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小説家 筒井康隆さん「社会への違和感 創作の源」 本質暴いて笑わせる

2010/9/29

ナンセンスギャグやパロディーなどを駆使して現代語をユーモラスに読み解く“辞典”を出した作家の筒井康隆さん。独特のブラックな笑いについて聞いた。

筒井康隆さん

この『現代語裏辞典』(文芸春秋)を作るきっかけは、だいぶ前にアンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』の新訳を手がけたこと。訳すうちに身近に思ってきたビアスと自分との間に大きな距離を感じた。ビアスは狷介(けんかい)で怒りっぽく、言い回しも凝っていて、文章は重く長々しい。単純に笑いが爆発しない。

ところが、僕には、まず読者を笑わせたいという欲望がある。マルクス兄弟の喜劇映画のスラップスティック(ドタバタ表現技法)を小説で実践してきた僕は、欲求不満に陥ってしまった。この不満を解消するには自分で辞典を作るしかないと考えた。ビアスの文章は長たらしいが、僕の場合はできるだけ短くして、一項目につき1行から3行に収まるようにした。完成まで8年もかかった。

 ■「あ」から「わ」まで1万2千語を網羅する。〈ぜっこう【絶交】セックスレス夫婦のこと〉など、毒気とエスプリで現代語を定義し直す。

僕の辞典はビアスのように風刺をきかせるというよりも、むしろ人々の表層的な営みに対して本質を暴くのがねらい。身も蓋(ふた)もないというわけだ。ブラックジョークで常識や良識を破壊してしまう。あとはナンセンスギャグ。その中に言葉遊びも盛り込む。周囲からの抗議を心配して逃げてばかりいたら面白いものはできないので、実名もかなり登場させた。

〈キオスク【kiosk】大江健三郎の文庫本を置いていない駅構内の売店〉〈はやうまれ【早生まれ】学級編成では遅生まれ。そのくせ大江健三郎は筒井康隆より頭がいい〉などと大江さんも登場させている。早速大江さんから手紙を頂いた。「全部読んだ。まさに筒井ボキャブラリー。『キオスク』の項は正しいが、『早生まれ』の項は正しくない」と率直な感想が書いてあった。

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