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特長・リスク正直に説明

新薬開発に使う化合物など大量の試料を保管し、必要な時に素早く取り出す自動保管庫。椿本チエインは参入から約15年で、製薬会社からの信頼を着実に積み上げ、業界シェア85%と圧倒的な地位を築いた。同事業の年間売上高約20億円の2分の1を稼ぎ出す立役者が、ライフサイエンス部の津山英士参事(51)だ。顧客と誠実に向き合い安心感を与える姿勢を武器に商談をまとめる。

津山さんが販売する新薬開発用の自動保管庫の中には、長さ1センチ強、幅0.3ミリのポリプロピレン製の容器数百万本が並ぶ。薬の材料の候補となる試料が中に入っている。端末操作で指定した容器をロボットアームが正確につまみ上げ、1時間に1000本以上を出庫する。試料に細胞を入れて反応を見るなど、開発に欠かせない工程を支えている。

まず顧客に安心感を与えるのが、津山さんの営業スタイルだ。製薬会社にとって、薬の材料となりうる試料は非常に貴重なもの。取り扱いを機械に任せてうまくいくのかという不安が先立つという。「希少な試料を大切に扱う重要さを心から理解している人間と会社ということを、事実によって伝える」と語る。

例えば容器を摘まむロボットアームの爪の形状。一見、金属棒2本ではさみ上げるようだ。だが実際には棒に四角い突起が2つずつ付いており、8つの支点で持ち上げていることを強調する。「ただ口先で安全だと伝えるのではなく、製品の構造や仕組みまで正確に説明すれば響きやすい」

試料の中には、危険性が高く法律で扱い方を定められた法規制化合物もある。それらへの対応の説明を欠かさないことも、顧客への理解の深さも示すことにつながる。

一方で、ロボットアームの動き方に不具合が出る可能性など、トラブルのリスクも正直に伝える。併せて24時間体制のコールセンターを備えていることもなど説明、フォローは忘れない。顧客は製薬会社などの研究者が多い。「適当にあいまいな言葉で濁せば、すぐに見抜かれて関係が壊れてしまう。誠実に正直に向き合うのが大切だ」と話す。

営業マンとしてだけでなく、社内の技術チームとの橋渡しとしての役割も強く意識する。自動保管庫は、顧客の希望に応じて大きさや能力を柔軟にカスタマイズする商品。ロボットアームで容器を摘まむ作業と同時に重さも量れないか、容器の素材を変えられないかなど細かい要望も多い。

それらを満たして受注につなげるには、技術チームの力が大切になる。「なぜ顧客がこの要望を求めているのか、理由を理論立てて説明するよう心がけている」という。

椿本チエインが同事業に参入したのは2000年。もともと物流機器を手がけていた同社が、製薬会社からの依頼を受けて開発したのがきっかけだ。当初は人脈もなく、学会や展示会への参加などで徐々に販売を増やしてきた。

業界のトップランナーを自負するだけに、取引先のニーズを捉えて新製品の開発に生かすことも求められている。例えば販売当初は常温での保存だったが、約5年前に低温保存できる保管庫の要望を受けた。「取引先は本気で椿本チエインを必要としている」。津山さんは技術チームにも働きかけ、マイナス80度で保存できる新商品を開発。引き合いも相次いだ。

昨年にはマイナス150度で保存できる新商品を開発。細胞や血液などの生体試料を長期保存するバイオバンク向けとして、東京大への納入に成功した。今後は地方の中規模大学でも、同様の取り組みが広がる見通し。「より広がる市場のニーズを捉えて、お客様の満足のいく商品を届け続けたい」。津山さんは前を見据えている。

(大西康平)

 つやま・ひでお 1989年同志社大工卒、椿本チエイン入社。知的財産の特許申請や物流機器の営業を経て、2002年より創薬機器グループ(現ライフサイエンス部)の営業担当。51歳。
[日経産業新聞2016年10月6日付]

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