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セルフ台頭、大手に狙い

物流装置大手のダイフクは、ガソリンスタンドでおなじみの洗車機で国内シェア首位に立つ。同社の洗車機販売会社、ダイフクプラスモア(東京・港)で2年連続、販売実績トップを走るのが、埼玉営業所の藤田直介所長(40)だ。ガソリンスタンドの減少など変化する経営環境を見極めて対応する冷静さと、懐に飛び込む情熱が持ち味だ。

藤田さんは所長という肩書ではあるが、部下を育てる立場であるのと同時に、自らも自動車を運転して取引先である埼玉県内のガソリンスタンド回りを欠かさない。

入社当時は飛び込み営業をいとわず、靴底がはがれるほど通い詰めて受注を重ねてきた。個人商店の経営者を相手に6時間にわたって粘り強く交渉して、成約に結びつけたこともある。

風向きが変わったのは7年ほど前。藤田さんは「もう一歩というところで競り負けることが増えた」と振り返る。燃費の優れた車が普及したことなどを背景に、資本力が弱い個人経営のガソリンスタンドが減少、一方で数十店舗運営する大手企業によるセルフ式の大型店が台頭した。それまで洗車機購入の決定権者は兼業農家などの地主だったのが、会社員になり相手に響く中身が変わったからだ。

「会社員が欲しいのは洗車機そのものではなく、洗車機を使ったビジネスやノウハウだ」。ガソリンスタンドを取り巻く環境が変わったのにあわせて、藤田さんも営業手法を切り替えた。東京本社で法人営業をしていた上司が支店長として赴任してきたこともあり、営業の手法を一から教わった。「それまでは機種選定の決定権が誰にあるのかもわからなかった」

心がけた営業のひとつは、徹底したデータ分析だ。対象店舗の商圏に住む世帯がどのような車を持っているのか、どの程度の頻度で洗車機を使うのかなどを洗い出して提案書にまとめる。「相手が期待する以上の水準の提案をする。文章は3行以上になると読む気がなくなる」として、わかりやすい資料づくりにこだわる。それまで「1勝15敗以上だったのが、20勝1敗になった」という。

限られた時間で、相手に伝えたいことを伝えるという発想の原点は、高校卒業後に入学した吉本興業の吉本総合芸能学院(NSC)にある。藤田さんは人気お笑いコンビの品川庄司らとともに入学した東京校1期生。だが、「口がうまくないので、資料にしゃべってもらう」と笑う。

埼玉県内にあるガソリンスタンドのうち、すでに8割がセルフ式となっており、藤田さんはセルフ式を運営する大手企業に絞って営業をかける。個人商店は機械の更新までの期間が長く、すでにほかの洗車機メーカーが入り込んでいるガソリンスタンドもある。他社からの切り替えも容易ではなく、営業するうえで非効率だからだ。

藤田さんは「すべてに勝つのではなく、狙ったところで勝負する」と語る。洗車機の決定権者を見極めると、足しげく通ったり、食事やゴルフをしたりして自社製品に関心を持ってもらうように心がけている。人手不足の現場では飛び込み営業はかえって迷惑になるため、あらかじめここと決めた相手に深く入り込むように心がける。

藤田さんが最も重視しているのは「自分自身を売り込むこと」だ。洗車機の価格は平均で600万円程度。「すでに他社製品を持っている相手は耳をふさいでいる状態。高額であればあるほど決め手になるのは人間性だ」。面談する機会があっても、7割は自分のことについて話す。相手先ではアルバイトを含めて全員に声かけをして、気にとめてもらう。

営業現場で奮闘する一方で、現在は後進の育成にも汗を流す毎日。自分が教わったように、若手社員を指導して、成長していく様子を見守るのが藤田さんの今の一番のやりがいだ。

(世瀬周一郎)

 ふじた・なおすけ 2002年ダイフクユニックス(現ダイフクプラスモア)入社。一貫して埼玉営業所で洗車機の営業を担当している。
[日経産業新聞2016年6月9日付]

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