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梶原しげるの「しゃべりテク」

相手をムッとさせるNG言葉 知っておきたい元の意味

2017/4/20

プラナ / PIXTA

 最近、「たがが緩んでいた」選手でしたが、コーチに「手綱を締められて」「あわや世界新」という、「目を見張るような」好記録を出しました。この文章のカギカッコで囲んだ表現のうち、日本語として好ましくないのはどれでしょう?

 日曜夜のフジテレビ系で放送される古舘伊知郎さんの番組「フルタチさん」の人気コーナー「正しい日本語テスト」で出された質問だ。回答者たちが頭を悩ませるなか、見事に正解したのは、フリーアナウンサーの川田裕美さんだった。

 「『あわや』は-(マイナス)の意味につながる言葉。世界新記録のような+(プラス)言葉にはつながらないから」という解説も的を射ていた。

 アナウンサーに限らず「言葉を使って何かを他者に伝えよう」とするとき、心得ておいて損がないのは「マイナス言葉とプラス言葉の使い分け」だ。川田さんの言ったように言葉には「マイナスにつながりやすい言葉」と「プラスにつながりやすい言葉」がある。

 「あわや」は一般的に「すんでのところで。危うく」という「望まない、起きてほしくない困った事態」を修飾する言葉だ(「三省堂国語辞典」では「俗」と断りを入れながら『あわやホームラン』の例を引いている)。

 万一、世界新並みの「目を見張るほどの好記録」を出した選手へのインタビューのお相手が「言葉に保守的な人」だったなら、「あわや、世界新記録でしたね!」との問いかけに声を荒らげたかもしれない。

選手「君は僕の記録を望まなかったのか?」

 ちなみに大阪ローカル局で「阪神びいきを売りにする野球中継」なら「あわや」をこんな形で上手に使うことだろう。

アナウンサー「我らがエース藤浪、投げた。DeNA筒香、打った? まずい……伸びる、曲がれ、曲がれ! よーし! 左にそれて、ファウル! あわやホームランという当たりでしたが、助かりました!」

 「あわや(あってはならない)の大惨事をしのいだ」というアナウンサーの「公平を欠いた日本語」が阪神ファンの強い共感を呼んだに違いない。逆に、DeNA側からすれば「あわよくばホームランだったのに」とプラスに通じる「あわよくば」がふさわしい場面でもあった。

■「残念な事態にポジティブな表現」はリスク大

 プラス言葉とマイナス言葉。言葉とはさみは使いようだ。

 「言葉にうるさい年長者」を相手にする場合の注意事項を以下に記す。

 一言で言えば「ポジティブ場面にはプラス言葉を、ネガティブ場面にはマイナス言葉を」ということだ。「黒字は○億円を上回る勢い」の「勢い」は「望ましい事態」について述べるプラス言葉だから胸を張ってこう言うべきだ(黒字を支持する立場の場合)。一方で「赤字は▽億円」という「望まない方向」を記述するときは「上回る勢い」という「プラス言葉」は使わない。「赤字は▽億円に及ぶ懸念」のように「及ぶ」「懸念」という「残念そうなマイナス言葉」で表現するのが一般的だ。

kou / PIXTA

アナウンサー「○市のこの夏の猛暑日は、きょうまで連続3週を突破。この天気が明日も続けば、8月の猛暑日の日数は観測史上最多を更新することとなります」

 炎暑の夏にこんなニュースが聞こえてきたら、現地の人はさぞや不愉快なことだろう(暑さを歓迎する立場ではない場合)。「最多を更新」という「威勢のよいプラス表現」は、暑さにうんざりする地域住民や、熱中症で悩まされている、深刻でネガティブな事態を耐え忍ぶ人たちから怒りを買っても仕方がない。

地元民「メディアの人は、記録更新がそんなに待ち遠しいのか?!」

 熱中症で命の危険にさらされる人々の側に立てば「プラス表現」であおりたてるのは好ましくない。「8月の猛暑日の日数は観測史上最悪となることが心配されます」と、本来は「最悪」「心配」といった「マイナス表現」を使うべき場面だ。

■「言葉の基本的性格」知って使い分け

 そもそも「最多」や「完璧」「見事に」という「プラス言葉」を「ネガティブ事態」に使うことは御法度だ。

アナウンサー「火の勢いは圧倒的で、建物の全ては完璧に、見事に焼け落ちました」。こんな言い方をすれば「お前は火災を楽しんでいるのか?」と抗議の電話が殺到してもおかしくない。

 繰り返す。「ネガティブ事態にはマイナス言葉を」なのだ。

 だから、言葉を口にする前に、それが「プラス言葉か、マイナス言葉か」を感じ取っておく必要がある。たとえば、「変化がきわだって感じられる様子、目立って」を表す言葉の「めっきり」は一般に「衰えたり減ったりする方向への変化」に使われる(必ずしも絶対のルールではない)。

 「親父は最近、めっきり老け込んだ」に違和感はないが、「最近めっきり若返った」は何だかしっくりこない。「マイナス言葉」を強引に「ポジティブ事態」につなげたからだ。反対にポジティブな意味を帯びる「めきめき」と並べてみると、ニュアンスの違いがつかみやすい。気候に関しても、「このところめっきり涼しくなりましたね」と季節が冷たい冬に向かう方向で使うことが多い。

 ある地点から別の地点へと移動する意味で使う「転々と」も「嬉々とした感じのプラスでポジティブな様子」より「マイナスでネガティブな悲しさやわびしさ」で用いられるケースが多いようだ。「全国を転々としたあげく、最終的には自首しました」という感じだ。ちょっと極端だが、「転々と」を「プラス場面」では使わないほうが無難といえる。

 「さくさく」と言えば「好評嘖々(さくさく)たるものがある」と「よい評判」のことを言う。音の響きと相まって「プラスでポジティブ場面」がぴったり来る言葉だ。反対に悪評の場合は「悪評ふんぷん」となる。

 「こだわりの逸品」や「耳障りのよい音楽」という表現に「引っかかる」と講釈をたれる中高年がいるのも「こだわり=囚(とら)われ」「障り=さしつかえ」というマイナス言葉にポジティブ言葉を強引に結びつけたことへの抵抗かもしれない。

 言葉を発するその前に「プラス言葉か、マイナス言葉か」をちょっとだけ踏みとどまって考える。そんな何でもないことが「気配り会話」に役立つかもしれない。

参考文献

「NHK ことばのハンドブック第2版」(NHK出版)/「放送研究と調査」(同)/「三省堂国語辞典」(三省堂)/「広辞苑」(岩波書店)/「不適切な日本語」(梶原しげる著、新潮新書)

※「梶原しげるの「しゃべりテク」」は木曜更新です。次回は2017年4月27日の予定です。

梶原しげる
 1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。

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