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脈絡のはっきりしない接続詞は聞き手を戸惑わせがち Ushico / PIXTA

脈絡のはっきりしない接続詞は聞き手を戸惑わせがち Ushico / PIXTA

たまたま手元にあった勝間和代さんのかつてのベストセラーを2冊読み返してみた。「無理なく続けられる年収10倍アップ時間投資法」(2007年)と「やればできる」(09年)だ。

彼女がさっそうと世に出た10年ほど前。「女子力」なんて言葉がまだ一般的ではなかった時代の女性たちを大いに勇気づけた功労者の1人とも言える勝間さんは「文頭・なので」という接続詞の使い方を定着させた「功労者」でもあった。彼女の典型的な語り口は、たとえばこんな感じだ。

「やればできる!なので、やりましょう!」

「理由・結論をポンと最初に語る。直後の接続詞『なので』で行動を呼びかける」というダイナミックでテンポのよい話し方は新鮮だった。しかし、あらためて読んだ著作には「文頭・なので」は皆無だ。頭のよい勝間さんは話し言葉と文章の「けじめ」を付けていたらしい。

この「勝間流の話し方」を誰も彼もが使い始めると、それまで「カッコいい」と感じていた私が次第に違和感を覚え始めていったのだ。

「そろそろ月末ですから、精算お願いしまーす」。こんな風にさら~っとつなげた「穏やかな言い方」の経理担当の女性社員が急に「そろそろ月末です。なので、精算お願いします」ときっぱり言ってきたときは何だか「イヤーな感じ」と「変なプレッシャー」を感じた。これが「文頭・なので」への最初の違和感だった。

「日本語に関する違和感」を正当化するには辞書が便利だ。「今どきの若い連中は○○なんて言い方をしますが、辞書によるとですねえ」。権威を笠に着て自らの正当性を主張しようという、我ながら「嫌らしい手口」にしばしお付き合いいただく。

おなじみの「広辞苑」をはじめ、「日本国語大辞典」「大辞泉」「大辞林(コトバンクより)」などの主立った大型辞書にザッとチェックを入れた。詳しいことは省くが、結論から言えば「文頭・なので」の記述はない。

「風邪なので、学校を休んだ」「故障の原因が明らかなので、すぐに直せ」という文中使用の例だけが記されていた。「文頭でいきなり繰り出す『なので』は誤用」のはずだったのだが、当てがはずれた。

国語辞典も割と寛容な受け止め方

勝間さんが脚光を浴びていた時期の2010年に「明鏡国語辞典改訂第2版」(大修館書店)が出た。そこにはいきなり「文頭・なので」が接続詞として載っていた。マズイ!「文頭・なので」肯定派の辞書がいよいよ登場か。明鏡国語辞典から一部を抜き出してみる。

な-ので[接続詞]<主に話し言葉>前に述べたことを理由として、その帰結を導く意を表す~略~
例「明日から練習だ。なので早く寝た方が良いよ」

ここで終わったら「私の違和感」は「じじいのたわごと」だ。「ヤバい!」と感じたが、先を読んだら、わずかに救われた。

「近年の用法で、くずれた感じをともなう~」

語釈に添えられた(俗)という印は「これはあくまでも俗語だ」と「公には使わぬが無難ですからね!」と言っているように、私には読めた。「君(梶原)が違和感を覚えても不思議はないよ」と肯定してもらえたようでうれしかった。

会議やプレゼンテーションでは接続詞を丁寧に使わないと、誤解を招きかねない JIRI / PIXTA

会議やプレゼンテーションでは接続詞を丁寧に使わないと、誤解を招きかねない JIRI / PIXTA

こんなことで一喜一憂する様子にあきれたことだろうが、こういう人は「言葉問題」に限らず、私以外にもいる気がする。このネット時代に情報は右から左まであふれかえっているというのに、自分に都合のよいものばかり選んで「俺が多数派」と思い込もうとする残念なご同輩が。

私は「自分の正当性」を証明しようと熱心に検索した。某知恵袋で見付けた、「文頭・なのでって、どうなの?」という疑問に寄せられた「公式には避けるべし」という「クレバーなアンサー」にホッとした。

専門家も全否定はしない「文頭・なので」

ネットと言えばテレビ朝日のアナウンサー有志で作っているらしい「日本語研究室」というサイトで田原浩史アナが「強い違和感」を、国語の専門家である、慶応大学の岩松研吉郎教授(当時)に問いただしていた。さすが天下のテレ朝!えらい!

先生のご発言はザックリ言えばこんな感じ。「文頭に『だから』をもってくると断定の意味合いが強すぎて使いにくい」と感じた若い人にとって『なので』は『だから』ほど断定する度合いが強くないから便利。そこで『なので』を選択したのではないか」(詳しくは「日本語研究室」でご確認を)。

「文頭・なので」を使うことを「変だ!」と断定なさらないことに田原アナが失望する気配が漂ったのが救いと言えば救いだった。とはいうものの、ネット上にはこれ以外に「文頭・なので」に違和感を示す記事がほぼ見当たらなかった(梶原調べ)。だとすれば、「『文頭・なので』に違和感を持つ『お前に違和感だ!』」が世間の声か?

「悪い予感」がして、新しい表現を積極的に取り入れるという点で定評のある「三省堂国語辞典第7版」を見てガックリした。

「なので」
1(連語)[助動詞]「だ」の連体形や、形容動詞の連体形の語尾などに、助詞「ので」がついたもの。理由を表す。
例文「大事なので、もう一度はなします」

問題はその先の第2例だ。

2(接続詞)[会話]そんなわけなので。だから。なんで
例文「私は一人っ子でした。なので父は、あまかったです」

「公的な場面では避けるように」などという断り書きは一切なし。三省堂国語辞典は「明鏡国語辞典」と並んで私が大好きな辞書なのに、なぜ気付かなかったのだろう?

辞書づくりにも携わる、私の日本語の師匠、NHK放送文化研究所の塩田雄大主任研究員にあわてて電話したら、約10年も前の08年に実施された調査データを紹介してくれた。それによれば40歳代以前の世代(10年後の今は50歳代)はおおむね、「文頭・なので」は、「気にならない。自分も使う」と答えている。

一方、それ以上の世代は「気になる」が半分程度いて「『自分は使わない』派が多め」という結果だった。あれからおよそ10年だから、今の私の違和感など、読者の大半が「バッカじゃないの」とあきれたことだろう。

塩田「ちなみに改定前(14年以前)の三省堂国語辞典でも、普通に『文頭・なので』はありますよ」

確かにあった!

例文 準備万端調えた。なので心配していない

なので、私はこれから、勇気を持って「なので」と話し始めてみよう、かな……。

※「梶原しげるの「しゃべりテク」」は木曜更新です。次回は2017年5月4日の予定です。

梶原しげる
 1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。

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