「変わりたいけど変われない」を変える動機づけ法

xiangtao / PIXTA
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「過剰な飲酒はやめたいけど、やめられない」

「甘いものを控えろと医師に言われ、やめたいけどやめられない(これは私)」

「スマホチェックで時間を浪費したくないけど、やめられない(これも私)」

「断りたいけど、嫌われるのではと断れない優柔不断な自分を変えたい(私も)」

「変わりたいけど変われない」という問題が「一つもない」という人はむしろ珍しい。そういう「変わりたいけど変われない人」にピッタリな「講義」を先日、聞いた。

「怪しいセミナー」ではない。私が役員を務める「日本カウンセリング学会東京支部」が主催する勉強会で講師をお願いした、筑波大学の沢宮容子先生のお話がまさしく「それ」だった。テーマは、最近注目される「動機付け面接」だ。

「動機付け面接」とは、アメリカの2人の学者によって創始された「MOTIVATIONAL INTERVIEWING(モチベーションインタビュー)」の日本語訳。一般的には「MI」と呼ばれ、「変わりたいけど変われない」の代表的なケース「飲酒、ドラッグ、ギャンブルなどの依存症治療」から始まって、現在では「変わりたいけど変われない」に関する「ほぼ、あらゆる症状」に有効だとみられ、多くの国で成果を上げているらしい。

「らしい」というのは、私は全くの素人で知識ゼロだからだ。「動機付け面接」の専門家からのおしかりや嘲笑を覚悟しつつ勝手に書き進める。「正しい知識」はぜひとも専門書でご確認いただきたい。

先生の話をうかがい、私は「これを一般コミュニケーションに活用したい!」と、強引に「職場設定」に場面を置き換えてしまった。「変われないと苦しむ人」が「動機付け面接」とつながり、「救われる」きっかけにでもなればと思ったからだ。

20代後半の男性社員A君。最近の若者には珍しくヘビースモーカー。仕事中もデスクを離れ喫煙室に行くことがある。そんなときに限って得意先から彼あての電話があり、代わりに応対しなくてはならない女性社員から「何とかしてください」と迫られる40代のB課長は弱っていた。

課長としては、A君に喫煙者から非喫煙者に「変化」してもらうのが一番だ。しかし、仕事中さほど頻繁でなければ喫煙室使用は社内規定に違反しているわけではない。「たばこやめろ」とも言いにくい。

B課長「彼にたばこをやめさせる……難しいなあ」

押しつけや「上から」を避けて自発的意思を引き出す

MIは「指示的コミュニケーション」を勧めない。「やめられないか?」というような、イエスかノーかで答えざるを得ない「閉じられた質問」は拒否や反発を招き、むしろ喫煙活動を促進するおそれがある。白黒、是非を迫らない「開かれた質問」を強く推奨している。

MIでは穏やかな共感的態度で会話が進む。「仕事が一段落したときのたばこってどんな感じかな」。こんなさりげない問いから全てが始まる。

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この問いの「語尾を上げない」のは「大きなポイント」だ。「たかが語尾」ではない。語尾上げは「質問」ないしは「詰問」と受け取られ、問われた相手をかたくなにし、「変化のチャンス」を逃してしまうという(そもそもやたら語尾を上げるのは「下品」だというのは私の感想)。

私が今回参考にした書籍のうち「矯正職員のための動機付け面接」(公益財団法人矯正協会、2017年)付録のDVDでも「語尾上げ会話」はほぼ登場しない。

このさりげない、配慮たっぷりなB課長の一言がA君の「変化のチャンス」を引き出した!

A「すえる場所がどんどん減って、やめたい気持ちもありますが、すったあとは仕事がはかどるんですよね」

「すったら(仕事が)はかどるからやめない」と、「変化を嫌う現状維持コメント」とともに「やめたい気持ちもある」と「変化したい気持ち(MIではチェンジトークと呼ばれる)」が表明された!

A君が口にしたこのような「変化への兆し」を極めて大事なものとして扱うのもポイントだ。交わす会話から引き出した「チェンジトーク」を「育てる工夫」が繰り返される。

沢宮先生によれば「変化したい」という「チェンジトーク」が出たら「大きくうなずく」ようにし、「変化したくない(維持トーク)」には「うなずかない」のが原則だという。「うなずきには巨大な力がある。うなずきで人をコントロールすることさえできる」。へらへらうなずけばよいということではないらしい。

「やめたい」「でも、やめられない」という葛藤から、「やめたい」という「チェンジトーク」を増やす方向に「共感のシグナル、共感のコメント」をさりげなく添えていく。この作業を「聞き返し」と呼ぶ。単純な「オウム返し的な聞き返し」もあれば、こんな「複雑な聞き返し」を挟み込むことがより「好ましい変化」を生み出すことになる。

いつの間にか進んで「変化」を決断する流れに

B課長「奥さんやお子さん、たばこ臭くない君が帰宅すると、どんな感じだろうね」

「開かれた質問」でA君の思考はさらに深まり、非喫煙という変化への流れが加速する。2人の会話も「チェンジトーク」が「維持トーク」を量的に上回ったら最後の「要約」で、めでたく終了。「変化」をもたらすきっかけとなった最初のチェンジトークはこれだった。

A「すえる場所がどんどん減っているし『やめたい気持ち』もありますが、すったあとは、仕事がはかどる(から『やめたくない』)んですよね」

「やめたい」と「やめたくない」という相反する気持ちを述べる形ながら「やめたい気持ちがある」という「チェンジトーク」を引き出せた瞬間、「A君の変化への動機付け」が一気に深まった。ここで安心して「やめたい気持ちもあるけれど、すったあとは仕事もはかどるんですよね」と要約したら台なしだ。

「聞き返しも、ましてや終了の要約では、相手が話した順番にこだわらず、先に『維持トーク(変えたくない気持ち)』、後に『チェンジトーク(変わりたい気持ち)』を原則にする。人は、後に言われた言葉のほうに強く反応するからです」。沢宮先生はこう言って、さらに続けた。

「変化のためには、2つの相反する気持ちの順番と同じぐらい、2つを結ぶ『接続詞』も重要なんです。BUT(しかし)ではなくAND(そして・その一方で)を使う。維持トークも、チェンジトークも相手が発した大事な言葉。BUTで「しかし」と「一方を否定する言い方」はさけること。ANDは一般的には「そして」ですが、「一方で」「それと同時に」と「並列感」を強める表現を使います」

すなわち要約はこうだ。

B課長「すったあとは(仕事が)はかどる。その一方で会社の仲間、妻や子供のことを考えればやめたい気持ちもあると、(君は)考えている(語尾上げない)」

A君に「変化へのモチベーション」をもたらした「かもしれない」動機付け面接。日常場面でも試す価値はありそうだ。

[参考資料] 「動機づけ面接法の適用を拡大する」(ハル・アーコウィッツほか編、星和書店)、「方法としての動機づけ面接」(原井宏明著、岩崎学術出版社)、「矯正職員のための動機付け面接」(公益財団法人矯正協会、2017年)

※「梶原しげるの「しゃべりテク」」は木曜更新です。次回は2017年3月30日の予定です。

梶原しげる
 1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーになる。92年からフリーになり、司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員を担当。著書に『すべらない敬語』など。最新刊に『まずは「ドジな話」をしなさい』(サンマーク出版)がある。

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