花見で食べたい甘い「桜ガニ」 みそ、内子たっぷり
青森県、春の味
桜前線は東京を過ぎ、この後ゴールデンウイークに向けて、東北、そして北海道へと北上していく。
それとともに、お花見で食べる「つまみ」もまた変わっていくことになる。本州では最終盤の花見となるのは、青森県だ。
そんな青森県の花見に欠かせないのが「トゲクリガニ」。地元で「陸奥湾の毛ガニ」とか「湾内の毛ガニ」などと呼ばれている、毛ガニと同じクリガニ科のカニだ。
ちなみに北海道の毛ガニは正式には「オオクリガニ」と呼ぶ。
旬は春で、4月下旬から5月下旬ごろまで。ちょうど桜の見ごろと重なることから、青森では古くから「花見ガニ」「桜ガニ」などと呼ばれている。
食べ方は、塩ゆでが一般的。毛ガニに比べ、やや小ぶりなものの、身は繊細で甘く、何よりカニ味噌が濃厚。また、雌の内子、卵も美味。大きさは、雄で10センチ近く、雌で7センチほど。身を楽しむなら雄、内子なら雌と好みに応じて選ぶ。
おいしいカニだが、実は青森県外にはあまり出回らない。青森県から取り寄せて、東京でこのトゲクリガニを味わってみた。
食べたのは雌のトゲクリガニ。青森県出身者に食べ方を教わりながら味わった。
まずは「ふんどし」呼ばれる、お腹の部分をはがず。捨ててしまいがちだが、ここにも身があるので、はさみを入れて取り出して食べる。
次に足を外していく。足を全部外したら、甲羅をはがす。お待ちかね、カニみその登場だ。トゲクリガニの魅力は、まずこのみそにある。体の大きさの割に、たっぷりのみそが入っている。これを指でぬぐうようにしてなめる。
濃厚な味わい。日本酒がほしくなる。
そしてこれまたお待ちかねの内子。ちょっと季節が早かったのか、未成熟の内子もあったが、十分に成熟した内子を抱えたカニもあった。
鮮やかなオレンジ色が、目に飛び込んでくる。成熟した内子はコリコリとした食感を持つ。卵だけに、やはり濃厚な味わいだが、カニみその濃厚さとはまた違った、爽快さも併せ持つ。食感を楽しむうちに、口の中に火の通った魚卵系の味わいが広がっていく。
内子をかみしめ、カニみそを舐め…我を忘れて味わっていくのだが、最後どうしてもぬぐいきれないカニみそが甲羅の中に残ってしまう。それは、甲羅に日本酒を注ぎ、洗い流して飲む。みそが濃厚なので、吟醸酒などではなく、ごく普通の日本酒を注いで飲み干したい。
さぁ、身に移ろう。
小さなカニなので、身を食べるのは繊細な作業になる。はさみで殻を切り開き、中の身を、フォークや爪楊枝でほじくり出す。口に入れると、何ともいえない甘さが広がる。大きなカニに比べて、甘さが際立ち、味わいも深いため、用意したカニ酢は、最後まで使うことはなかった。
タラバガニなど大きなカニは、豪快にかぶりついて食べたりするが、トゲクリガニの場合、小さな足の先の方まで、ほんの少しの身でも食べ残さないよう、細かい作業が続く。ついつい、みんな押し黙って、下を向いたままになる。
そして、指先がふやけて、皮膚がふにゃふにゃになる。
むしろ甲羅に残った身の方が食べやすい。やはりこまめにはさみを入れながら、身を外しては口に入れる。足の先端であれ、甲羅に近いところであれ、甘く、味わいは深い。それが分かってしまうと、小さな部分でも食べ残せなくなる。
青森の花見では、車座になった花見の席の真ん中にトゲクリガニを大皿に山積みにして食べるのだという。花見といえば、飲めや歌えやがよくある光景。しかし、このカニが花見の席に登場したら、みんな押し黙って、酒を飲むのも忘れ、黙々とカニの身をほじってしまうのではないだろうかと心配になるのは、余計なお世話だろうか。
東京でも、青森料理専門店などで、現地から取り寄せて提供することもあるが、やはり地元以外では「レアもの」だろう。
青森県の桜は、たいていゴールデンウイークの時期が見ごろになる。
最も有名なのは、弘前の桜。お城と桜の組み合わせは、観光スポットとして非常に人気が高い。桜の時期の弘前の宿泊は、東京のトゲクリガニ並みの「入手困難」さだという。
十和田市の桜並木も有名。有名な現代美術館のある通りに156本の桜が並ぶ。通りは、美術館の外もアートスペースになっていて、通りには現代アートが並ぶ。作品と桜の組み合わせも、お城とのコンビに負けない美しさがある。
大型連休に、花見ついでに青森まで、トゲクリガニを食べに行くのもいいだろう。
(渡辺智哉)
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