過ごした、たとえば私は、父親が食卓に置いた電話でよその人と話す様子を何度も聞いた(聞かされた)経験がある。電話会話の手順に「パターン」があることを知り、ひとつずつ自分のものとしていった。

電話で話す際に必要な「演技力」をも間接的に学習させられた。私たち子どもを前にしたときの仏頂面がうそみたいにごきげんな態度で楽しそうに話したり、言葉少なに沈痛な様子で語ったり。場面や相手によって話し方を変幻自在に変える父の姿に衝撃を受けながら「顔の見えない相手への対処法、やり口」を目の当たりにした。

「電話会話の教師」は我が家の父親だけではない。イエデン時代、付き合う彼女に連絡を取るにも、「彼女に直接」ではなく、彼女の家に電話するしかなかった。すると運悪く相手方の父親が出てきて「君は誰だ!」と脅すような口調で問い詰められることもあった。アタフタしているうち、電話をガチャンと切られさえもした。

「イエデン体験」を通じ、我々の世代は「仕事でも使える電話テクニック」を学べた(学ばされた)気がする。もっと若い40歳代、50歳代世代にだって「固定電話からの学びのチャンス」はそれより下の世代に比べればずっと多かったのではないか。

相手の顔が見えず、相手の立場も、相手が求める内容もまるでわからない「ゼロから始める会話」はそもそも難易度が高い。無防備なまま、超ハイレベルの作業を任され、音を上げる若者たち。

イエデンを知らない子どもたちを絶望させないためにも「いいかい、君たち、固定電話の対応には技術習得が必要だ。最初は僕のやり方を見ながら、徐々に覚えていけばいいんだから。まずはね……」。こんなふうに辛抱強く丁寧に教える必要がありそうだ。

※「梶原しげるの『しゃべりテク』」は木曜更新です。次回は2017年6月22日の予定です。

梶原しげる
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。

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