世界一牛肉を食べる国 ウルグアイの豪快サンドイッチ
肉食ブームが続いている。ネットには、何百グラムものステーキやローストビーフをてんこ盛りにした丼物などの写真があふれているが、そんな肉食ラバーたちがこぞってインスタグラムに上げそうなボリュームたっぷりの"肉食サンドイッチ"が南米にある。
ウルグアイ名物の「チビート」だ。
チビートとは、パンに牛ステーキのほか、ハム、ベーコン、モッツァレラチーズ、レタス、トマト、卵をはさみ、マヨネーズで味付けしたサンドイッチ。「諸説ありますが、今年はチビートが誕生してから90周年に当たると言われているんですよ」と説明してくれたのは、ウルグアイ大使館領事フェルナンド・ペレダさんだ。「多くの観光客が訪れる隣国アルゼンチンにもあるサンドイッチですが、発祥の地はウルグアイなんです」
ペレダさんが教えてくれた言い伝えはこうだ。ある観光客が閉店間際のウルグアイのレストランを訪れ「サンドイッチをお願い」とオーダーした。店主は「もう料理は出せないよ」と言ったが、その客は重ねて「そこにつないである子山羊を料理してよ」と冗談めかしてリクエストしたという。そこで、店主がかわいそうに思って頭をひねり席に運んだのが、牛ステーキを使ったサンドイッチだった。客は「これは、"チビート"(子山羊の意味)サンドイッチね!」と大喜び。翌日からは「私にもチビートをくれ」という客がその店に殺到したのだそうだ。
今では専門店もある全国的な名物料理で、パンを除くチビートの材料を、ポテトフライ、ポテトサラダなどと一緒に大皿に盛りつけた料理もチビートと呼ばれるなど、様々なバリエーションがあるそうだ。
ウルグアイの国土面積は日本の約半分、人口は約350万人と小さな国だ。「でも近年、ウルグアイは、国民1人当たりの牛肉消費量で世界一になったんですよ」(ペレダさん)と言うほど、赤身を中心に肉の消費量が多い。ウルグアイ人1人当たりの牛肉の平均年間消費量は約60キロ。日本人は同5.8キロ(農林水産省2015年度概算)だから、どんなに肉食ブームでも遠く及ばない。
そんなウルグアイで愛されているのが「アサード」と呼ばれる牛肉のバーベキュー。様々な部位を焼くが、欠かせないのが骨付のあばら肉。「それも、特殊な方法でさばかれた肉なんです。あばら骨に沿ってさばくのではなく縦方向にさばくので、ひとつの塊の中に骨周りの部分が多くなり、おいしい箇所が存分に味わえるんですよ。ウルグアイのほか、アルゼンチンやブラジル南部特有のさばき方なんです」(ペレダさん)。
アルゼンチンのような炭火ではなく、薪火で焼かれるため木の香りが肉に移るのもウルグアイのアサードの特徴。戸建ての家に住む人が多いウグルアイでは、レストランだけでなく、家庭にもアサードのための調理器具があり、週末など豪快にバーベキューを楽しむのだそうだ。
残念ながら、現在東京にウルグアイ料理のレストランはない。ところが、同国に近いパラグアイのレストランに入ったところ、ペレダさんが見せてくれたウルグアイの料理本で見かけた肉料理があった。「ミラネーザ」だ。
移民の多い南米各国に見られるイタリア料理の影響を受けたカツレツで、ウルグアイでもポピュラーな一品。メニューにあったのは「ミラネーザ・ナポリターナ」と呼ばれる、カツレツにトマトソースととろとろに溶けたチーズをかけたもの。鶏肉などを使ったものもあるらしいが、いただいたのは牛肉のカツレツだ。
もともとはイタリア北部ミラノ発祥の料理で薄くたたき伸ばした子牛肉を使うが、この店のカツレツはボリューム感たっぷり。「ウルグアイのミラネーザの肉はしっかり厚みがあります」というペレダさんの言葉を思い出した。
細かなパン粉をまぶして揚げてあり、カリッとした衣の中に肉汁が閉じ込められている。上にかかったトマトソースの酸味とまろやかなチーズが合わさり、さっぱりといただけた。
ウルグアイと言えば、「世界で最も貧しい大統領」であったムヒカ元大統領の名前がよく知られている。ムヒカ氏の話をペレダさんに聞くと「実は以前、私の家族が、あるレストランでランチをしていた時、ムヒカ大統領が現れたんです。たまたま、家族のテーブルに空いた席があったので『こちらへどうぞ』と誘うと、彼は気軽にそこに座り一緒にランチを楽しんだそうです。決まったレストラン行くのではなく、毎日違った店に行き、ウルグアイの人々と交流をしていたそうですよ」。そのお腹にはチビートからミラネーザまで実に様々なウルグアイの肉料理が収まったに違いない。
(フリーライター メレンダ千春)
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